第15話「王都からの招聘状!? レオン、ついに中央進出?」
「……え、王都から?」
朝の報告で、俺は思わずパンを噴き出した。
ティナが持っていたのは、見慣れない“封蝋付きの書状”だった。
「正確には“地方改革特使団”からの正式な招聘状です。
フェルネ村の取り組みが、王都の耳に入ったようですね」
「なんでそんなインテリっぽい団体が、うちに?」
「“村単位での税制・教育・防衛改革を同時に進めた事例”は、王国史上初だそうで」
「Excelで全部仕組んだだけなんだけど……」
書状にはこう書かれていた:
《貴殿の地域施政および成果は、中央機構において高く評価されました。
よって、本王国学術院ならびに宮内行政局にて、その実例を報告していただきたく、
王都への招聘を要請します。》
「……要するに、プレゼンしに来いってこと?」
「そうなりますね。あと、“今後の行政に携わる可能性も検討”と書いてあります」
「出世フラグ来た……!」
準備は念入りに行った。
アリシアはExcelの帳票をパネルに拡大し、
ティナは過去の出来事と数字を年表化し、
俺は「レオン式 村づくりの方程式」なる資料をまとめた。
「これ、“村作りに使えるExcelテンプレ”って意味で?」
「そう。“1. 目的設定 → 2. 数値化 → 3. 課題化 → 4. 分配と共有 → 5. フィードバック”」
「意識高い……けど、村で普通に使ってるやつですね」
そして出発当日。村人総出で見送ってくれた。
「レオン様、王都に行っても“Excel脳”でがんばってくださいね!」
「お土産は王都のパンがいいな!」
「ティナ様にくれぐれも迷惑をかけないように!」
「……お前ら、俺の扱いが雑じゃないか!?」
「“安心感”ってことです、レオン様」
王都は、フェルネ村とはまるで別世界だった。
石畳の道。輝く建物。きらびやかな人々。
そして、目を見張るほど巨大な宮廷図書館──その一室に、俺は通された。
「レオン=ミナト殿ですね。我々は“中央行政刷新委員会”──
本日は貴殿の取り組みについて、詳細を伺いたく参りました」
眼鏡をかけた中年の男が言う。その隣には、
美しいドレスを着た少女が──どこか、見覚えのある顔だ。
「レオン様、あちらの方は……」
「……え?」
その瞬間、彼女と目が合った。
「お久しぶりです、“先生”。忘れましたか?」
「……アメリア!? 王国学術院の“学生”だったの!?」
実は、数ヶ月前。村の祭りに視察に来ていた貴族の娘が、
こっそり俺の“講義”を見学しに来ていたのだ。
そして、“数値化することで村が変わる”とメモを取っていた少女──それがアメリアだった。
「私は、あなたの考え方に衝撃を受けたんです。
“数値と仕組み”で人は変われるって、実証して見せた貴方に──」
「……うん、たぶん俺、なんかやったんだろうな……」
プレゼンは順調に進んだ。
フェルネ村の税制改革、教育の標準化、防衛の地域協力──
そして、何より「Excelのような仕組みの可視化」が、思った以上にウケた。
「素晴らしい。仕組みがあるから、属人化しない。
誰がやっても、同じ成果を出せる。それが“制度”というものだ」
「この“数式風の思考法”、王都の他の村にも導入すべきですな!」
そして最後に、一通の打診があった。
「レオン殿。今後、“地方開発庁顧問”として、
全国の村や都市へ知見を伝える役目を引き受けてはいただけませんか?」
「……は?」
「わかりやすく言えば、“村づくりコンサルタント”です。
貴方の経験を、他の村の未来に生かしてほしい」
──悩んだ。
俺はフェルネ村の領主で、行政で、Excel脳の発明者(自称)だ。
でも、それ以上に、“この村が好き”だった。
だからこそ、答えは──
「わかりました。週3日、出張なら可能です。ただし、残り4日は“村”にいます」
「……レオン様、それ“働き方改革”ですね」
「俺、絶対“過労死”したくないからな!」
帰り道。
夜の馬車の中、ティナがぽつりとつぶやいた。
「王都の人たち、レオン様のこと“すごい”って言ってましたね」
「まあ、仕組みだけはね」
「……いえ。私は、“人を信じて任せたレオン様”の方がすごいと思ってます」
「……ありがとな。これからも、そうやって言ってくれよな」
「もちろんです。“仕組み”だけじゃ、村は動きませんから」
ノートにはこう記した。
■王都招聘:成功
・評価項目:可視化行政・地域教育・非戦防衛
・副産物:中央と人的ネットワーク確立
・今後:週3で地方支援の顧問業務開始
・注意点:過労死防止のための休養日確保
フェルネ村は、もう“孤立した村”じゃない。
他の村と、中央と、つながって、“次のステージ”に行くんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます