第41話:氷ゴーレム、緊急進化する
伝説の古龍――煌獄炎龍か。
俺は即座に《鑑定》を発動し、そのステータスを確認する。
――――――
名前:グラヴアーク
種族:煌獄炎龍
性別:オス
レベル:91/99
ランク:S
体力:1507/1507
魔力:1433/1433
攻撃力:1492
防御力:1404
魔攻力:1530
魔防力:1449
素早さ:1598
《種族スキル(種族に特有なもの)》
〇言語系
・煌獄炎龍語(煌獄炎龍龍の言葉がわかる)
〇戦闘系
・煌獄(摂氏3000度の高熱のブレスを放つ)
・魔鱗(魔法攻撃を70%減弱させる)
〇非戦闘系
・飛翔(素早く飛ぶことができる)
《ユニークスキル(個体に特有なもの)》
〇戦闘系
・盤石(クリティカルヒットを無効化する)
・自然回復【強】(体力と魔力の回復速度が1.5倍になる)
《シークレットスキル》
〇戦闘系
・龍気の纏い(物理攻撃を70%減弱させる)
〔称号〕
・名有り(固有名称が付与される。全ての能力値が1.1倍に上昇する)
・災厄(全ての能力値が2倍になる)
――――――
全ての数値が1500近くと、極めて高い水準にある。
さすがは伝説と称される魔物か。
それぞれのスキルもシンプルながら非常に強力だ。
物理攻撃も魔法攻撃も全然効かないじゃないか。
摂氏3000度のブレスなんて、地球におけるほとんどの物質を溶かせてしまう。
煌獄炎龍が出現したのを見て、ほとんど倒されていた"黒葬の翼"の構成員からは歓声が上がった。
「す、すげえ、導師が巨大な龍を召喚されたぞ! これで俺たちの勝利は確実だ!」
「導師のお力を見たか、コーリ! お前は溶かされて死ぬだけなのだ!」
「"黒葬の翼"ばんざーい!」
一方、正当な騎士たちは呆然と呟く。
「あれは……伝説の煌獄炎龍そのものじゃないか……。まさか、こんな魔物まで召喚できるなんて……」
「放たされた焔は全てを燃やし尽くすまで消えないと聞く……。このままじゃ……王国が破滅するぞ!」
「ぜ、全員で攻撃しろ! 焔を放つ前に煌獄炎龍を倒せー!」
騎士たちはやけになったように総攻撃を始めた。
魔法を放ち、弓を撃ち、剣を投げ……だが、どれも弾かれるだけで煌獄焔龍はビクともしない。
その大きな身体には薄らと白色のオーラ――おそらく、《龍気の纏い》が見える。
物理も魔法攻撃も封じられては、厳しい戦いになるのは明白だ。
俺とリゼリアは全員に避難を呼びかける。
「みんな、今すぐ逃げろ! この龍は危険だ!」
「攻撃しちゃダメだよ! 早く逃げて!」
「誰も逃がすわけがないだろう、コーリ君!」
スタニックが叫ぶと同時、煌獄焔龍は飛翔する。
「煌獄焔龍、コーリを焼き尽くせ! 《煌獄》を放て!」
『グォォォオオオオオオオオオオオオオオッ!』
直後、その巨大な口から青白い炎のブレスが放たれた。
たったそれだけで、激しい直射日光でも浴びているかのように身体が熱くなる。
ブレスの射線上には、王国騎士団だけでなく"黒葬の翼"の構成員も含まれている。
なりふり構わない、ということか!
「《氷穹結界》!」
すかさず、俺は巨大な氷のバリアを前面に展開して、この場にいる全員を守る。
《煌獄》が当たるや否や氷は溶けて蒸発し、バリアはどんどん薄くなる。
ブレスが広がり地面に落ちているスタニックの金属剣に当たると、瞬く間に融解し始めた。
リゼリアの炎でも溶けなかったのに融解させるとは、とんでもない高温だ。
一方で、氷の比熱はそこそこ高い。
溶けるたびに氷魔法で補強すれば防げるか!?
俺はブレスを防ぎながら、騎士と"黒葬の翼"に再度呼びかける。
「今のうちに逃げるんだ! あのブレスに当たったら消し炭になるぞ!」
「コーリちゃんの言うことを聞いてー!」
「「わ、わかった! 感謝する、コーリ殿!」」
「「な、なんで俺たちまで攻撃してくるんだよ! 逃げろ、逃げろー! 殺されるぞー!」」
煌獄焔龍とは反対側にみんなを逃がす。
騎士は感謝を、”黒葬の翼”は恐怖を叫びながら退避した。
よし、全員の避難が完了だ。
《氷穹結界》が溶ける度に氷魔法で補強する作戦も功を奏しており、どうにか《煌獄》を防げていた。
「攻撃を防げているよ、コーリちゃん!」
喜ぶリゼリアに対し、スタニックの尖った声が響く。
「コーリ君、君は本当に余計なことばかりしてくれるね! やはり、この場で消すのが最善の策だ!」
途端に《煌獄》の勢いが増し、《氷穹結界》が完全に溶かされた。
クソッ、温度が違い過ぎるか。
青白い高温の炎が襲い掛かる。
氷の防壁を展開しようとしたとき、リゼリアが俺の前に出た。
「今度は私の番だよ、《封熱》! ……うわあああっ!」
《煌獄》の炎はその小さな身体に吸い込まれ消滅する。
だが、彼女の全身は太陽のように光り輝き、大変な高熱を発した。
俺は崩れ落ちたリゼリアをすかさず抱き締めて冷やす。
「大丈夫か! 無茶するな!」
「こ、これくらい平気だよ……コーリちゃんが頑張っているんだから、私も頑張らないと……」
上空には変わらず煌獄焔龍が飛んでおり、スタニックの冷たい声がやけにはっきりと聞こえた。
「君たちの炭は仲良く弔ってあげるよ。ずっと一緒にいられるようにね……《煌獄》」
煌獄焔龍は少しも休まず、あの高温のブレスを放つ。
先ほどと同じかそれ以上の威力で、大きさも速度も何倍もある。
氷魔法で防御を……いや、間に合わない!
「うぐっ……!!」
「コーリちゃん!!」
咄嗟にリゼリアを抱え、俺は背中で《煌獄》を受け止めた。
《煌獄》が直撃した俺のボディはドロドロに溶け始め、全身が大火傷を負ったかと思うほど熱くて痛い。
こんな短時間で連発ができるとは、種族としてのスペックの高さを感じる。
「コーリちゃん、やめてよ! 溶けちゃうよおおお!」
「だ、大丈夫だ、リゼリアだけは絶対に守る……!」
異世界に氷の形で転生して心細かった俺と、ずっと一緒に旅してくれたリゼリア。
俺はどうなっても彼女だけは必ず守れ!
使えるスキルを総動員して耐えていたら、ボディが猛烈な勢いで溶けていく感覚がふと消えた。
な、なんだ? 《煌獄》が止まった?
振り返ると、上空からスタニックの笑い声が降ってきた。
「ははは、言い様だ、コーリ君! ようやく、君の無様な姿が見れたね! ああ、愉快な光景だ! すぐに殺してはつまらないからね、少しずついたぶって溶かしてあげるよ!」
なるほど、俺を苦しめるのが目的か。
仕留められたところを、敢えて止めたらしい。
俺のボディはもはや人型を留めているのが不思議なくらいで、今にも折れそうだ。
この状態で戦えるのか……?
いや、戦え、コーリ! 立て! 立つんだ!
立ち上がろうと藻掻く俺の前に、リゼリアが飛び出す。
「コーリちゃんをこんなに苦しめるなんて……許さない……許さないよ! 《煉獄熱波》ー!」
リゼリアは大きく口を開け、煌獄焔龍にも負けない青白い炎を放つ。
「ははは、たかが龍人族が何をしようと言うんだい?」
鍔迫り合いのように拮抗したが、やがて《煉獄熱波》は押し負け打ち消されてしまった。
また敢えてスタニックが《煌獄》を止めた瞬間、リゼリアは激しく咳き込む。
「ゲホッ、ゲホッ! 喉が……っ!」
「リゼリア、やめろ……無茶しちゃダメだ……」
咳き込むリゼリアに対し、上空からはスタニックの冷徹な声が降る。
「龍人族は所詮、龍と人の紛い物さ。どっちつかずで弱いね。それに対して、煌獄焔龍は本物の強さを持つ。あと何発でも《煌獄》を撃てるよ? コーリ君、君はとても儚いね。溶けて消える瞬間を見届けてあげよう」
スタニックの笑い声が響く中、リゼリアは俺に縋りついて泣き叫んだ。
「コーリちゃん、もう逃げようよ! 溶けてなくなっちゃうのヤダよ!」
煌獄焔龍と今の俺のステータスは天と地の差だ。
正面から挑んで勝てる可能性は極めて低いだろう。
このまま戦えば、溶けてなくなってしまうかもしれない。
それでも、俺は……。
「戦うよ。こいつを見逃したら、この国は壊滅する。今まで出会った人も、街も、全部焼け野原にされる。それに、たとえ逃げてもすぐに追いつかれて殺されるだろう。……俺は守る。大事なみんなを……リゼリアを守る!」
ここで逃げちゃダメなんだ。
何が何でも勝って、みんなとリゼリアを守る!
決意を込めて立ち上がったとき。
頭の中にあのアナウンスが響いた。
〔格上の敵に挑戦し続けたため、シークレットスキル《不屈の心》が覚醒しました。緊急進化が可能となります。緊急進化しますか?〕
そういえば、俺はよく格上の敵と戦ってきたっけ。
その努力が報われたようだ。
もちろん、答えは一つしかない。
……緊急進化!
強く念じた瞬間、俺の全身からいつもの進化より何倍も強い光が放たれる。
「コーリちゃん、どうしたの!?」
「な、なんだ、この光は! 何をした、コーリ!」
リゼリアとスタニックの驚きの声が聞こえた後、光はすぐに収まった。
ボディが完全に復活し、激しい痛みも嘘のように消えた。
たちまち、頭の中に進化先の情報が流れ込む。
――――――――――
○氷騎士(特異種)
・等級:ランクS
・説明:氷でできた鎧騎士の魔物。珍しい氷魔物の中でも格段に稀少。恐ろしく強く、決して手を出してはいけない孤高の存在。研ぎ澄まされた剣撃は山をも切り裂き、もはや芸術品の如く美しい。
・種族スキル:①氷騎士語(氷騎士の言葉がわかる)
②剣舞百式(百通りの剣術が扱える)
③鉄壁の陣(全ての攻撃を80%減弱させる。状態異常を無効化する)※特異種限定スキル
④氷結(融解しない)※特異種限定スキル
――――――――――
鏡がなくとも、自分がどんな姿をしているのかわかる。
氷ゴーレムから無駄が削ぎ落とされ、スリムになった感じの鎧騎士。
兜から伸びる2本の角がただ者じゃないオーラを放ち、背中には氷でできた濃い青色のマントが靡く。
俺は最強の氷魔物――氷騎士に進化したのだ。
完全復活した俺を見て、リゼリアは大喜びでしがみついてくる。
「コーリちゃんが元気になった! 元気になったよ! すごくカッコよくて強そう!」
「心配かけて済まなかったな。でも、もう大丈夫だ……さて」
上空のスタニックに視線を向けると、驚きの表情を浮かべていた。
「ま、まさか、進化したのか……!? あの氷騎士に……っ!」
「スタニック、投降しろ。もうこんなことは止めるんだ」
「……ははっ、ははははは! ずいぶん強気じゃないか、コーリ君! 進化して浮かれているようだね! 氷騎士如き、ドロドロに溶かしてあげるよ!」
やはり、投降はしないか。
決着をつけるため、俺は剣を引き抜き構える。
いよいよ、本当の最終決戦だ。
俺は煌獄焔龍を、そしてスタニックを必ず倒す!
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