女学生の友達からの助言(桜視点○


 お昼の時間。教室でお弁当を食べていると、向かいあわせで座った学友が、あれからどうなったの? って、あたしのお見合いの話を興味津々で聞く。


「つまりは、お遊びなの?」

「誠司さんが?」

「なに言っての。桜ちゃんがよ」

「あたし……?」

「そうよ。あちらは求婚なさった上でお誘いしてるんでしょ。いつまでも答えを出さないのは、どなた?」


 断れるなら、お見合いだってしないし、男の人とお出かけになんか行かない。だって、樹お兄ちゃんが断る前にもう少し考えろって言うから……。お母さんは誠司さんが迎えにくると楽しそうにあたしを送り出すし。

 ……こんなにもずるずるとあの人に、会ってなかった。


「恋文なら、やりとりをした後、男の人が交際したいと改めて家に挨拶するものだけど……。桜ちゃんはお見合いなのだから、すぐに答えを出すべきよ」

「……誠司さんは、恋文はめんどくさかったって言ってた」

「まぁ」

 少し呆れたように言って、そんな人もいるのねっておかしそうに笑う。普通は、情緒とか少しずつ想いを通わせていくものだって。だけどあの人は、言った。桜が泣いてたから、すぐに声をかけたかったって。


「でも、お見合いにしては、やってることは恋文の流れと似てるわね。とてもゆっくりと進むんだもの。本当にまだ交際が始まったわけじゃないのね?」


 答えられなくて無言で肯定すると、困った桜ちゃんねと言われてしまう。たしかに、交際していないのに男の人と出かけているこの関係は、なんて呼べばいいのかあたしにも分からない。

 

 樹お兄ちゃんに助けを求めれば「失恋を引きずってると、貰ってくれる男が居なくなるからな」って厳しめにあしらわれた。

「行き遅れになってもいいもん」

 つい勢い任せで、思ってもいないことを言ってしまう。



 そろそろ答えを出さなきゃ。

 今後、会うのも、縁談そのものもちゃんと断りしよう。これは本気で悩んだ末の答え。いい加減に決めたわけじゃない。

 自分の気持ちをはっきり伝えようって、意気込んで朝、電停に行くと誠司さんが「試験勉強するから一ヶ月くらい早めに大学に行くから、しばらく会えなくなると思う」と言われた。


「それから、今後のことを少し話そう」

「……えっ」


 その瞬間、言わなきゃいけない事があったのに、なにも言えなくなってしまった。誠司さんは、周りを見て電停にはあたしたちの他に誰も居ないのを確認する。


「いや、一ヶ月とは言わず今、話すか」と切り出した。


「……もし、桜が断る気なら、俺が断ったことにしてもいい」

 今日、話そうと思っていたことを分かってたみたいに、先に

 

「そしたら、誠司さんの方が……遊びだったって、悪く言われるのに……」

「構わない。誘ったのも、通ったのも、俺だ。……軽率だった。桜に変な噂がつくなんて思いもしなかった。……これ以上続けるのも、正直、良くないのかもな」

「……変な噂……?」

 

 何となく分かる。たぶん、なん度も出かけているのに進展がないから近所の人に言われてるんだ。友達が「遊びなの?」ってあえて忠告してくれたけど、それと同じ意味合いで「はっきりしない子ね」って近所の人にも思われていたのかもしれない。そんな噂しているのを、誠司さんは、あたしの家に来る途中で聞いてしまったんだ。

 

「目立つ行動をし過ぎたのは、俺のせいだ」

「じゃあ……この縁談は、もう――終わり?」


 なんで、急に心がザワついてしまうのか、自分でも分からない。

「どうしたい? 俺は、通わなくてもいい。けど、断られない限りは、保留でも構わないと思ってる。でも、どうにも体裁がな……」

「…………」


 ちゃんとお付き合いするか、縁談ははっきりとなかったことにするか。どちらかってこと?

 そんなこと、急に言われても――。

 違う、本当は今日、断る気で居たのに、なんで今、あたしは言えなくなっているんだろう……。


「まぁ、そういう事だから。俺が試験終わるころの一ヶ月、考えといて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る