第14話 女神は戦闘力たったの1………か

※ここまで第一部という感じで




 イカ臭い教会がきれいになって、ユリの教会服の汚れも落ちて、ついでにイリスの汗臭い下着も驚きの白さに。なお、元から色はだいたい白かった。

 魔法を使えば、土ぼこりとかラトルがぶちまける滝のような小便のしぶきとか魔物の体液がつかないようにコーティング出来るらしい。くっ、ファンタジー万歳。

 しかし、コーティングしたのになぜ汗びっしょりなのか不思議だった。


「あの時は少しでも自分の魔力を温存したかったのだ。騎士団長にはそれだけの責任があるからな」

「俺様を騙して拉致した奴の台詞なのか、今のは」

「ミュー様を騙すのも騎士団長の責任のうちだ。失敗したら死んで詫びるつもりだった」

「失敗したら詫びる相手も死んでるよな?」


 まぁ失敗するとは思っていなかったが。

 未だに女神の力ってのはよく分かっていないけど、神なんだから強いはず。天から落ちてもケガしないし。

 だいたい、イリスは俺を盗賊と一緒に縛り上げた奴だ。そんな騎士団長を信用するわけがない。ほいほいついていった俺は、騙されてすらいなかったのだ。


 イリスの魔力は、魔物の運搬ですっからかんになった。自分の身体を光らせて浄化魔法を使ったから、もう多少は回復しているようだが。

 浄化といえば、さっき脱がされた岩男Tシャツにも、どうやら浄化の作用がある。信じられないことだが、あれは本当に神様だったらしい。

 そして脱がされたままの俺は、しばらく巨大ブラでたゆんたゆんさせていたが、二人に咎められやむなく別のTシャツを着た。


「ほほう、今度は魔物か?」

「失礼なことを言うな。ノージョ様だ」


 新しいTシャツにも、なぜか神様っぽい絵が描かれている。ノージョ様という名前もなぜか浮かんだが、何者なのかは分からない。女神様の作り物に勝手に干渉するとは、大いなる意志を感じる。言ってみただけである。

 Tシャツは、例によって「着たいなぁ」と思ったら着ていた。とてつもなくファンタジーで、目撃者が腰を抜かすと思ったのに、イリスとユリの反応は鈍い。

 魔法だらけの世界では、自動で着替えさせる魔道具が普通にあるという。ズボラ過ぎてファンタジー感がなくなったじゃないか。



「ところでミュー様。どういうわけか自分の魔力が上がっているのだ」


 俺様の尊いモミモミを浄化しやがったイリスが、右手に何かが封印されていたかのようにじっと見つめながら質問する。そのポーズはいらないだろ。


「マズいのか?」

「いや、とてもいいことなのだが、これも貴方様のお力なのか?」

「俺は何もしてないぞ」


 騎士団長は、都合のいい時は殊勝な態度をとる。女性に免疫のないオッサン女神でも分かる。

 そう。お前のような腹黒女をわざわざ強化するバカはいない。強くなったらきっと俺に牙を向けるだろうし。

 もちろん女神様はまあまあ強い。それは何となく分かってきたけど、イリスが他の神と組んで襲撃する未来は常に想定…しなくていいか。大いなる意志とか、対策のやりようもないわけで。


「ユリ…も、かなりの魔法使いとお見受けした」

「ええっ!? わ、私は魔法なんて使えません」

「え?」

「え?」


 目の前でコントするなよ、寂しいだろ。

 ユリが魔法使いじゃないことは、同じ屋根の下で暮らしている俺が一番よく知っている。一晩しか一緒じゃないから、一番ではない可能性もあるが。

 しかし、イリスには他人の魔力量がある程度見えるらしく、それで言えば今のユリは上級魔法使いに届くレベルだという。


「俺だけ会話に入れないとは…。そうだ、女神なんだからアレ出来るだろ。魔法力たったの1か、ゴミめ」

「何を言ってるのか分からないが、お前はゴミゴミばかり言ってるな」


 出来ろ出来ろ…と念じてみたら、出来たぜ。さすが女神だ。

 どれどれ…。


「い、いきなり見つめるなミュー様。て、照れるだろ」

「脳みそ沸いてんのかイリス。そして着脱式魔道具なんて格好悪い、やはり片眼が変な色に光ってこの世のすべてを見通すのが男の浪漫ってやつだ」

「女神様が男の浪漫を語らないでくれ」


 下々の者たちの囀りを無視して、新しい眼の力を確認する。

 イリスに視線を向けると、脳内に数字の並んだ表となぜか棒グラフが出てきた。まるで夏休みの自由研究のようだ。


「イリスの魔力は140、体内保有量は28250、グラフは十種類すべて標準以上…と。見方がよく分からないがたぶん優秀だな」

「ちょちょちょちょっと待て! なんだ今の数字は!」

「なんだって、俺の封印せし魔眼はすべてを見通すのだ。いいかイリス、年齢21歳、身長175cm、体重67kg、スリーサイズは上から…」

「やめろバカ! 貴様も同じ女なら少しは配慮しろ!」

「えー、女じゃなくて女神だからむーりー」


 ウエストが75って、こんなに細いんだなぁと感心したのは口に出さないでおく。

 断片的に浮かんでくる俺の過去で、生身の女性と触れあった形跡はない。きっと65cmはデブと思っていたに違いない。


 イリスの話によると、魔力などの数値は一応各国共通で決められているという。なんかの石に含まれる魔力を1とするそうで、才能がありそうな者は測定してもらえるそうだ。

 で。

 イリスが最近測ってもらった時の数値は魔力90、体内魔力量12000。これは王国で上位十人以内に入る数値だった模様。


「そんなに上がるとは、にわかに信じられないが…」

「俺の見た数字が同じ単位とは限らないだろ。そんなことよりユリだ」

「見ないでください。妊娠してしまいそうです」

「むしろ喜べ、生まれた子が教祖様になるぞ……と。ユリの魔力は85、体内魔力量が8800、グラフは標準以上がたったの3か。ゴミめ」

「ひどいです」

「というか今の数字が本当なら、ユリは魔法管理局預りだが」

「豚箱行きなのか」


 イリスの話では、中級の魔法使いは魔力70で魔力量5000前後。第三騎士団のバカたちも、あれでもエリートなので全員が中級程度ではあるそうだが、彼らよりユリの方が素質があるわけだ。

 もちろんユリはまったく魔法を知らないから、勉強しなければダメ。


「わ、私にはこの教会を守る使命が…」

「まぁそうだろう。今まで客もいない教会でスローライフを満喫してきた女が、生き馬の目を抜く魔境に放り込まれて勉強漬けの毎日をおくるなんて冗談じゃない。俺だって秒で断わる」

「ミュー様はそんなに学校に嫌な思い出があったのか」

「あったな、恐らく」


 残念ながら自分が何者だったのかは、きれいに記憶から抹消されている。

 わりとチートな女神様なのにそこだけはどうにもならない。俺以上の神…たぶん俺に押しつけて逃げた元のミューのしわざだろう。



「ところでミュー様、一つ聞いてもいいだろうか」

「敬意のかけらもないくせに、いつまでもミュー様呼びはやめろ。で、なんだイリス」

「お前の数値を教えてくれ」

「ほう。………いいのか、お前たちは深淵を覗くことになるが」

「くっ、わ、私は第三騎士団を預る身、そのような卑劣な脅しには屈しない!」

「お二人とも何言ってるのでしょうか」


 ユリは冷静にツッコミ入れるな。やってみたかったんだよ、イリスは。

 とは言え、すぐに自分の命を投げ出そうとするのはイリスの悪い癖だ。リアル「くっころ」は世の迷惑だから、これからは俺以外やってはいけないことにしよう。


「うむ。俺の魔力は不明、体内魔力量も不明、グラフはよく分からないが天井を突き抜けているから適性はある。身長182cm、体重70kgって軽すぎだろう」

「普通の女子は重すぎと言うはずだが」

「そうか? イリスより3kg重いならそんなものか」

「お前、その数字を次に口にしたら殺す」

「なんだ照れてるのか? 鍛えた身体は重くなるのが当たり前だろ。お前はタッパもあるし、世のムキムキ好きが黙っていないはずだ」

「そんな奴がいないからいき遅れたのだ私は…」


 なんだか分からないがイリスがしょげてしまった。

 21歳の騎士団長なんていう超エリートが、相手が見つからなくて焦る必要なんてないだろうに。

 痣が取れてみれば、ちょっときつめの美人さんでいい身体してるし魔法の才能もあるし部下の信頼も厚い。数ヶ月前と同じ条件に戻っただけともいうが、俺に言わせりゃとんでもない優良物件だ。


「まあなんだ、困ったら俺がもらってやるぞ。女神はどうせ結婚できねぇから、いき遅れ仲間だ」

「……………」


 ユリが「なんて不埒な」とつぶやいたのは聞かなかったことにする。お前もいき遅れ仲間だろうに。





 そうして騒がしい二日間も終わり、格好いいスローライフの日々が始まった。


 始まった!?


「はじめましてミュー様。ラビオカ王国第二王女ミラと申します。この世の最高神にして王国の救いの女神様にお逢いできて光栄でございます」

「あ、そう」


 イリス、貴様は有能だなぁ。我が心のスローライフはどこへ?

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