第15話


 オレはバンドを組んだ。

 未来のトップミュージシャンと、国民的スーパーアイドル。

 最強の二人が手を組んだ最強のバンド。

 無論、朝音ちゃんの本業はアイドルであるため、永遠に続く事はない。

 それでも、限られた時間の中で、最高の輝きを放ちたい。

 その一心で、オレは家に引き篭もり、自分なりに準備を始めた。

 三日三晩、ひたすら作業に取り掛かる。

 寝ることもなく、バイトはサボって、飯は生命維持に必要な分だけ喰う。

 全ての時間を、自分のバンドの準備に捧げる。

 そして、何者かによる来訪があったのは……そんな日々を過ごして、三日が経とうとしていた時。

 

「お兄さん! 開けて下さい、お兄さん!」

 

 インターホンが鳴らされ、ドアを叩かれる。

 扉越しに聞こえてくる声は、間違いなく朝音ちゃんのものだった。

 ……何故、彼女がココに?

 オレん家、教えた覚え無いんだけどな。

 

「お兄さん……生きてますか、お兄さん……?」

 

 もしかして、幻聴だろうか。

 そう思い、無視しようとすると。

 

「嘘……嘘嘘嘘嘘。そんな事、絶対あり得ない。でも、確かめないと。今すぐ、斧を買ってきて……」

 

「生きてる! ちゃーんと生きてますから、扉を破壊するのはやめてぇ!」

 

 このまま放っておいたら、ドアが壊されちまう。

 悲壮感溢れる声色から、そう判断したオレは飛び出すように扉を開ける。

 すると、今までに見た事がないくらい無表情な朝音ちゃんが、こちらを見据えて。

 

「………っ。ふ、ぐ、ぅう……生きてた、私のお兄さんが生きてた……!」

 

 矢継ぎ早に、抱きついてきた。

 号泣しながら、オレの腰を両手でガッチリとホールドして離さない。

 いつも笑顔でいる彼女が、泣いている姿を見せるのは初めてであり。

 なんというか、罪悪感がすごかった。

 

「この前、私とバンド組むって言ってから、音沙汰がなくて。何度も連絡したのに、既読もつかなくて。バイト先にも、何処にも現れないから……私、ずっと心配で……」

 

「ご、ごめんな。スマホ充電切れたまま、放置してて。外にも出ずに家に引きこもっててさ」

 

「どれだけ心配したと思ってるんですか? 私、お兄さんが居なくなったら、私は……」

 

 朝音ちゃんが泣く姿を見ると、心が痛む。

 だが、それと同じくらい、オレ達の騒ぎを遠巻きに見守る人々の視線が痛い。

 ここら辺で悪名高いプー太郎が、平日の昼間に未成年らしき女子を泣かせているだなんて。

 注目されて、当たり前だ。

 オレがあの人達の立場でも、つい見ちゃうもの。

 けれど、このままの状態だと不味い。

 犯罪の香りを嗅ぎ取った人が、警察に通報しちゃうかもしれん。

 そうなったら、面倒臭い事この上ない。

 

「マジで、ごめん! 本当にごめん! と、取り敢えずさ、オレの家に入って話そうぜ」

 

「う、うう……はいぃ……」

 

 今も尚、涙を流している朝音ちゃんを、強引に家の中へと押し込む。

 まさに、事案レベルMAX。

 けれども、一切気にしない。

 というか、もう考えないことにした。

 通報されたら、そん時はそん時。

 そん時のオレが機転を効かせて、どうにかしてくれると信じたい。

 

「よーしよしよし。心配する必要なんてないぞ、朝音ちゃん。お兄さんは無敵のミュージシャン。殺されたって、死にやしない!」

 

「…………」

 

 今は、朝音ちゃんの相手に注力する。

 安心させるために抱きしめ、頭を撫でまくる。

 この行為に効き目があるのかは分からない。

 何故なら、さっきから朝音ちゃんは黙したまま、ぴくりとも動かないから。

 けど、それでも、撫で続ける。

 なんたって、オレは女の子が泣いた時の対応なんて知らんからな。

 

「ごめんなさい、お兄さん。みっともなく取り乱してしまって」

 

 およそ数分ほど経ったとき。

 泣き止んだ朝音ちゃんが、こちらを見上げる。

 にこりと微笑む彼女の表情は、どこか満足げに見えるのだが気のせいだろうか。

 

「いや、気にしないでくれ。今回の件は、オレが全面的に悪いからな。誠にごめんなさいって奴だ」

 

「いえ、お兄さんがそういう人だって分かっていた筈なのに、感情を制御出来なかった私に非があります。なので、この話は終わりにして……」

 

 朝音ちゃんは、部屋へと視線を移す。

 そこに広がっていたのは、オレの生活空間。

 一年ほど掃除せずに、散らかり尽くしているゴミだらけの汚部屋だった。

 

「お兄さん、コレはなんですか?」

 

「見てわかんないかー、オレの部屋だよ。一見すると、ゴミ屋敷に見えるけど意外と利便性に」

 

「掃除しましょう、今すぐに」

 

「……はい」

 

 朝音ちゃんは、笑っていた。

 アイドルらしいキラキラとした笑顔。

 でも、その裏には確かな圧力があった。

 故に、抗うことは出来なかったのだ。

 

「溜まってる洗い物や、部屋の清掃は私がするので、お兄さんは必要なものと、必要ないものの取捨選択をして下さい」

 

「えー! オレにとっちゃどれも宝物よ。要らないものなんて一つも」

 

「取捨選択を、してください」

 

「……はい」

 

 完全に、尻に敷かれていた。

 ボロボロのTシャツ、衝動買いした謎の置物、絶対に使わない生活用品。

 明らかに不要なゴミ予備軍を、纏めておく。

 そうすると、朝音ちゃんが分別してくれる。

 

 その姿を見ていると、古い記憶を思い出す。

 オレが上京する前、クソ田舎に住んでいた時。

 昔から片付けが出来なかった俺の部屋を、隣に住んでいた幼馴染の元カノが良く掃除してくれた。

 今の朝音ちゃんみたいに、文句ひとつ言わずにテキパキと。

 それだけじゃなく、ギターと歌に没頭するオレが、周囲から浮かないように手を回してくれた。

 この世界で生きていけるように、必要最低限の社会性を与えてくれた。

 だから、今のオレがあるのは元カノのお陰。

 マジでギリギリではあるものの、生きているのは彼女の教えがあったからなのである。

 だからこそ、ろくでなしのオレでも、あの子となら上手くやっていけると思っていた、のに。

 

 上京するときに、あっさりと振られちゃった!

 それはもう、バッサリと!

 アンタと遠距離恋愛はムリ、の一言で!

 

「だ、大丈夫ですか、お兄さん。渋柿を食べた時のような顔をしていますが……」

 

「掃除をしているとな……沁みるんだよ、苦い思い出が。だから、オレは」

 

「掃除を、続けましょうか」

 

「……はい」

 

 畜生。

 朝音ちゃんも、元カノも。

 ほんとに、よく似てるぜ。

 適当なことを言って、嫌な事から逃げようとするオレの性格を知り尽くしてるところがな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ろくでなしミュージシャンが国民的アイドルと天才バンドマンに愛されるヤンデレもの 門崎タッタ @kadosaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ