凪8
翌日、すっかり体調もよくなったので遅刻せずにちゃんと学校に行った。まあもともと、体調を崩したというよりは事件のせいでちょっとだけ休みたくなっただけだったけれど。
昼休みになって、先輩がどうしてるか気になったので、ちょっとだけ三年生の教室の様子を見に行くことにした。
「チカ、今日の英語の単語テストどーだったの?」
「ん~とね、4点」
「ギリつーたん越えかぁ。まあよく頑張った、えらいえらい」
教室のドア近くの席で、どこかで見た気がする先輩たちが話している。一人は黒髪ロングのちょっと背が高い人。まじめそう。もう一人は先輩ほどじゃないけど低身長で髪が短い、あと髪色が明るい。どこで会ったんだっけな……
「ん………どしたの?後輩」
黒髪の先輩がドア前にいた私に声をかけてくれた。でも先輩を先輩って呼ぶのは普通だろうけど、逆はあんまりないのでは。
「ちょ、リン~、後輩を後輩って呼ぶやつがどこにいんだよー」
4点先輩が代弁してくれた、ありがとう。
「それもそだねー。じゃあ、後輩ちゃんってことで」
それはなにか変わったのだろうか……
「んで、なんか用?」
「えっと、はい………あの、解錠せんぱ――」
「うぇぁえ!?なんでナギちゃんいるの!?」
振り返ってみると、メロンパンを三つかかえた解錠先輩が背後にいた。三つのメロンパンのうち一つはチョコチップのやつだ。
「あ、先輩。どこ行ってたんですか?」
まあ見た感じ、どこへ行ってたかはわかる気がするけど。
「えっと、購買……じゃなくて!――」
「あ!つーたんおかえり~!後輩ちゃん来てるよー」
4点先輩が解錠先輩の話を遮ってひょっこり顔を出した………ん?”つーたん”って………
「あの、先輩って英語のテスト4点より下なんですか?」
「ひょえ!?………………」
「いやひょえではなく、どうなんですか?」
「え、いや、単語テストだから、小テストみたいなやつだし!一回だったら成績にもあんまり影響ないし!ていうか別にほかの教科は問題ないもん!」
「言い訳してもダメです」
…なんだこの、まるで先輩の”お母さん”みたいな…………
「なんか後輩ちゃんっておかあさんみたいだね~」
「いやそんなことより!なんで!?ナギちゃんなんで知ってるの!?」
先輩はよっぽど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振っている。あれ、メロンパンどこやったんだろう。あ、机にあった。
「ねえチカ!チカが言ったの!?」
「え~うちじゃないよ?」
「じゃあリン!?」
「え、私でもないけど………………あ」
「さっき私がちょうど教室に来た時に、リン先輩?がしゃべってるのを聞いただけです。なのでお二人は別にわるくないと思います」
一応、説明はしておこう。このままでもちょっとおもしろいけどね。
「なるほど……って!そこ!『このままでもちょっとおもしろいけど説明しとこ』って思ったでしょ!!」
なんでわかるのこの人。
「それで、後輩ちゃんはなんで来たの?つーたんに用事があったんじゃなかったっけ」
あ、そういえば。
「別に大したことじゃないんですけど、昨日のこともあったんで、解錠先輩元気かなって」
「昨日?昨日なんかあったの~?」
と、4点先輩もといチカ先輩。
「ちょ、ナギちゃん!!その話はいいから!!えっと、ほら!せっかくだしお昼一緒に食べよっか!!それじゃ、リン、チカ、またあとで!!ほらナギちゃん行こ行こ!!」
なぜか焦ってる先輩に腕を引っ張られて、私は三年生の教室を後にした。
屋上へ続く扉にかかった『立ち入り禁止』の札をもろともせずに、先輩はずんずんと進んで扉に体当たりをかました。こんなにちっちゃい体のどこからそんなパワーがでてるのだろうか。
「ナギちゃん、あたしはいま怒っています。理由はふたつあります。わかりますか?」
「ぜんぜん………あ、昨日のことですか?でもあれってなんで急に出てって――」
「正解だけどそれはいったん置いといて!なんでチカたちの前で言っちゃうの!」
………全然わからない。
「えっと、なにかまずかったですか?先輩が出てった理由が全然わかんなくて」
「………ほんとに?」
「はい、ほんとです」
先輩は、むむむ……と数秒間考えて、ようやく口を開いた。
「じゃあ、それについては不問とします」
はあ。
「で!もういっこ!!」
「まだあるんですか?」
「まだあるの!!…………なんで名前呼びなの…」
…はい?
「どういうことですか?名前?」
「だーかーら!なんでチカとリンは『チカ先輩』『リン先輩』って呼んでるのって!!」
「え?」
「あたしはみんなの前だと『解錠先輩』って苗字だった!なんで!」
ええぇ…………
「それはまあ、リン先輩たちの苗字知らないですし、ていうかさっき初めて喋ったので………先輩?」
先輩は、またもや顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
「あ、えへぇ~とねぇ……その、たしかにいっしょにいるとこ初めて見たから………そりゃ考えればわかることだよね……その、あたし………」
「先輩?大丈夫ですか?」
「ッ!!……あーもう!なんか勘違いして勝手にへんなこと言ったあたしが悪かったです!ごめんねナギちゃん!!なのであたしも名前呼びにするということで許してあげます!!」
ええそれは、先輩が許すほうなの………?
「まあ、いいですけど」
「ほんと!?」
「はい、ほんとです。つ、つむぎ先輩」
「わわわ、はわ………………こほん、よろしい、ゆるしてあげましょう」
ほんとになんなのこの人……………
「それじゃあ、お昼にしよっか~」
先輩は持ってきたメロンパンの袋を開けている。
「あ、ナギちゃんはなんか持ってきた?ふつうに引っ張ってきちゃったからさっき………」
急にもうしわけなさそうな感じに聞いてきた。
「え、まあ一応。一緒にお昼食べるつもりで来てたんで」
「よかったぁ!」
いやまあ、結果的にですけどね、なんかよくわかんない質問されましたし。
「あ、そういえばナギちゃんっていつもお弁当だよね。ナギちゃんお料理できるもんね。今日も?」
そういえば、まえ昼休みにうちのクラスに来た時になんかそういう話をした気がする。
「いつもはそうなんですけどね。今日はつくる時間なかったんで」
と、今朝登校中に買ってきたコンビニの袋を持ち上げる。中には…………
「………偶然ですね」
こちらもまた、メロンパン。あといちごオレ。
「え、ナギちゃんもメロンパン好きなんだね~!」
「はい、まあ。購買行ったことなかったんであるの知らなかったんですけどね………………それはそうと先輩それ多すぎでは?」
さすがに三つは多い。
「え?これくらいふつーだよ」
うーん………………
「一緒にいると、影響受けるよね…」
「ん?いまなんか言いました?」
「ほ?なんも言ってないよ?」
ほってなに………………
「ふー、たべたたべた~!」
無事にお昼を食べ終わった。ちっちゃい口でおっきいメロンパン(×3)をほおばって、ハムスターみたいになってる先輩がちょっと面白かった。
「それで、はむぎ………つむぎ先輩、先輩って結構テストの点良くないんですか?」
「え、はむってなに……じゃなくてさ。忘れてよー、あれは違うんだってー」
「なにがちがうんですか」
「わーん、またナギちゃんが”おかあさんモード”だよー」
「…それやめてください」
なんかいやなので。
「英語だけ点数が悪いってほんとですか?ほかの教科は?」
「基本的には100点だったり、95は超えてるかな~」
「……ほんとですか?」
「ほんとだよ!信じてよ!!」
いや、英語3点の人が他の教科100点とれるわけ…………
「てかあれ小テストだから!20点満点の!」
「ああそれならまあ………とはならないですけども」
「なんでよ!!………だって英語なんて、将来外国に住んだりしない限り、そんなに使わないじゃん!!いまはスマホの翻訳アプリとかあるし!!」
その言い訳がもう勉強できない人のそれじゃん。
「はぁ………まあ先輩が勉強できようができまいがどうでもいいですけどもね」
「そんな!!もっとあたしをみてよおかあさん!!…ネグレ――」
「ネグレクトじゃないですしそもそもあなたのお母さんじゃないです」
「ふーんだ、これから先、ナギちゃんがなんか事件に巻き込まれても助けてあげないからねー」
…子どもか。
「あら、私を守ってくれるんじゃなかったでしたか?先輩」
「ふぇ!?それは…いやそれはナギちゃんがあたしを守るってやつで!」
「年下に守られる先輩ってどうなんですか?」
「うう………………」
「でも先輩さいしょに言ってましたよ?『ナギちゃんを危険にさらしたくないから、一生守ってあげる』んだって」
「え!えぇ!?いや一生守るとは……………言ってないよね?」
そこで自信なくなっちゃうんですか…
「まあ言ってないですけど」
「言ってないんじゃん!!」
先輩がまたほっぺを膨らませて怒ってる。
「まあ、私は先輩が全教科3点でも、どれだけ勉強できなくても、先輩のすごいところ、先輩しかできないことくらいは知ってますから。安心してください」
私は何度か『名探偵』の先輩を見てきたから。
「だ~か~ら~!!もうその話ナシ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます