夫婦とりかえ物語

関根るり@寝取られ小説家

第1話 夫の違和感

 いつの頃だろうか。

すべてが順風満帆などこにでもいる夫がいた。

風貌や学歴、仕事や日々の暮らしぶりも特段困ることも無く、それでいて人からうらやまれるほどでも無く、平均的であり幸せにそうに見える夫であった。


しかし、夫には人知れぬ悩みがあった。

このままで良いのだろうか。

今、自分は幸せなのだろうか

出来るなら、誰かと入れ替わって、もっと刺激的な毎日を過ごす人生もあったんじゃないだろうか。

そんなことを考えてしまうのである。

その自分の浅ましさに、寒気がしてまた自己嫌悪に陥るのである。


夫婦というのは、時に棘(いばら)の中を進む道である。

元々は他人だった二人が夫婦となり、どこかへ続くであろう、不安定な道そのものである。

その道をとりかえてみたい、別の道を行ってみたいと思ったとしても、不思議なことでは無かろう。


男は均(ひとし)という。

忙しい毎日を送っているが朝、子どもを保育園に送っていくのは均の担当だ。

妻は香織という。

香織はその時間にはもう家にはいない。

お迎えがあるから残業はできない。

それなら前に残業するしかない。仕事前なのに残業とはこれいかに?

言い換えれば前業だ。なんだか修行のような響きである。


人生の苦難のようなことで考えるとあながち間違ってはいないのかもしれない。


6時には家を出て会社に7時には着いて2時間の前業を行なう。

夕方6時に子どもを迎えにいくには、会社を5時には出ないといけない。

だから、朝の送りはパパであり夫である均の仕事なのだ。

同じように朝はパパという家庭は他にもいくつかあるが、多くの家庭は朝も帰りもママだ。


その様子を見て、均は「自分は子育てに十分コミットできている、自分は、世の中平均のパパより、少し上のパパだと思う」と自己満足しながら、小さく誇りに思っている。


均は朝8時に子どもを預けると、大急ぎで自転車を漕いで駅まで走る。駅まではなだらかな登り坂だ。電動自転車は高かったが役立つ。


 大急ぎで駅へ向かって坂を漕ぐ。電気のアシストを受けながら、それでも汗だくになってワイシャツが背中に張り付く。勢いよく通りすぎた駐車場のフェンスの影、何かが気になった。


急いでいたので一度はそのまま通り過ぎたのだが。しかし、何か気になる。目の端に引っかかった影が消えない。


均は一旦、漕ぐのをやめ立ち止まった。電動自転車を押しながら坂をくだる。

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