《カドカワ長編コンテスト中間選考突破》追放魔術師と欠陥魔法使い、伝統主義社会を破壊する。後ついでに世界を救う。

アヴリル

第0章 二人の少女

プロローグ

 魔法とは神が選ばれた者にのみ与えた祝福である。魔法を持つ者は持たぬ者を支配することが許される、そんな言葉がまかり通る時代。人と魔が交わっている歪みの時代。

 そんな時代だからであろうか。運命が、自らが編んでしまった世界を壊すため彼女達を選んだのは。



 真暦1×66年、人類統一王国の中心都市王都より南東部にある大きな田舎町。大勢の人々でごった返す中、二人の少女は商店が並ぶ道を歩いていた。

 1人は右手に青縁の黒い鉄カバンを持ち、蒼いメッシュが入った黒髪のショートヘアに黒い革コートを身に着けた少女。

 もう一人は桃色の髪をポニーテールに纏め、彼女達の国で最も格式高い魔法女子学園の白い制服を着た少女。


「シンシア。あんまりきょろきょろしないでよ。どこに監視の目があるか分かんないんだ、こんなところでバレたら水の泡だよ」

「ああ、ごめんミストちゃん!なんか普通に栄えていたからさ……ちょっと想像してたような場所とは違って……」

「まぁ、それに関しては私もなんとなく違和感を持ってるけどさ。……ちょうどいい、少し情報収集がてらあの店に入るよ」


 二人の少女、ミストとシンシアは握手をモチーフとしているマークが描かれた看板が特徴的な店に入る。商品が来るまで店員と話すことにした


「この辺りじゃ見ない顔だと思いましたら、まさか王都の方でしたか~!こちらには観光で?」

「いえ、実はこちらの街におられる大医療魔法使い、デアベル様に会いに来たんです。」

「実はアタシ達、魔法をうまく使える体質じゃなくて……。でもデアベル様はアタシ達のような者達の治療に何度も成功してるって聞いて、藁にも縋る思いでこちらまで来たんです」

「そうだったんですか!大丈夫ですよ、デアベル様ならお嬢さん方の願いも訊いてくださるはずですよ!それに実は!この店デアベル様から食材等の援助をしていただいてるんですよ!!ほらこのマークがその証なんです!!」


 とそんな話をしている内に注文したケーキと紅茶が到着しそれを受け取る。


「それでは、ごゆっくり食べてくださいね!!」

「ありがとうございます」

「帰る時また寄りますね~!」


 ミストは店員からトレイをもらうと空いていた席に移動し着席すると彼女達は小声で話し始めた。


「………ミストちゃんどう思う?あの人シロかな?」

「………多分シロだね。目には陰りも淀みもなかった。とてもじゃないけど犯罪の片棒担がされてる人間の目には見えなかった」


 んでこっちは、とミストは液体が入っている試験管2本を取り出し、蓋を取って食事の一部を入れた。するとどんどん黒ずんでいき熱が入っていないにもかかわらずブクブクと気泡が出ていた。


「………こっちは完全に真っ黒だね。相当悪質な洗脳魔法がかけられてる。私が飲んだらとんでもないことになるな。はいこれあげる」


 危険物と判明したにもかかわらずミストはケーキをシンシアに手渡すが彼女は特に嫌がらず、おいしそうにケーキを食べていた。

 とその時コートのポケットで震えるそれに気が付いたのか、ミストは震えていたそれ、魔方陣が彫られた鉄板を取り出すと、耳元に当てる。


【………進捗はどうなっている?】

「……これからデアベル様に会って来るよ。ああ。すごく、楽しみだよ………」



 休憩後、二人は地図を頼りに大きな建物を発見する。建物にはここに来るまでにあった多くの飲食店の看板に付けられていたマークと同じオブジェが作られ、建物を覆う門付きの外壁の看板にデアベル医療魔法団と書かれてあった。

 ここで間違いない、と判断したミスト達は門番に話を行う。


「あのすみません、少しよろしいでしょうか?」

「アタシ達デアベル様の体質改善の診療を受けたいんですけど、大丈夫ですか?」

「……少々お待ちください」


 そう言うと門番は耳元に魔方陣を展開させると、どこかへと話を始める。それと共に目の模様が描かれた複数の魔方陣が後方に音もなく現れ、彼女達をねっとりと観察していた。不快感や羞恥を抱いていたが、彼女達は笑顔を崩さず気づかないふりを続ける。

 やがて話は終わったのか、門番は彼女達に話しかける。


「お待たせしてすみません、まっすぐ前に言って建物に入ってください、そこから先は案内の者がいますのでついて行ってください。どうぞ」


 門番に言う通りまっすぐ進み建物に入ると中には笑顔の男たちがおり、彼らに連れられ、ミスト達は建物の最上階、院長室と書かれた部屋に到着する。


「それでは先に、そちらのお嬢さんからお入りください」

「じゃあ、シンシア先に行って来る」

「うん行ってらっしゃい!」


 促されるままミストはドアを開け診察室に入ると、中には白衣を着た中年、デアベルの姿があった。デアベルはにこやかな笑みを浮かべながらもその目線はミストの体をちらちらと見ていた。


「よく来られましたね、美しいお嬢さん。今日は何の用事で?体質改善の治療、とは聞きましたが?」

「………私は、幼い頃から魔法を使うことはもちろん、魔力を生み出すことができません。この国では珍しい髪色も併せ、そのせいでよくいじめられていました。ですが先生ならこの体質をなおせるかもしれないと……!お願いします、どうか……!!」

「………分かりました。手と腕を見せてください」


 ミストは黒手袋とコートを脱いでノースリーブのパーカー姿になりつつ、右腕を見せる。彼女の右手には無数の切り傷や握りタコもできており、一瞬デアベルは醜い物でも見るかのように顔をしかめるが、すぐに表情を戻し、脈を取るかのように腕を触る。


「………なるほど、確かに魔力の流れが全く見られない。魔法不全者特有の体ですね。………ですがご安心ください。非公式ではありますが、私はあなたのような患者を何人も治してきました。

 直ぐに魔法を使えるようにできますよ」

「………ありがとうございます!!」

「いえいえ。それではさっそく始めていきます。ゆっくり深呼吸をしてください」


 デアベルの指示通りミストが深呼吸をしようとしたその時であった。デアベルの右人差し指が尖りながら一気に伸びミストの胸元へと突き刺さる。ミストは一瞬苦しみの表情を浮かべるがすぐに白目をむき椅子から横倒れしてしまった。

 デアベルは特にアクションを取らず、憐れむような視線を倒れるミストに向けた。


「……顔とスタイルは近年まれにみる合格点だった。………それゆえに残念だ、その醜く泥臭いその手がなければ君は私の栄えある15人目の花嫁になれただろうに。……これからは地下娼館の方で私の懐を温めてくれ。……転送魔法発動」


 後ろを向いたデアベルが呟くとミストが寝ている床に魔方陣が生まれ白く光り始め、彼女をどこかへと飛ばそうとする。

 だがその時であった。光が突然消え、ガラスが割れるかのような音が鳴り響いた。デアベルが振り返ったその時、風切り音が響きそれと同時に彼の脚に一本の線が入ると重さによってズレていき体は前に倒れ、足は両断されてしまった。

 この衝撃でやっと痛みを知覚したデアベルはやっと気が付いたのか絶叫を上げる。


「わ、私の脚ガァァァ?!なぜなぁぁぜぇぇぇぇ?!!」

「………うるせぇ。声を上げんなスケベおやじ」


 冷たく差す声が聞こえデアベルは顔を上げると、その先には本来昏倒しているはずのミストの姿があった。彼女の手にはいつの間にか握る等な形で持つ柄と柄に対して垂直に取り付けてある鋭い両刃で構成された剣が握られていた。


「な、なんで起きている?私の気絶魔法を食らったのに?!そ、それに、その剣はいつ出した?なんでその剣から魔力を感じるのだ?!お前は魔法が使えない、武器創造などできないはず!!」

「答えるわけないでしょ?あんたみたいな色ボケクソ野郎に。………ただ後者に関しては少しヒントをやるよ」


 ほらと言いつつミストは剣の柄をデアベルに見せる。その柄を見た時、デアベルは思い出す。それは彼女が持ってきていた鉄カバンの取っ手に酷似していたことに。


「………それはあのカバンが変形した武器、魔導具なのか……?!!まさかお前は……!!」

「正解だ。私は確かに魔法が使え無い。その代わり、魔法を再現し、自由に行使できる道具、魔導具を作ることができる技術師、

 魔術師だ」


 ミストの声で展開され天井に張り付いていた、鉄カバンを構成していた4枚の鉄板が動き容赦なくデアベルの体にぶつかり骨が砕け、肉がひしゃげる音を鳴らす。


「悪いけどアンタを行かして連れて来いって命令は出てない、死んでもらう。ごめんやっぱ嘘、全然悪いと思ってないわ」

「……!!ふざ、けるなぁぁぁ!!!」


 デアベルが叫ぶと彼の頭部が体から飛んで行った。そのままなら天井にぶつかって終わりだが、首の断面図から蜘蛛のような脚が生え天井に張り付いた。いきなりの様子に流石のミストも怯んでしまい、その隙にデアベルは転移魔法を発動し離脱。

 ミストは舌打ちしつつ追跡しようとするが、窓から無数の巨大な怪物が出現し街で暴れていた光景を見る。その怪物たちは服の残骸のようなものを見つけていた。


「アイツ……人間を怪物にしたのか……!面倒なことを……!」


 ミストは手持ちの剣で建物の外壁を破壊し外に飛び出した。それと同時に手元から鉄板、自分で作った通信魔導具を取り出し耳元に当て、大声で話す。


「キモ野郎が逃げたが、問題が発生して追跡はできない!!多分そっちに行ったから、後は任せたよ、

 シンシア!!」



「クソぉ!!魔法を穢す魔術師如きにィ、こんな屈辱をぉ!!」


 転送魔法を使い頭一つで逃げていたデアベルは建物の地下にある牢獄に来ていた。ここには彼が選んだ美しい女性たちが拘束されている場所である。しかし様子がおかしかった。牢屋から全く生体反応が見られないのだ。


「一体どういう………?!」

「もうここには、あなたが弄んでいいような人達はいないよ」


声があった方に視線を向けるとそこには、ミストの付き添いの桃色髪少女、シンシアの姿があった。さらによく見れば彼女の後ろには黒い軍服にを身に着けた女性達がおり、彼女達は気を失っている女性を毛布でくるみ、抱きかかえていた。


「!!それは!!私の4人目の花嫁、返せぇぇぇ!!!」


 デアベルは奇声を上げ、口を大きく開くと舌を尖らせ伸ばし軍服を着た者達を突き刺そうとする。だがシンシアはその間に入り舌による刺突を腕に受け止めた。


「!!シンシア様!!」

「いいから!!早く行ってください!!」

「っ……!!はい!!」


軍服の女性達は女性と共に転送魔法で消える。


「……さっきのメス豚と言い、今のメス軍人と言い、お前達はいったい何者だぁ?!!」

「……これを見ればわかるんじゃないの?元魔法連二等研究員のデアベルさん」


 シンシアは自分の右手の甲を前に出すと力を込めて、握りしめる。すると彼女がいつの間にか身に着けていた白い手袋の上から盾と剣が描かれた紋章が浮かび上がる。デアベルはその紋章を知っていたのか慄く。


「そ、それは……勇者紋?!神託魔法によって次代勇者候補に選ばれた者が受けることができる紋章?!ま、まさかぁぁッ?!」

「そう私もミストちゃんも選ばれた勇者候補。神様に選ばれて、人々を守る者。人々を殺す魔物や魔族、

 そして女の子を平然と不幸にする、あんたみたいな下種からね!!」

「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!!!」


 デアベルは叫びと共に体を再生させ、さらにその体を巨大化筋骨隆々にしていく。


「驚いたかぁ?!これこそ我が改造魔法の極致!!だがまだだ!!この姿になった私の魔力量は一時的に大魔法使いの5倍!!誰も相手にならぬわぁ!!」


 デアベルが叫ぶと共に体の周りから多量の魔方陣が生まれ、そこから赤黒い肉の触手が伸びシンシアを捕らえようとするが、シンシアは躱し、躱しきれない触手に関しては指から生み出し伸ばした赤金色の魔力刃で切り裂いていくのであった。


「やるなぁ!!だが我が触手は無尽蔵いくらでもいくらでもある!!………私の幸福を奪いとった貴様は必ずなぶり犯してやる!!

 お前のお友達の!!醜い手の魔法不全者と一緒になぁ!!」

「…………はぁ??」


 シンシアの声が一気に冷たくなり、触手が地面を叩きつける時に生じた衝撃波を利用し距離を取った。また彼女は右手の白手袋を外し、右腕を裏拳の構えで引き絞った。その拳には赤金色の魔力が纏われていた。


「私と純粋な火力勝負に出ようとは笑止!!言ったはずだ私の魔力は……?!」


 だがその時、デアベルは異変に気が付く。シンシアに感じた魔力の高まり、それが異常なほど上がり続けているのだ。現時点ですらシンシアの魔力は、自分の総量を優に超えている。


「な、なんなのだ………!!貴様は………!!その魔力はァァ?!!」

「……アタシは体の魔力経路に障害があるみたいで魔力を作って放出することはできても、それを組み上げて魔法にすることができない。だけどその代わりなのか、アタシは生命属性を持つ魔力を多く持って生まれた。大体、

 大魔法使い、約数100人分はあるみたい」


 その副産物でアタシには毒は効かないし、即死じゃなきゃ死なない。とシンシアは続けるが、話している間にも大きくなり続け地下牢を破壊し始めた魔力の塊を見て、戦意喪失してしまったデアベルには聞こえていなかった。

 デアベルは自分の胸元を裂き、一人気絶してる女性を体内から出した。


「い、今すぐ魔力を止めろぉ!!さもなくば、この豚を殺すぞぉ!!」

「………いい大人が女子供相手に人質とか、恥ずかしくないの?」

「だまれぇ!!貴様のような魔力だけの怪物に、魔法の繊細優美さを冒涜する怪物にぃ!!何を言われても響かぬわぁ!!さぁ早く、魔力の放出を止めろ………?!!」


 とその時一瞬にしてシンシアが発生させる魔力は倍増され拳にまとわりついていた魔力は巨大な球状と化していた。

 人質ごと自分を殺すつもりであると確信したデアベルはついに発狂する。


「く、来るなぁ……!!来るなァァァァ!!!」


 デアベルは胸元から取り出した女性と自分の体から引き抜くとシンシアに向かって投げつけ、そのまま彼女に背を向けて逃げだそうとする。だがシンシアは揺らがなかった。


「悪いけど、私は守るべき人たちは焼かない、ただ悪い奴だけをぶっ飛ばす!!

 プリミティブ・キャノン・ボールッ!!」


 右腕を大きく振るい放たれた、ミストの巨球の魔力は地下牢獄を破壊しつつ、真っすぐと進むが投げ飛ばされた女性を透過し、彼女を一切傷つけなかった。そしてその巨球は、


「バッキャァァッッッ!!」


 逃げていたデアベルに直撃しそれと同時に大爆発、彼を一気に外へとはじき出すのであった。

 シンシアは空中でキャッチしていた女性を自身の上着で包み、崩れ出した地下牢から脱出するために走り始め、通信魔導具を起動させる。


「ミストちゃーん!!今デアベルを倒したよーー!!……あれ聞こえてる――?!」

【ああ、聞こえてる聞こえてる】

「…………相変わらずとんでもない力だよ、ホント」


 ミストは街中で暴れていたが戦闘不能にされた怪物達の山の上で、デアベルが吹っ飛ばされたことで空中に生じた弧が描かれた煙を愉快そうに眺めながら、呟いた。



 これは、神に認められてなお、世界に認められなかった二人の少女の物語。


 自分達を嘲る者を、自分達が愛するものを否定する者を、ことごとく破壊していく物語。


 後、ついでに世界を救う物語。

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