凪を紡いで
たまごろう
凪1
昼休みの教室は少し騒がしい。小中学校の頃なんかは、昼休みのチャイムがなったらすぐ校庭に駆けていく者もあったが、高校ではそんなことはない。こんなことを考えると、自分が他の子と違って子どもっぽく見えてしまって自分自身が嫌いになる。
入学式から一週間ほどしか経っていないのに、クラスの派閥みたいなものはもう固まっているようで、男子女子関係なく楽しそうに談笑しているグループもある。いわゆる”陽キャ”というやつだろう。
反対に、私は”陰キャ”だ。いたって普通のお弁当を食べた後の時間は、特にすることもないので読書で浪費している。読書は別に好きでも嫌いでもないが、なにもせずにただぼーっとしてるのは周りから見たら気味が悪いだろうからね。
正直あまり読書に適した環境ではないだろう。だって騒がしいんだもん。別に昼休みだから過ごし方は自由だし、文句を言うつもりもないし、そもそも読書に集中したいわけではないから問題はない。
読書をしていれば、誰も邪魔しようとは思わないから、声をかけてくることがないから、無駄なコミュニケーションを強いられずに済むので――
「はろー、ナギちゃん♪今日も本読んでるね!本屋さんのカバーついてる~なになにどんな本?ああ、それより昨日テレビでやってた駅前のクレープ屋さんのチョコバナナクレープがすっごくおいしそうでね!あ、あとさっき授業で先生が――」
「情報が多いです。一つずつ話してくれませんか?解錠先輩」
こういう人でもない限りね。この人は
「ん~?なんだい?先輩に話しかけられて嬉しい~!って顔してるねぇ。クラスのみんなに自慢できるもんね~先輩と友達ダヨーって!」
「そんな顔してないです。あとそんなに先輩って感じしませんよね」
「んな!あたしが、身長ちっちゃくて軽くてマスコットみたいでぷにぷにでちっちゃくて元気だからあんまり先輩っぽく見えないって?ナギちゃんはいい子だなぁ!」
にこにこで、勢いよく抱き着いてくる。
「そんなに言ってないですし、ちっちゃいって二回言ってません?それ。そんなにちっちゃい自覚あるんですか?あと離れてください」
「だってほら、ちっちゃくてかわいいでしょ?」
と、このように足りなすぎる身長もコンプレックスじゃないらしい。無敵かこの人。
「はいはい、もうそれでいいですから。結局何しに来たんですか?」
「あ~うん、それなんだけどね。えーと、ちょっとまってね」
先輩は制服のポケットを探って、トランプカードくらいの大きさの一枚の紙切れを取り出した。
「これなんだけどね、さっきの授業で、先生が落としていったんだけどさ…」
紙には、数字とかアルファベットなんかがびっしりと書かれていた。秘密の暗号か、はたまた謎の研究か。
「なんですかそれ。数字…なんかの数式ですか。それからアルファベットとか」
「ね、これ不思議だよね。気になるよね。じゃあほら」
「気になりません。はい、話はおしまいですね。じゃあ私は読書に戻りますね」
正直ちょっと気になるけど、私には関係ない。
「えぇ~!!気になるよね?ねえ?ね!」
「え、あっ、ちょっと、本取らないでくださいって」
先輩が読もうとした本をとって、頬を膨らませている。この人、本当に高校三年なんだろうか。
「ナギちゃんが話聞いてくれるまで返しません~」
子どもか。
「分かりました、聞きますから。確かにそれ、ちょっと気になります」
「ほんと?やったー!」
……ほんとに私より年上?
「それで、誰がそれ落としたって話でしたっけ」
先輩が持ってきた紙切れに視線を向ける。細かくて綺麗な字だ。
「あ、そうそう。化学の先生で、石田英二って先生なんだけど、ナギちゃんは知らないかな」
石田先生、たしか入学式の時に見かけた気がする。
「入学式の時に見かけた先生ですかね。確か、背が高くて眼鏡の」
「あ、そうその先生。よく覚えてるね」
まあ、記憶力はいいほうだと思うので。
「ナギちゃんは記憶力いいんだね。じゃあさじゃあさ、昨日の晩御飯は?」
「うちでトマトリゾット作りましたけど。あのこれなんの意味が」
「へぇ~お料理できるんだ!いいなぁ」
ほんとに何がしたいの…
「あとはさ、中学の頃の部活は?」
「その情報今いらないですよね。ほら、話脱線しまくってますから。ほら、石田って先生が?」
この人、ほっとくと無限に質問してくるな。体重でも聞かれたあかつきにはしばいたろうか。
「ごめんごめん、ナギちゃんのこともっと知りたいからつい。あ、でね、このメモみたいなやつなんだけど、そう、そのエイジ…先生が落としてったの。んで、気になったからまずここの数式を解いてみたの、そしたら10桁の数字になって、区切りを考えてみたら、なんか電話番号みたいね」
「とりあえず数式解くってなんですか…なんかこれすごく難しそうですけど」
「まあね、これでも成績優秀だもんね♪」
ふふ~んってドヤ顔してる。あんまり調子乗らせるのもよくないかもしれない。
「それで、その番号ってどこにつながるんです?」
「んとね、ネットで調べてみたら、この学校からすぐ近くの印刷会社の電話番号だったの」
なんだ、ただの印刷会社の番号か。
「なんだかおかしいって思わない?」
「何がですか?ただの印刷会社の番号だったんでしょう?」
「だって、ただの印刷会社の番号をこんな数式にして書く必要ないでしょ?」
まあ、それもそうかもしれない。
「じゃあ先輩の計算が間違ってるんじゃないですか?それに偶然その電話番号と同じになった可能性も」
「10桁の組み合わせってどれくらいあると思う?」
「……100億通り?」
「そう!だからやっぱり――」
「100億分の一の確率ですね。おめでとうございます」
「そうじゃなくて!やっぱり絶対なんかあるって!」
なんかって、いったいだたの印刷会社にプリンターやインク以外に何を求めてるんだろうか。
「ってコトなので、今日の放課後、調査するよ♪」
「え、は?何ですか調査って」
と、ちょうど予鈴が鳴った。
「あ、それじゃ、また放課後ね!」
わけのわからない約束を残して、先輩は自分の教室に行ってしまった。
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