あざとい生徒会長ってありですか!?

わたふね

1

私が彼を好きになったのは、いつからだったんだろう。

正確には、たぶん「名前も知らなかった頃」から、気づけば目で追ってた。


生徒会長。

誰にでも優しくて、いつもきちんとしていて、

朝の登校時間に、昇降口で必ず「おはよう」と声をかけてくれる人。


──私みたいな、ただの一般生徒にも。


その「おはようございます」に、何度救われたかわからない。

勝手に彼の存在を、ちょっとした朝のご褒美みたいに思ってた。


でもそれだけだった。

遠くから見るだけの存在。

話したことも、近づいたこともない、雲の上の人。


……だったはずなのに。


ある日、下校途中の廊下で、私は彼とすれ違った。

そのとき彼は、階段の途中で足を踏み外したらしく、軽く足首を捻ってしまっていた。


「だ、大丈夫ですか!?」


気づけば声をかけていた。

彼は顔をしかめつつも、「大丈夫、大丈夫」と笑っていたけど──

足を引きずる様子に、私は思い切って、彼の腕を貸して保健室まで付き添った。


「助かった。ありがとう。……名前、聞いてもいい?」


それが、はじめての会話だった。


その日からだ。

朝の「おはようございます」が、

少しだけ柔らかくなったのは。


放課後、偶然廊下ですれ違うたびに「今日も遅くまで?」と声をかけられるようになって、

私も「会長こそ、よく残ってますよね」なんて、ぎこちなく返すようになって。


そんな、ちいさなやり取りの積み重ねが、

気づけば──宝物になっていた。


「もっと近くで話したい」

「もっと一緒に過ごせたら」

そんな想いが、どうしようもなく大きくなって。


だから、私は決めた。


次の生徒会選挙──副会長に立候補しようって。


演説文を何度も書き直して、朝練の前に教室で準備して。

プレゼンが苦手な自分に、自信が持てるように努力して。

たぶん、これまでの人生で一番頑張った。


すべては──

あの人の隣に、ちゃんと立ちたかったから。


そして今、私は本当に、その“隣”にいる。


だけど。

今日、私は──やらかした。


放課後、ふたりきりの教室で、

私は勢い余って──会長を押し倒してしまったのだ。


「……あ、ご、ごめ──!」


「いや、いいよ。痛くないし」


目の前の彼は、落ち着いたまま微笑んでいる。

いつもの、生徒会長の顔──なのに、どこか意地悪そうにも見える。


そして──


「せっかく押し倒したんだし、ほら、キスでもする?」


「は、はぁ!?」


「ここ。俺の頬、空いてるよ?」


指先で自分の頬を、トン、と叩いて。

ねえ、何その顔。

そんな優しく笑って、そんなこと言われたら──


……こっちの心臓がもたないんだけど。


「……私がしたいとか、言ってないし」


「うん。でも顔、真っ赤だよ?」


「~~~~っ、もう知らないっ!」


それ以上何か言われる前に、私は勢いよく自分から──

彼の頬に、軽く、キスを落とした。


「……! ……し、しちゃったじゃん……」


「うん。かわいかった」


「~~っ、からかうなっ!」


「からかってないよ。惚れてるから言ってるだけ」


「っ……!」


……もう、ほんとこの人、ずるい。


「……うん、ありがと。めっちゃ嬉しかった」


顔を赤くして俯く私を見ながら、彼はふと、右の頬を指でトントンと叩いた。


「……ここも、空いてるんだけど?」


「なっ、なにそれ……」


「副会長にしか頼まないから」


「~~もうっ……!」


私は、震える手で、今度は右の頬にも、そっとキスを落とした。


「……満足でしょ……」


「うん。でも……欲が出てきたかも」


「っ!? な、なに……?」


彼は、私の目をまっすぐに見つめて、静かに言った。


「今日、君が頑張ってきた理由、ちゃんとわかってたよ。俺のこと、好きなんだろ?」


「……っ」


「だから、予告だけ。今度、ちゃんとした場所で、副会長じゃなくて──君に告白する」


心臓が、破裂しそうだった。

でも私は、小さく──確かにうなずいた。


「……覚悟しといて?」


この人を好きになって、よかったと思った。

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