第3話 俺、木剣で筋肉痛になった

「……う、いてて……」


翌朝、目が覚めた瞬間、全身の筋肉がきしんだ。特に、太ももと背中、あと右肩。 木剣を振っただけでこの有様とは、俺の筋肉もう少し気張ってくれよ。


「よく寝れたか、クロスケ?」


朝の光の中、ラウルがニコニコしながら声をかけてくる。

その笑顔がまた眩しい。太陽かよ。


「寝れたけど……絶賛筋肉が反乱を起こしてるわ」


「おう、それはいい証拠だ。ちゃんと鍛えられてるってことだ」


まるで体育教師だなこの人。


今日も昨日と同じ空き地で訓練が始まった。木剣を握る手には、すでに軽いマメができている。朝からそんな自分にしみじみしてたら、ラウルが俺の前に立った。


「今日は実戦形式でやってみるか」


「え、もう実戦?」


「とはいえ模擬戦だ。手加減はしてやる」


……いや、手加減で済む話じゃないんだが。


木剣と木剣がぶつかる。ラウルは全く力を入れていないのに、俺の手はしびれて、剣を落としかけた。


「腕の力に頼るな。腰を入れろ、腰だ」


「腰……って、あああ痛い!」


そのあとも何度も転がされ、泥まみれになった俺にラウルがにこやかに言った。


「お前、素質はある。あとは数こなせ」


誉めてんのか、それ。


昼、休憩中にラウルが村の地図らしきものを見せてくれた。

手書きで、しかも羊皮紙っぽいそれは、地図というより“味のある落書き”だった。


「ここがハーラン。こっちがレーヴェン。ギルドがあるのは、レーヴェンの中心だ」


「このマーク……剣と盾のマーク、かっこいいな」


「冒険者ギルドの印だ。あそこに登録すれば、依頼が受けられる」


「依頼って、魔物退治だけじゃないんだよな?」


「ああ。薬草採り、護衛、時には手紙の配達なんてのもある」


「……あれ、意外と地味なのも多いんだな」


「お前にはそっちのほうが向いてるかもな」


いや否定はしないけどさ。


その日の午後、村の奥の畑で騒ぎが起きた。

子どもが何かに驚いて叫んでいる。


「モコが逃げたー!」


「モコ?」


「飼ってる草豚だ。けっこう足が速いんだ」


え、草豚?


よく見ると、もっさりした草色の毛をまとったブタ……のような生物が走っている。いや速い、ブタのくせに!


「クロスケ、回り込め!」


「む、無理だろ早すぎる!」


結局、村人総出でモコを囲み、なんとか捕獲成功。

俺はというと、顔から突っ込んで泥だらけ。


「はは、見事なスライディングだったな」


「昔から運動は苦手なんだよ……」


笑いが村に広がって、俺もつられて笑った。


──こういうの、悪くない。


夜、宿に戻ってから、もう一度ステータスを開いてみた。


━━━━━━━━━━━━━━

 Name:黒栖 慧

 Age:17

 Class:無

 Level:1

 HP:100/100

 MP:500/500

 Skills:無

━━━━━━━━━━━━━━


──うん、変化なし。


でも、なんとなくこの画面に向かって話しかけてしまうのは、もう慣れの一部なのかもしれない。


「……ミミ、元気にしてるかな」


小さく呟いたその言葉は、木の天井に吸い込まれていった。


明日はいよいよ、馬車が来る日だ。

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