そこで思考を止めてはいけない

@_with_sakura

第1話 愛情表現

 桜が咲き始めたこの頃、世界がやわらかな桃色に包まれたかのように感じる4月。

 学校帰りに寄った公園のベンチはちょうど陽が当たって暖かい。

 三浦さくらは日焼けが気になるようで教科書を顔の前に掲げている。

 私は穏やかな風を感じながら、今日好きな人と目が合ったようなきがするという至極どうでもいい報告をさくらから受けている。

 彼女は好きな人と付き合いたいと思っているようだが、私は誰かと付き合うことに思いのほか抵抗がある。

 誰かと付き合った時、大好きな人たちに対しての愛情表現方法の選択肢が減ってしまうのではないかと思う。

 落ち込んでいる友達がいたらぎゅーってする、泣いている友達がいたらよしよしする、酔っ払った友達がいたら手を繋いで家まで送り届けてあげる。

 恋愛感情があるわけではない。

 ただ大好きな友達たち。

 彼氏ができてしまったら、異性に触れることは出来なくなる。

 彼氏がそれを望まないだろうし、周囲からみても彼氏のいる私が異性に気安く触れているのを見ると不誠実だと思うのが普通である。

 私はこれが嫌なのだ。

 彼氏のことが一番好きというのが事実だとしても、その分他の人への愛情が減ったわけではない。

 大好きで大事な友達であることには代わりないのに愛情を今まで通りに伝えられない。

 彼氏の存在によって1位が自然と定義され、それに伴い他の友達たちをも順位づけしているようで不快感を感じる。

 さくらが、好きな人いないのかと聞いてきたので私はいないと答えた。

 彼女の言う「好きな人」と私が思う「好きな人」は意味が違うと思った。

 私の言う好きな人は、複数人いるのである。

 私が大好きで愛している人たちに順位づけすることはできない。

 私にはまだ好きな人を一人に絞る能力はない。

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