第15話

   (十五)

 月曜日、東山が帰ると、お帰りなさいと言いながら、仮免許を見せて合格しましたと自慢する。よく頑張ったとほめてやり、お祝いをしようと言うと、それは本試験に合格してからにして下さいと遠慮する。

 そして、もう少しですから待っていてくださいと笑顔を向ける。仁美が免許を取ると、東山をドライブに連れて行ってくれると言っていたことを思い出す。その気持ちは嬉しいが、黙って助手席に座っている勇気はない。

 火曜日の夜、仁美がお願いがあると言ってきた。

 週末に二日ほど休みがほしいと言うのだ。

「もちろん構わないよ。何か計画があるのか」

「はい。日曜から、パパさんは金沢でしょう。その間、絵梨ちゃんと旅行に行こうと」

「いいじゃないか。仁美にはいい友達も必要だ。どこへ行くんだ」

「城崎です。絵梨ちゃんが舞妓時代に一度だけ出張で行ったことがあって、もう一度行きたいって」

「冬の城崎か、いいところだ。向こうでおかしな男に引っかかるんじゃないぞ」

「あ、パパさん嫉妬していただけるのですか」

「当たり前だ。もうしばらく仁美は私だけのものだ」

 仁美が自分からそうした希望を言ってきたことはなかった。これまでの世界から一歩踏み出すきっかけを探しているのかもしれない。

 翌日、ママに電話をして、店を休ませて申し訳ないと代わりに詫びる。

 ママはエリから事情を聞いていたようで、仔猫ちゃんがちょっと悩んでいるようだから、お役に立てればええのんですがと笑う。また、そのエリも、お店の客にちょっとほだされ悩んでいて、ちょうどええ話し相手ができましたと言う。

 これまでの仁美の世界は驚くほど狭かった。話をするのは、東山をはじめほんの幾人かのいわゆる大人だけである。普通の学生たちのように、お互いに悩みを語り合い、励まし合える同世代の友人はいなかった。

 エリにも花街に生きてきた苦労はあるだろう。詳しく聞いてはいないが家庭の事情もあるらしい。いずれにせよ、世間の真っただ中で生きている。これから、自分の世界を広げていくことに戸惑っている仁美には、そうしたエリの心の中を聞くことも役に立ちそうだ。

 また、そんな風に語り合うことにはならなくても、若い娘同士が日常から離れてゆっくりと時間を過ごし穏やかな気持ちでいることができれば、それだけでも価値はある。

 日曜日の朝、仁美を見送って、東山は昼を過ぎて出かけた。

 二時過ぎのサンダーバードに乗れば五時に金沢へ着く。

 藤田教授父娘とは大阪駅のホームで待ち合わせ、グリーン席に乗り込む。新幹線だと横に二席ずつあるが在来線の特急は通路を挟んで三席である。教授が気を使って一人席へ先に座り、明日の取締役会の資料に目を通すので失敬と、書類を出す。

「東山さん、今日は少し覚悟しておいた方がいいかもしれませんよ」

 佳織が声を潜めて東山に笑いかける。

「何ですか、覚悟だなんて」

「父は私たちの仲人を脇田さんに頼むことになるかも」

「なるほど。しかし、それは嬉しいことです。私も脇田社長ならば、是非にと思います」

「でも、そうすると日取の話も出るでしょう。私たちの一存では済まなくなるかも」

「とは言っても、これから式場を決めて、案内状を出してとなると、早くても四月以降にはなる。佳織さんは何か不都合でも?」

「いいんですか、仁美ちゃん。私が越していくと居場所がなくなりますよ」

「それまでには何とか独り立ちさせますよ。まあ、詳しい話は明日にでも」

「わかりました」

 五時前に金沢へ着くと、脇田社長はわざわざ改札口で出迎えてくれていた。

 藤田教授には最敬礼で少しも偉ぶることろがない。教授も言葉は丁寧であるが親しさはその端々に感じられる。

 そして、佳織にも挨拶をする。

「こんな素敵なお嬢様がいらっしゃると知っていたら私が先にプロポーズしましたのに」

 そう言って東山をちらりと見る。

「そうは言っても、社長が三十前の頃は、まだ佳織は高校生だったからね」

「東山さんがうらやましい。先日は、お世話になりました」

「至りませんで」

 先日と同じように握手をする。やはり、脇田社長とは多くの言葉は必要がないようだ。

 そんな様子を教授と佳織が、二人を見直すような眼で見比べている。

 では早速と、石川工業の公用車で金沢を代表する老舗の料亭へ案内してくれた。

「社長、我々のために、こんな立派なところを準備することはない。駅の近くの居酒屋で十分なのに」

「そうはいきません。教授を粗末に扱ったら、死んだ親父に叱られてしまいます」

「そんなことはない。先代とはいつもそうしていた」

「まあ、親孝行だと思って」

「そう言われると弱いな。もう五年になるか」

「はい」

 脇田社長は、先日の東山との会談の後、すぐに役員会で会社の理念づくりを話し合ったと言う。役員たちのほとんどは先代の創業時代からの仲間で、脇田社長よりも年長である。新社長が何を言いだしたのかと幾分驚いたようだ。

 石川工業には、先代がいつも口癖のように言っていた言葉が社是として残っていた。皆それこそが守って行く理念だと疑ったこともなかったのだ。ただ、それは物作りに対する思いであり、それを否定する気は毛頭ない。しかし、ここまで育ってきた会社のもう一つの財産である人をどう育てるのか、当社の社員に何を求めるのかについての理念だった。

 そう説明すると、やがて頷いてくれ、活発に意見が出された。

 先代を中心に十数人でスタートしたころは、人材だの役職だのという概念すらなく、とにかく全員が一つの家族だった。もちろんそれぞれに家庭があり家族はいても、その家族も含めた大家族のような文化だったと懐かしく話してくれる。誰かが嫁をもらったり、子供が生まれたりすると、それは家族の一員が増えたように皆で喜び合っていた。やむを得ない理由で会社を去るものがあれば、新天地での活躍を心から応援し、いつでも帰って来いと声をかけていた。

 その文化こそ、まさに脇田社長の提案したいものだった。

 人については極力管理をしない風土を作って行きたいと提案したのだ。また、どれほど能力があり専門知識があっても、ビジネスライクに仕事を割り切ってそうした仲間の輪に入る気持ちのないものは採用しないという方針を出したのだ。

 それは、個人の能力の合計よりも、チームのモチベーションを高める方が生み出すものは遥かに大きく、また逆境に耐える力は比べ物にならないという信念だった。そこに至る過程で東山の考えもいくらか活かされていた。

 先輩たちの役員もその考えに大きく心を動かされた。

 日頃、取締役という肩書はあっても幾分隠居じみた扱いに淋しい思いをしていたようで、ここは新社長のためにもう一度現場に入って伝道師となりましょうと言ってくれた。

 そんな脇田社長の言葉を藤田教授は満足そうに聞いていた。

「社長、素晴らしい考えですよ。石川工業くらいの会社だからこそ持てる最大の武器、それが団結力だと思っています。いわゆる一枚岩という強さです。唯一の心配は社長が自ら迷うことですが、どうやらその覚悟もできたようですね」

「教授にはお見通しですね。仰る通り何が本当に正しいのかという点で迷っていました。しかし、その私の迷いが会社の迷いになっていることにようやく気が付きました。私自身が信じきること、そしてそれを疑わないことこそが会社にとって必要なことだとわかりました。それが社長の覚悟だと」

「なるほど。しかし先代から引き継いで五年。随分早くそのことに気が付いたものですね」

「いや、それが東山さんからアドバイスをいただいたおかげなんです」

 そう言って、脇田社長は東山のグラスにビールを注いでくれる。

「いや、私は教授からの依頼にお応えしたまでで、アドバイスなどとは」

 正直なところ、ほんの一部分にしか役に立ててはいないと思っていたのだ。

「ほう、東山君が」

「私はてっきりそんな私の迷いを見抜いて、教授が東山さんを推薦していただいたのだと思っていましたが」

「まさか。私は社長の、ほら、カウンセリングルーム、その質問に答えるのに信頼できる人として紹介しただけですが」

「本当ですか」

「もちろん」

「実は、東山さんの人の見方、これが決定的な鍵になりました。詰まるところ私の人間観であると喝破された時には雷に打たれたような衝撃でした」

「なるほど、社長が長い間探していた最後のカードを東山君が持っていた。いや、これは実に愉快だ。これこそ、天の配剤です」

 教授も本心から嬉しそうな笑顔を向けてくれる。

「私は一介のカウンセラーで、その視点から勝手なことを申し上げただけです」

「そう謙遜するものじゃあない」

「いや、本当に。私の言葉が脇田さんの役に立てたならば、こんなに嬉しいことはありませんが、意味のあるものにされたのは脇田さんご自身です。カウンセリングと同様に」

「では、東山君が脇田社長の最高のカウンセラーだったということになる。それもまた天の配剤ということになります」

 東山は自分の言葉の通り、カウンセラーとしての立場から、その信念を述べただけである。それをどう取り入れどう活かすのかは結局は脇田社長なのである。

 あまりの過剰評価をされるのも心苦しい気がする。とはいえ、気の合いそうな脇田社長がまた一段成長していこうとする姿を見るのは、やはり嬉しい。

 そして、その話がひと段落すると、佳織の予想通り話題は二人の縁談になっていった。

 脇田社長は教授の言葉を待たずに、もしも認めてもらえるならば、仲人役を務めたいと申し出てくれた。東山に異存はない。大津の母親や兄も了解してくれるだろう。

 教授が佳織に、それでいいかと確認すると、佳織も少し恥ずかしそうに俯いて、よろしくお願いしますと言う。

 それは数か月前から決めてきたことではあるが、もう原田のことはすっかり卒業できたのだろうかと心配もする。もっとも、それがいくらか残っていても、全て引き受ける覚悟もしていたので東山に迷いはなかった。

 食事が終わり、脇田社長が、宿は香林坊のNホテルに取ってあるので、フロントでお名前を言ってくださいと言う。そして、これから教授と二人で主計町の花街へ行くので、佳織は東山に頼むと言う。

「佳織、お母さんには内緒だぞ」

「あら、そんなに楽しいところなんですか」

「そういうことだ。じゃあ、東山君、後はよろしく」

 教授もひどく機嫌がいい。

 脇田社長と教授が表通りでタクシーに乗り込むのを二人で見送る。

「佳織さんの予想通りでしたね。大丈夫ですか」

「東山さんこそ。こんな私でいいのですか」

「何度目でしょうかね、佳織さんのその言葉」

「だって、自信がないんですから」

「それはお互い様です。さて、これからどうしますか」

「どうにでも。私はついていくだけです」

「ひとまず、チェックインして香林坊の辺りを歩いてみますか。それともホテルのバーで軽く飲みますか」

 同じようにタクシーに乗ると五分ほどで着いた。

 フロントで名乗ると、東山様と奥様ですね、ご案内いたしますと佳織の荷物を持ってエレベーターで九階へ上がる。佳織は笑いをこらえながら東山の後に続いている。

「あなた、脇田さんには随分気を使っていただきましたわね」

 冗談半分で、そう言って少々神妙な顔まで作る。なかなか堂に入った演技である。

「そうだな」

 東山は何とかそれだけを返して、エレベーターのフロア表示のランプが上がって行くのを見ていた。

 係員が部屋まで案内し鍵を開けてくれ、十二階のバーはラストオーダーが十時半まで、朝食は同じく十二階で七時からご利用いただけますと丁寧に教えてくれた。

 デラックスツインの部屋で、広々とした部屋にセミダブルのベッドが二台と窓際にソファとちょっとした書き物やパソコンが使えるようなデスクもある。

「佳織さん、いきなりあなただなんて」

「奥様ですから」

「それにしても脇田さんも悪戯がお好きなようだ。面白い人でしょう」

「ええ、あなたが一度で気に入った理由が分かりました」

「また」

「いいでしょう?そろそろ練習もしておかないと。あなたも、さん付けはやめて下さい。佳織と」

「はい。佳織・・・さん」

「もう東山さん」

「やっぱり、その方が自然です」

 コートをクローゼットにかけてソファに並んで座る。

「ね、東山さん。はしたないと思わないで下さいね。もらっていただくことには少しも迷いがないのに、どうして、これまで私には少しも触れようとなさらなかったのですか」

「ああ、格好をつけるわけじゃありませんが、佳織さんにはそれまでの佳織さんの思いを遂げてほしかったんです」

「私の思い、ですか?」

「初めてお眼にかかった日、佳織さんは原田さんのことを最後まで大切にしてあげたいって、そう言ってたでしょう。その気持ちです。私とそういうお付き合いになると、佳織さんが割り切れなくなりそうで。最後まで迷いのない純粋な気持ちでいてほしかった」

「不倫が純粋だなんて。そんなこと言われたの初めてです」

「そこに何の約束も見返りも求められないことが分かっていて、それでも彼のことを大切に思っている。純粋ですよ、やっぱり。もっとも、純粋だからといって世の中から認められるというものではありませんが、私はそんな佳織さんを見て素敵だと思いました」

「でも、私は彼に甘えるばかりで、馬鹿なことだと分かっていながら彼の奥様に嫉妬してみたり」

「それでも、愛していたのでしょう」

「東山さんて、不思議な方です。それで、仁美ちゃんは大丈夫ですか」

 東山は、仁美が母親に会ったこと、自動車学校で告白されたこと、加奈子から就職の話があったことで、自分の世界が広がっていくことに戸惑っているようだと説明する。

「そうでしょうね。これまではパパさんとの関係に逃げ込んで、それだけを考えていればよかったのに、現実はそれを許してくれない」

「佳織さんのことだけは織り込み済みのようで、迷いはなさそうですが」

「さあ・・・これまでは、私たちのこともいつか将来のことでしたけど、眼の前に現実として迫って来たら変わるかもしれません」

「佳織さんは、今でも仁美のパパさんが続くことを許せると思っているのですか」

「多分。東山さんには彼のことをずっと許していただいて、仁美ちゃんも嫉妬するなんて言いながら私の存在を受け入れてくれているわけですから」

「そういう貸し借りのような理屈じゃなく」

「それに、私にも分かっているんです。彼の気持ち。奥様に対するものと、私に対するものとは種類が違うってこと。だから、東山さんが私を妻として愛してくださるなら、その上で種類の違う気持ちが仁美ちゃんに向かっていても仕方がないって」

「それは約束します。確かに仁美は可愛くて仕方がない。どんな役割でもないことで、かえって大切な存在になっています。ただどうしても人生の伴侶にはなれない。もしも佳織さんがいなくてもです。仁美の人生の面倒を見てやることはできても、私の人生を仁美に預けることはできない、そんな気がします」

「彼もそんなことを言ってました。そういえば私も、彼と結婚したいと思ったことはありません。不思議ですね」

「佳織さんとはやはり妻として一緒に生きていきたい。それだけじゃなく、仁美がいなくなった後は、私の全てになってほしい」

「本当ですか」

「はい。まだ信じてもらえませんか」

「いいえ、信じてます。でも、もうそろそろ私の順番が回ってきてもいい頃なのに、東山さんは相変わらず。だから、ちょっとだけ不安です」

「そうか、順番はともかく、約束しましたね。佳織さんがちゃんと彼を卒業したら一人の女性として見つめましょうって」

「憶えていてくれたんですね。どうやら、卒業もできたようです。だから、今日のところは、佳織を抱きしめて、キスだけしてください」

「は?」

「あの、私にも女の子の事情があって・・・」

 どうやら、金沢は東山にとって鬼門であるようだ。

 とはいえ、その夜は折角のゆったりとしたセミダブルのベッドを一台無駄にするだけの意味のある時間となった。

 そして翌日は、佳織を案内して金沢の町を巡り、夕方に大阪駅で別れた。

 東山の方が先に着いて、リビングでほっとしていると、やがて、仁美がたくさんの土産を持って帰って来た。

「パパさん、遅くなってごめんなさい。わがままを言いました」

「私も今帰ったところだ。ゆっくり気分転換はできたかい」

「はい。いっぱいお話してきました。仁美なんか、全然甘ちゃんでした」

 これまで、ふさぎ込みがちだった表情が、ほんの少し元気を取り戻しているようだ。

 エリは、生まれた時から片親育ちで父親の顔を知らないらしい。

 十五歳で入った芸事の道は、まず躾や気働きを徹底的に教え込まれ、踊りや三味線もその稽古は厳しい。そして、お座敷では大人たちの相手でひと時も気を抜けない。

 それでも一人前の芸妓になるのを夢に見て頑張ってきた。ただそれには大きな費用が掛かる。公私ともに世話になる旦那を持つことも可能だが、それは受け入れられなかった。

 ずっと世話になっている女将さんに借りることはできても、そうするとまた何年も奉公を続けることになる。

「それで、女手一つで育ててくれたお母さんに早く楽をさせたいって、芸妓さんになるのを諦めて今のお店で勤め始めたそうです。偉いでしょう」

「そうだな。しかし、仁美も随分苦労をしたじゃないか」

「ううん。仁美は何だか逃げてばっかりだったみたいです。何かあるとパパさんや佳織さんの優しさに逃げ込んで」

「まあ、仁美は高校までは甘やかされていただろうから、エリちゃんに比べると多少弱虫だったかもしれないな。これから少しずつ強くなればいい。大丈夫だ」

 仁美は黙って頷く。ちょっとした決意はあっても、自信はあまりなさそうだ。

「それから、パパさんには佳織さんがいて複雑だけど、仁美が半年でもこうして好きな人の近くでいられることがうらやましいって。絵梨ちゃんの好きな人も随分年上の方だそうです。奥さんも恋人もいる人で、自分の出る幕はないのにそれでもやっぱり好きだって。もらい泣きしてしまいました」

「顔も知らない父親の姿を見ているのかもしれないな」

「そうかもしれません。でも、いっぱいお話できて良かった。何だか自分のことを話していたら、少しずつ自分の見方が変わって行くような気がして」

「自分の見方?」

「ちょっと離れて見直すことができたような気がします。そしたら、お母さんのことも、告白されたことも、就職することも、仁美が少しだけ強くなれば何とかなって行くのかなって思えてきて」

 エリもなかなかのカウンセラーのようだ。

 そんな仁美の笑顔に水を差すことになるかもしれないとは思いながら、佳織との結婚がやはり春ごろになり、脇田社長が仲人をしてくれることになったと告げる。すると幾分の無理をしながらも良かったですねと言う。

 佳織の言う通り、眼の前に突きつけられると動揺はあるようだ。佳織が幸せになることについては、ちょっとした嫉妬心はあっても素直に喜びたいらしい。しかし、そのことは自分と東山の縁が切れることであり、やはり今は辛いと言う。ただ、それも東山を卒業していくには、どうしても受け止めていかなければならないと理解はしている。

 東山もそうした仁美の反応は予想できていたが、辛いことであっても隠し事はしたくなかったのだ。

 そしてやはり気にしているだろうと、金沢の夜のことを話してやると、表情は一転して、佳織さんがかわいそうだと笑う。そして、そんな様子を見ていると、佳織よりも先にと言い出した仁美の気持ちが理解できる。東山は、そのことがどれほどの意味があったのかと思っていたが、今いくらかの余裕さえ見せていることを思えば、決して小さな事ではなかったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る