第8話

「せんせー!お久しぶりです!」

 あばら屋のドアが開く。懐かしい声が響いた。学生時代より大人になった声だ。

「やっと見つけましたよ~、元気でしたか?」

 家主の返事も待たずにズカズカと上がり込んでくる様は、部室に入り浸っていた時と何ら変わりない。

「何年振りですかね?わたし、あの時のお姉よりも年上になっちゃいましたよ、せんせー」

 言われて、せんせーと呼ばれた男は彼女の姉を思い出した。お淑やかで物静かで、最後まで『せんせー』のことを信じていた。

「覚えてますか?覚えてますよね?忘れたふりしてもとぼけても許してませんよ」

 その男はもちろん全員しっかり覚えていた。あの素晴らしく官能的なひと時を。今でも彼の夢に出てくる。彼女の姉、妹たち、弟くん、おかあさん。

「名前も住所も取り換えたって絶対に逃がさないわたしの家族の仇」

 彼女は牛刀を取り出し、元顧問のみぞおちにずぶりと突き刺した。

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