氷に転生した俺が、【氷結の大魔人】と呼ばれるまで~国を追放された暑がりドラゴン王女と極寒の大氷原を目指してたら、各地で伝説を刻んでた件~
第27話:氷ミミック、大湿原で女騎士の部隊にサポートを頼まれる
第27話:氷ミミック、大湿原で女騎士の部隊にサポートを頼まれる
「……コーリっち、ここから5分くらい歩くとエイルヴァーン大湿原に着くかんね。本当は入り口まで送りたいんだけど、ここまででマジ許して? 足場が悪くて、これ以上行くと馬車が沈んじゃうんよ」
すでに大湿原の周辺地域に入っているようで、この辺りの地面はとても泥濘んでいる。
馬車の車輪が沈みかかっているのに、アニカたちは無理して走らせてくれたのだ。
俺たちは馬車を降りて、別れの挨拶を交わす。
「いや、全然大丈夫。むしろ、長い間馬車に乗せてくれてありがとう。おかげで予定よりずっと早く大湿原に来られたよ」
「アニカとの旅、すっごい楽しかった! もう終わっちゃうの寂しいなぁ」
「あーしもめっちゃ楽しかったし! 2人と離れるのガチ寂しい……でも、これも運命ってヤツかもね」
名残惜しいが、アニカとの旅はここまでだ。
旅の思い出を話し終わったら、彼女が大きな袋を差し出した。
「はい、これはマジ餞別の水と食糧ね。楽しく旅させてくれたお礼」
「「ほんとに!? ありがとう!」」
中には肉や魚の燻製の他、水の入った革袋やポーションなどが所狭しと入っている。
大湿原は非常に広い土地だと聞いたので、食糧の確保ができてとてもありがたい。
さっそく、《収納》スキルで仕舞っておこう。
アニカ一行は馬車の最終準備をする。
5日間という短い時間だったが、たくさん喋ったり、一緒に作ったおいしい料理を食べたり、魔物や山賊の襲撃を退けたりと、濃密な時間を過ごすことができた。
馬車に乗って去る彼女たちを、俺とリゼリアは手を振って見送る。
アニカは窓から身を乗り出して、仲間の行商人とともに笑顔で手を振り返してくれた。
「コーリっち、リゼリアっち、バイビー! 商会の試験をクリアしたら、2人のフィギュア売るから! 絶対に買いに来てねー!」
馬車が木々に隠れて、完全に見えなくなるまで見送った。
徐々に周囲には静寂が戻ってきて、別れの余韻を実感する。
この5日間は賑やかな旅だったこともあり、静けさがより極まる感じだ。
リゼリアも寂しいようで、虚空を眺めては小さく震えながら耐えていた。
「……私のフィギュアができたら、今よりいっぱい目立てちゃうねぇ……」
違った。
自分がフィギュアになることで注目されるのが楽しみらしい。
何はともあれ、どんなときも歩を進めるのみ。
「じゃあ、俺たちも行こうか」
「そうだね、大湿原はあと少しって言ってたし。コーリちゃん、抱っこしてあげる」
俺は《浮遊》スキルで浮かべるのだが、当然のようにリゼリアに抱きかかえられ、てくてくと運ばれる。
「一応、宙に浮けるのだが……」
「いや、持たせて! 綺麗なコーリちゃんが泥で汚れちゃうの嫌だし、冷たくて気持ちいいから!」
「そうか、ありがとう」
とのことで、俺はリゼリアに抱かれながら大湿原に向かう。
彼女の高い体温で身体が少しずつ溶けていくのだが、気合いで耐えれば融解スピードが遅延する……ような気がする。
アニカの言うように、5分ほど歩くと大湿原の入り口が見えてきた。
大きな看板が立てられており、エイルヴァーン大湿原の名、そして立ち入り禁止の旨が記されているからよくわかった。
この大湿原は王国騎士団の管理下にあると聞いていたが、予想外の光景が広がっている。
「……あれ~? コーリちゃん、なんだか騎士の人たちがいっぱいいるよ~?」
「ああ、どうしたんだろう。想像以上にすごく厳重な警備なんだな。さすが、王国の特別自然保護地区」
そうなのだ。
入り口付近にはたくさんの騎士が集まり、さらには簡易テントなども展開されていた。
もはや、騎士団の拠点みたいな感じ。
大湿原の入り口は公園の管理室的な場所を勝手に想像していたが、ずいぶんと厳重なようだ。
みな剣や鎧を装備しているためか全体を包む雰囲気も物々しく、騎士たち自身の表情は険しい。
様子を窺うため、俺とリゼリアは一旦森の中に隠れた。
「俺たちはマリステラさんの通行許可証を持っているけど、ちゃんと通してくれるかな。リゼリアはまだしも俺は魔物だし、門前払いされちゃうかも」
「全然大丈夫だよ。だって、コーリちゃんだもん」
「う、うむ、そうか」
リゼリアは自信満々なのだが、果たして大丈夫だろうか。
この世界に来て様々な場所を旅して、やはり人語を解する魔物は非常に珍しいことがわかった。
というか、未だ出会ってすらいない。
王国騎士団といえば、国の治安を守る人たちだから第一印象で討伐されないか不安ではある。
「それより、コーリちゃん。あの人たち、何であんなにいっぱいいるか当てて?」
「え、当てるの? ……そうだなぁ、盗賊団的なヤツらが大湿原に逃げ込んだから、出入り口を塞いでるとか?」
「絶対それだよ! コーリちゃん、名探偵!」
思いついた答えを言ったら、リゼリアはキャッキャッと喜ぶ。
ずっと様子を窺っていてもしょうがないし、正式な許可証はあるということで、俺とリゼリアが森を出る。
抱っこされながら大湿原に向かっていると、数名の騎士がこちらに気づいた。
彼らは拠点に向かって、一言二言何かを報告する。
騎士たちがざわつく様子が不穏で仕方がない。
思った通り、リーダーらしき緑髪の女性が腰の剣を引き抜きながら歩いてきた。
「止まれ! お前たちは何者だ! 龍人族と……氷ミミックだな!? エイルヴァーン大湿原に何しに来た!」
あれよあれよと騎士たちが集まり、あっという間に囲まれてしまった。
みなさん、すでに抜刀しておられ威圧感が迸る。
途端に、リゼリアは割れそうなくらいの力で俺を抱き締めた。
「どどど、どうしよう、コーリちゃん! この人たち、なんだかすごい怖いよっ! 今にも攻撃してきそう! それっ、コーリちゃんガード!」
なんか、めっちゃ焦って俺を盾にする。
さっきは余裕綽々だったのにどうした。
そんなリゼリアの圧など物ともせず、女騎士はさらに俺たち――特にリゼリアに詰め寄る。
「お前の名とエイルヴァーン大湿原を訪れた目的を名乗れ。内容によっては、この場で拘束する必要がある」
「んひいいい~! 拘束だって、コーリちゃん! 私たち逮捕されちゃうの!? 高速で拘束されたらどうしよう!」
騎士たちは全員武装しているためか、リゼリアはとても怖いようだ。
よし、安心させるためにもここは大人の対応を見せてやるか。
俺はリーダーで間違いないだろう女騎士に話す。
「いきなり来て申し訳ない。俺は氷ミミックのコーリと言う名前で、こっちは龍人族のリゼリア。俺たちは北に向かって旅をしていて、この大湿原を訪れたんだ」
「……喋る魔物だと!? 総員戦闘態勢! 異常魔物の可能性がある!」
女騎士は厳しい声で号令をかけ、騎士たちは剣を構えた。
どどど、どうしよう!
よく考えなくても、これは討伐の流れじゃん!
俺が焦る間も、女騎士は剣を振り上げ勢いよく斬りかかる。
「これ以上、貴様ら異常魔物に大湿原を荒らせはしない! 覚悟!」
「ちょっと待ってくれ! 俺たちはアストラ=メーアの魔物学教授、マリステラさんからの通行許可証を持っているんだ!」
「そそそ、そうだよ! 私たちはマリステラから許可を貰ってるの!」
《収納》スキルから急いで通行許可証を出し、リゼリアが女騎士に突き付けた。
瞬間、剣は頭上で止まり女騎士の視線が書類に移る。
「……たしかに、マリステラ教授のサインが書かれているな。よく見せてくれ」
女騎士は通行許可証を受け取ると、騎士たちとともに内容を確認する。
しばし無言で読む……かと思いきや、やがて興奮した様子で叫んだ。
「お前たちはAランク冒険者なのか!? アストラ=メーアに発生したスタンピードを鎮圧しただけでなく、名有りの魔物の赤サイクロプスまで倒しただと!? これはすごい実績だ!」
女騎士は高揚して叫び、周りの騎士たちも通行許可証を見ては同じようにすごい! と歓喜する。
数分も経たぬうちに武装解除の号令が出され、女騎士は剣を仕舞いながら俺たちに話した。
「通行許可証が本物であることを確認した。さて、先ほどは失礼した。まさか、Aランクを誇る強力な冒険者たちとは思わなかったのだ。申し訳ない。私は王国騎士団、第三騎士団所属のモンセラートという者だ。この部隊の隊長を任されている。これも何かの縁だろう、よろしく」
「いや、気にしないでくれ。さっきも言ったが、俺はコーリという名だ。こちらこそよろしく」
「私はリゼリア。危うく微塵切りにされて殺されちゃうかと思ったよ~」
俺たちはモンセラートと握手を交わす。
彼女は騎士歴8年! の20歳とのこと。
明るい緑の髪はポニーテールにまとめており、同じく明るい緑の瞳はキリッとした切れ長だ。
凜とした佇まいが剣士を象徴していてカッコいい。
一時は危ぶまれたが、最初の誤解は解けたようで安心した。
「じゃあ、通行許可証はあるから俺たちは通っていいんだよな?」
「大湿原ってどんな場所なのか楽しみ~。なんか涼しそうだし、のんびりできそう」
「いや、残念だが通行を許可することはできない」
「「えっ、なんで!?」」
モンセラートはてっきり通してくれるかと思いきや、ダメだと言われてしまった。
いったいどうして……と思ったとき、先ほどの会話が思い出された。
「もしかして、さっき話していた異常魔物ってヤツのせいか?」
俺が尋ねると、モンセラートは無言で頷いた。
そのまま、現状を説明してくれる。
「実は、数ヶ月ほど前からこの大湿原で異常な魔物が目撃され始めたんだ。旅や生態調査で往来する人間を襲う他、健全な魔物を襲い生態系も乱すので討伐対象となっている。我々が討伐を完了するまで、通行は禁じている状況だ」
「「そんな……」」
「異常魔物は通常の個体より非常に凶暴な上、身体能力や魔力も不自然に強い。魔物に慣れた冒険者や騎士でも返り討ちになるほどだ」
「「なにそれ、怖い」」
俺とリゼリアは揃って素直な感想を言う。
最初に大湿原と聞いたときは、なんというかこう……長閑な大自然を想像していた。
魔物もいるとは聞いていたが、"異常"とか言われると怖くなるから止めてほしい。
モンセラートはさらに説明を続ける。
「主と思われる巨大な異常魔物も目撃されており、その討伐を最優先に我々は動いている。部隊の騎士は選りすぐりの猛者ばかりだし、装備も十分すぎるほど準備してきたのだが……」
そこで会話が一度途切れると、モンセラートはため息交じりに話した。
「実際のところ、異常魔物はかなり強い。一旦引いて、仕切り直している状況だ」
「そうだったのか。だから、こんなに騎士が……。その異常魔物ってどうやって見分けるんだ?」
「身体に浮かぶ紫色の斑点模様が特徴だ。まぁ、連中は挙動も顔つきもおかしいからパッと見である程度はわかるが」
「「紫色の……斑点模様?」」
呟くように言われた言葉に、俺とリゼリアは思わず顔を見合わせた。
脳裏にアストラ=メーアの街近くの森――"ベドー霧森"の洞窟で戦った魔物の姿が蘇る。
異常に大きく強かった、変異種の水蛇だ。
あいつも顔に紫色の斑点模様が浮かんでいた……。
俺とリゼリアは頷き合うと、モンセラートにも情報共有することにした。
「その紫色の斑点模様を持つ魔物なんだが、俺たちも戦ったことがある」
「なに、それは真か!? 詳しく教えてくれ!」
事の経緯を簡単に話す。
俺は《鑑定》スキルを所有していることや、水蛇はサンプル42という名前がついていたり、〔優秀な実験個体〕という謎の称号まで持っていることも伝えた。
モンセラートは頷きながら、真剣な様子で聞く。
「……なるほどな。話を聞いた限りでは、その水蛇は大湿原の異常魔物と同類と考えて間違いないだろう。水蛇自体強敵なのに倒してしまうとは、さすがになかなかやるな、コーリ」
「いや、それほどでもないけど」
「そこでだ……コーリにリゼリア!」
「「は、はいっ!?」」
突然、険しい声で名前を叫ばれ、俺とリゼリアは思わず直立不動になる。
なんか見習い騎士になった気分……。
モンセラートは一段と真剣な表情になると、俺たち2人に告げた。
「大湿原に発生した異常魔物の討伐を、一緒に手伝ってくれないか? Aランク冒険者が2人もいれば、かなりの戦力増加が見込まれる。もちろん、私たちが主体となって行動するから、君たちは少しサポートしてくれるだけでいい。お礼として幾ばくかの謝礼と、物資も援助する」
彼女の頼みに、俺とリゼリアは顔を見合わせる。
相談する間でもなく、こくりと頷いた。
「ああ、ぜひ手伝わせてくれ。魔物とはたくさん戦ってきたから、経験が活かせるかもしれない。でも、お金は別にいらないよ」
「物資だって、貰わなくても大丈夫。私たちはさっき一緒に旅してた人から貰ったばかりでたくさん持ってるもん。騎士の人たちに分けてあげて?」
「……ありがとう、2人とも。その返答だけでお前たちがどれほどの強者なのかわかる」
モンセラートが笑顔を浮かべた瞬間、他の騎士たちは俺とリゼリアの周りに勢いよく集まった。
「俺、Aランク冒険者なんて初めて見ました! まさか、最初に会った人が魔物の冒険者とは! この任務が終わったら仲間に自慢します!」
「やっぱり、あなたは氷魔法が得意なんですかね!? 異常魔物もその主も一撃で倒せそうだ!」
「Aランクともなれば、誰も手出しできない強さと聞きます! 間近でAランク冒険者の戦いが見られるなんて、騎士冥利に尽きますよ!」
騎士たちはみな、血走った目で興奮して語る。
なんだか、少しずつ話が大きくなっているような……。
彼らの雰囲気に当てられたのか、リゼリアもまたどこか血走った目で語る。
「そうだよ! コーリちゃんがいれば、怖いものナッシンーグ! 絶対無敵、完全無欠、勝率100%のコーリちゃん! コーリちゃんは世界最強なの!」
「う、うむ、そうだな……」
みんなの期待に応えられるよう、精一杯頑張ろう。
すぐに旅支度が整えられ、俺とリゼリアはモンセラートや騎士たちと歩き出す。
いよいよ、エイルヴァーン大湿原に足を踏み入れるときが来た。
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