第36話 姉妹

 問題はリリスの方だった。

 リリスが自己紹介したように、リリスとコレットは田舎貴族と王家のたった一人の王女である。接点が見いだせない。年が近いわけでもない。あのジルと真っ向、言い争いする性格のリリスと、見るからに気が弱そうな第一王女。

 唯一考えられるのはジルとリリスが付き合っていて、ジルがコレットに紹介した。

 そう考えるのが自然だ。つまり、それはジルがリリスの事を本気で将来の妻として考えていると同意義であるとほとんどの者達は考えたのだった。


「シャーロット様、本日はお招きいただきありがとうございます。先ほどご紹介にあずかりましたコレットと申します。先ほどシャーロット様とリリス様の友人とご紹介いただきましたが、わたくしにとって二人は血のつながっていない姉のような方々です。そして、今回のご参加の皆様もこれから仲良くしていただければうれしいです」


 無垢な笑顔でシャーロット、リリスの関係を話すコレット。シャーロットとは幼馴染みの姉であろうと言うことは、両家の関係性から簡単に想像がついた。

そして、コレットはリリスとの関係も同じように”姉”と表現した。つまりは兄であるジルの嫁にして、コレットの義姉であると誰もが確信したのだった。

 そして、それをみんな第一に確認したかった。


「コレット様、ちょっとこちらで詳しい話を聞かせていただいてよろしいですか?」


 コレットはお茶会開始早々、お嬢様方に取り囲まれてあちらへ連れて行かれてしまった。

 そのあまりの鮮やかさにリリスは唖然として見守ってしまった。


「コレットちゃん……」


 我に返ったリリスは、コレットを助けようと踏み出したが、同じようにコレットを見送ったシャーロットに止められた。


「しばらくして話題が尽きたら解放されますよ。それより、コレットが元気になって本当に良かったですわ」

「ええ、あれからコレットちゃんも少しずつ嫌いなものを克服してくれましたからね。あれはきちんとした食事をしていれば治りますからね」


 コレットの姿を見ながら、リリスとシャーロットは他の面々と少し離れたところでお茶を飲みながら、話をしていた。一応、誰が聞いているか分からない状況なので、リリスは病気という表現を避けた。

 今のコレットを見て、少し前までは病気で寝たきりになっていたと疑う者は居ないだろうが。

 そんな元気になった妹分の姿を嬉しそうに見ていたシャーロットは、リリスに切り込んだ。


「ところで、実際の所、ジルとの関係はどうなのですか?」

「シャーロット様 (小麦)まで、何を言っているのですか。わたしと殿下では身分が違いすぎますよ」


 同じように、コレットの姿を見ながら、シャーロットの言葉を受け流すリリスを見てシャーロットは一つ大きくため息をつく。


「わたくしには本音を言ってくださいな。幸い、みんなコレットに気をとられてここには私たち二人しかいませんのよ」


 シャーロットの庭園で開かれるお茶会は、その従者は入れない。そのためマリウスは自宅にいる。それは他の令嬢達も同じであった。シャーロットの屋敷の従者控え室に居るか、寮や屋敷で待機している。

 周りには二人の話を聞く者はいないのを確認して、シャーロットを見ると、笑顔のシャーロットの瞳の奥が鋭く光っていた。その瞳を見ると嘘を言ってもすべて見透かされる気がしてリリスは諦めた。


「……全く好みじゃありません。わたしの好みの真反対ですね。脳筋は嫌いです」

「ぷっ! ははは。本当に本音を言うとは、貴族のたしなみとしてどうなの?」

「シャーロット様 (小麦)が本音を言えと言ったじゃないですか!」

「まあ、そうですね。そういえば、わたくしのことをロッティと呼んでくださいませ」

「良いのですか?」

「だって、あなたとわたくしはコレットの姉だそうですから、わたくしたちも姉妹みたいなものでしょう」


 リリスは嬉しかった。貴族として気位は高いが、根本的なところで優しい。そのシャーロットから友人と言われたことに喜びを隠しきれなかった。それはリリスが考えていた領主同士のつながりとは別に、ただ女性同士として友人になれたことに喜びを感じていた。


「ありがとうございます。ロッティ様」

「コレットと一緒よ。敬称なんていらないから。リリス」

「分かりました。ロッティ」

「そっちの方がわたくしも嬉しいわ。ところで……」


 シャーロットがリリスをお茶会に呼んだ理由。コレットをお茶会に呼ぶ餌。そしてジルとリリスの関係の確認。そこまではリリスも予想していた。それ以外に何があると言うのだろうか? リリスはシャーロットの言葉に身構えた。


「ハシーム王子の事をどう思いますか?」

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