凪2
放課後。そういえば私は先輩の連絡先を知らないし、なんなら先輩のクラスも知らないので迎えに行くこともできないから、校門の横で先輩が来るのを待っていた。いや、別に知ってても迎えに行くわけじゃないしそもそも、こんなよく分からない約束、いつもの私なら全然無視するんだけど……
「リン~このあとカラオケ行こーよ」
「チカ、いつもと違って眠そうじゃないね」
ふいに、横から話声が聞こえてきた。見てみると、女子生徒が二人、校舎から出てきたところだった。リボンの色を見た感じ、先輩と同じ学年らしい。
「そりゃさっきの授業でしっかり睡眠とったからねぇ。えーじの授業って、声ちーさいし字読みづらいから眠くなるも~ん」
「そんなんだから化学赤点なんだよ…」
……石田先生、あんまりいい授業してないんかな。あ、そういえば先輩って、自称成績優秀だけど実際どれくらいテストの点良いんだろう。
そんなことを考えていたら背後から、昼休み散々聞いた声が聞こえた。
「あ、ナギちゃん!居た居た~待っててくれたんだぁ♪…………」
「なんですかその無言」
「なんかこれって、恋人同士みたいだね♪」
「っ…!何言いだすんですか急に!」
「ん~ナギちゃん顔赤いよ、本気にした?」
もう帰ろうかな……
「もう!私帰りたいんで、さっさとしてください!」
「あ、そうだね。さっさと調査行こう!」
「ちがいます!本です!」
「え?本?ああこれね」
鞄から、昼休み私が読んでたカバーのついた本を取り出す。先輩、結局そのまま本持って行っちゃってたから。
本を返してもらったので、これでようやく帰れる。
「……あの、手離してくれません?」
「一緒に調査してくれるんだよね?」
……しょうがないか。
「わかりました。じゃあほら、一緒に調査?してあげますんで、手離してください」
「よろしい♪それじゃあまず……ってちょっと!逃げないで!」
本を返してもらった瞬間にダッシュ。幸い走りには自信があるので逃げれる。
「ねえ、ちょっと!待ってってば!」
先輩は(ちっちゃくて子供みたいなのに)走るのはそんな得意じゃないみたい。差がどんどん広がっていき、かなり遠くなって、声が届くのがギリギリ。これなら――
「……あー!そういえばその本の内容だけどさ――」
な…!
「見たんですか!?本の内容!」
「はい、捕まえた♪」
先輩が私の腕をぎゅっとつかんでくる。
「ん~どしたのナギちゃん?ほら、調査行こ?」
「……あの」
「ん~?」
「内容見ましたか…?……その、本」
「あ、別に見てないよ。ただ、いつも無気力少女で何にも興味なさそうなナギちゃんが、あたしが来るのを待って取り返そうとするほどの内容なのかなーって」
「別にそういうわけじゃ……」
「じゃあどんなお話の小説なの?」
「それは…その……ほら!調査行くんですよね?さっさと行きましょうよ!」
「うん♪行こ行こ~」
それから少しして、私と先輩は、学校から少し歩いて件の印刷会社に来た。
「で、来たのは良いですけど、先輩。結局ここ何なんですか?」
「あたしもわかんない♪」
あー……
「だ、か、ら、今から調査をするんだぁ♪」
「その調査って何をするんです?」
先輩は人差し指を立てて、得意げに言った。
「とりあえず入って、エイジのこと聞いてみようよ!」
特に鍵もなにもない入口のドアを開けると、特に変わった様子がないオフィスが現れた――ひとつの点を除いては。
「先輩、誰もいませんね」
「む、ほんとだ。だーれもいない」
デスクの上は片付いていて、人が居た痕跡は全くない。
「ねね、ナギちゃん。机の引き出し、中身なーんもない」
先輩が並んだデスクの間からひょこりと顔を出している。
「……かくれんぼですか?」
「え、何が?」
「なんでもないです、ていうか勝手に調べていいんですか?」
「ん、だって気になるじゃん」
あっけらかんとい言う。もはや何を言っても無駄な気がした。
オフィスを見渡してみると、中途半端な位置にやら大きな機械が置いてあることに気づいた。
「業務用のプリンターですね。でもあんな場所に置いてあったら邪魔そうですよね」
「ほんとだ。それにさ、そもそも業務用のプリンターってなんかおかしくない?」
先輩は何か考えているようだ。いつもよりもまじめな表情をしている。
「おかしいって何がですか?普通の業務用プリンターだと思いますけど」
「普通の業務用プリンターだからだよ。この建物って、印刷会社って名目だけど、印刷会社なら、さらにもっと大型のプリンターが必要なはず…」
確かに、業務用ではあるものの、より大きな印刷をするためにもっと大型の機械があるべきだ。しかしここには、そのプリンターが一台だけ。
「まあでも、ここはあくまでオフィスで、仕事場みたいなところはまたべつであるんじゃないですかね?それなら業務用プリンターが一台でもおかしくはなさそうです」
「それに、そもそも引き出しの中身がからっぽなのもおかしいよ。いままで誰もここで働いていないみたい。そもそもこの会社自体が怪しい」
「どうしたんですか。急にまじめですね」
「なんでもないよ。ただ気になるだけ」
なんでもないっていう割には、いつもとは比にならないくらい、しっかりしている気がする。
先輩は、業務用プリンターのほうへ行き周りを調べ始めた。中身や機械の下を調べている。
「そんな下とかになんかありますかね……あっ」
「ん?ナギちゃん、何か見つけた?」
プリンターの下ではないが、屈んでみたときに、プリンターの隣のデスクの下に何かがあるのが見えた。
引っ張り出してみるとそれは、鞄だった。
「なんだろう、これ」
「なんかビジネスマンとかが持ってそうな鞄ですね……中、見てみますか?」
先輩は頷いて、鞄を開けた。中には、プラスチックのA4サイズの書類ケースと、ペンやカッターナイフなどの文房具が入ったポーチだった。書類ケースの中身は、外国語の資料の束だった。
「先輩、この資料、なんて書いてあるかわかりますか?」
「あ、いや~あたし英語は苦手でね。ちょっとナギちゃんが読んでみて」
「いや私もわかんないですよ。あ、先輩これ英語じゃなくてドイツ語です」
スマホの翻訳アプリでカメラ入力してみると、どうやらドイツ語で書かれた医学分野の研究の論文みたいなものだった。
「うーん。ちょっと翻訳の精度が悪くてあんまわかんないですけど、なんか生命に関する研究とかの論文みたいです」
「生命、ね」
「……先輩?なんか顔色悪いですけど大丈夫ですか?やっぱりもう帰ったほうが」
「大丈夫、調査を続けよう」
なんだか少し怖くなってきた気がする。本当に大丈夫だろうか……心配だな。
「あ、ナギちゃん触ってみてここ、このプリンターの下。ほかの床と材質が違うみたい」
先輩がプリンターの下に手を突っ込んでこっちに視線を向けた。
「いや、先輩くらいじゃないと手入りませんよ、そこ」
「あーね、私がちっちゃくてかわいいってことねおっけー」
……心配せずともいつも通りだこの人。
「ちょっと一緒にどけてみようよこれ」
「はいはい、よし、せーのっ」
ズズッとプリンターをどけると、下には金属製の扉のようなものがあった。
「これって…」
なにか触れてはいけないもののような気がした。やっぱり帰ったほうが――
「地下室!これはもう行くしかないよね?よし、行くよナギちゃん♪」
まあ、そうなるよね。うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます