第2話

 ただ幸いなことに、母も次第にルイーゼに関わらなくなっていった。

 三歳年下の妹アニーが、早くに魔力を発現したからだ。母はルイーゼのことを忘れ、アニーへの教育にのめり込んでいった。


「アニーは本当に素晴らしいわ! 天才よ! きっと聖女と呼ばれることになるわ」

「ありがとうございます。私、きっと聖女になりますわ」


 アニーは母の期待に見事に応えていった。それと同時にアニーはルイーゼを馬鹿にするようになっていった。


(小さい頃はお姉様って慕ってくれていたのに)


 アニーは毎日の鍛錬でのストレスを発散するようにルイーゼに突っかかった。

 魔法の練習台として怪我をさせられたこともある。

 ルイーゼに火傷や凍傷を負わせても、誰もアニーを咎めない。それどころか魔法の出来の良さを褒めるのだ。


「ルイーゼは攻撃魔法も使えるようになってきたな」

「さすが私達の娘ね!」

「うふふっ、まだまだですわ。もっと頑張ります!」


 アニーが十五歳になる頃には、魔法の中でも難易度の高い治癒魔法を習得していた。かすり傷を治す程度だったが、アンダーソン家はアニーの快挙に大喜びだった。


 父は褒美としてアニーに高価な宝石やドレスを買い与えた。


「アニーは我が家の誇りだ。いずれ当主となる。それに相応しい格好が必要だからな」

「お父様! ありがとうございます。ふふふっ、お母様、似合いますか?」

「まぁ、とっても良く似合うわアニー。白い肌には品格ある大粒の宝石が映えるわね。王族も霞むほどよ!」

「うふふっ」


 家族が楽しく団らんしている時、ルイーゼはそれを見つめることすら許されない。

 楽しそうな笑い声を聞きながら、窓を拭き、床を磨くのだった。


「お父様ぁ。このネックレス、とっても素敵です。今度のパーティーが楽しみ! この間買ってもらったドレスと合わせてみたいわ!」

「アニーにはオレンジがよく似合うからな。自慢の我が娘だ」

「ふふふっ、ありがとうございます!」


 アニーは部屋の真ん中でアクセサリーを手に取り、目をキラキラ輝かせた。父も母も顔をほころばせている。

 

 部屋の隅で掃除をするルイーゼのことなど視界に入っていないのだろう。

 ルイーゼは家族だったはずの三人をぼんやりと見つめた。


(綺麗……)


 それはほんの数秒の出来事だった。

 けれど、アニーはハッとしたようにルイーゼを指さした。


「お父様、ルイーゼがこちらを見ているわ! 私、アレに見つめられると気分が悪くなるの」


 ルイーゼはすぐさま顔を逸らし、掃除を再開する。

 しかし、父は見逃してはくれなかった。


 凄まじい顔でルイーゼに詰め寄ると、そのまま突き飛ばした。


「あっ……!」

「おいっ! 何をサボってるんだ! 無能なお前をタダで置いてやっているんだ。死ぬ気で働いて我が家に尽くすのが当然だろう?」

「はい……申し訳ありません」


 ルイーゼは床に這いつくばったまま頭を下げた。


「罰として門の修繕を命ずる! 開閉の時に軋むのを何とかしておけ! 今日中にだ」

「きょ、今日は大雨ですが……」

「それが何だ? 口答えするのか?」


 父が苛立ったようにルイーゼを睨みつける。

 その様子を見てアニーはクスクスと笑っていた。


「ふふふっ。お姉様ったら、そんな簡単な仕事ならすぐに出来るでしょう? あぁ、お姉様には無理かしら。お母様のお腹の中に魔力を置いてきてしまったものね」

「本当に情けない子」


 アニーと母に蔑まれルイーゼは身体を縮こませる。

 この二人がルイーゼに話しかけると、父の怒りが増長するからだ。


 案の定、父はルイーゼの足を踏みつけた。


「さっさと行け! 修繕できるまで部屋に戻るな!」

「は、はい……! すぐに修繕してきます」


 ルイーゼは痛む足を抑えて立ち上がると、急いで屋敷の外に出たのだった。

 

(仕方がないわ。だって私は無能なんだもの……)


 ルイーゼは自分を納得させながら、雨の中で必死に門の修繕を行った。

 アンダーソン家に生まれながら、魔法が使えない自分が悪いのだと――。




◇◇◇



 気がつくと、辺りは真っ暗だった。

 夜中まで玄関ホールで倒れていたようだ。


 ルイーゼは痛む身体を引き摺りながら、自室へと戻るのだった。





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