隠れ宿
Rie
― 檸檬色の夢 ―
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湯けむりの向こうで
あなたはまだ、
指をほどけずにいる
時計のない部屋
時間だけが 嘘をつかない
宿帳には
ふたつの偽名
重ねたふとんに
名前を刻めない私たち
畳の香に
なぜか懐かしさを感じたのは
たぶん、
あなたが どこかで
帰り道を 捨ててきたから
—誰にも見つからないように
そう言いながら
いちばん見てほしい顔を
私は あなたに向けていた
ねぇ
この夜が朝になっても
私はあなたの奥さんにはならない
でも
どんな未来でも
あなたの一瞬にはなれると思った
終わりを知って
はじまりを愛した
こんなに美しい間違いが
この世にあるでしょうか
ふたりぶんの嘘が
湯気になって昇ってゆく
ほんのりと
檸檬の香るシーツに
儚い夢を しみこませて
おやすみ
もうすぐ、
朝が来るわ
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隠れ宿 Rie @riyeandtea
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