沙穂と龍哉の日常

しなとべあ

第1話 プロローグ:僕と龍哉くんの日常

僕の名前は八星沙穂(やつほし さほ)!


へっぽこへなちょこちんちくりんな要介護系女子高生!


……うん、頭脳はへっぽこ、体力へなちょこ、そんな見た目はちんちくりん。


そして、左足が義足で、虚弱すぎて日常生活も介護なしでは生きることもできなかったんだよね。


でも!


この前に色々あって、かっこいいオッドアイと魔法の義足にちょっと不思議な力を得た。


その結果、なんと……日常生活を、ぎりっぎり、自分で少しできるようになったのです!!


異世界ぱわーすごい!わーい!!


そして、そんな僕と一緒にいてくれるのが、龍哉くんと言う強くて格好良くて優しい大きな男の子!


異世界で三百年戦い抜いて、世界を滅ぼしてでも僕を救ってくれた僕のヒーロー。


ほっといたらすぐに死んじゃうぐらいよわよわの僕を、介護し続けて救い続けてくれた。


僕がここにいるのも、生きていられるのも、僕が元気で笑えるのもぜーんぶ、龍哉くんのおかげ!


そんなへっぽこな僕と、すっごい龍哉くんの、少し変わった日常へご案内します!




月曜日。


学校に行くために、僕は初めての挑戦をしていた。


龍哉くんの腕にしがみつくようにして、僕はぷるぷると震える足が崩れないように必死にふんばる。


僕と龍哉くんは身長差がすごいから、半分ぶら下がってる気がするけど、今はそれどころじゃない。


校門から心配して見守ってくれて付き添ってくれている友達が教室の扉を開けてくれる。


僕が龍哉くんにしがみつき、生まれたての小鹿さんでももう少しましなぐらいに震える足で、ゆっくりと自分の机に向かって歩いていく。


教室が静まり返り、僕の一歩一歩に、誰かがごくりと唾をのむ音が聞こえた気がした。


友達が椅子を引いてくれる。


僕は、ようやく椅子までたどり着くと、龍哉くんに支えてもらいながら、ゆっくりと椅子に座って。


教室が、歓声に包まれた。


「沙穂ちゃん、がんばった!」


「え、家から歩ききったの?まじで!?」


クラスのみんなは、僕が小学校の地震以降、まともに歩けないのを知ってるからか。


みんな自分のことみたいに喜んでくれてる。


いい人過ぎないかなみんな!


僕は、机につっぷしながら、みんなに向かって小さく手を上げる。


みんなが拍手で応えてくれる。ノリいいねみんな?


「よく、頑張ったな」


誇らしいものをみるように、優しい顔をした龍哉くんが僕の頭を優しく撫でてくれる。


「うん……夢だったからね、頑張った」


へにゃりと、僕の顔が崩れるのがわかる。


僕はずっとまともに歩けないって思ってたから。


いつか、龍哉くんの隣を歩く。


それが僕の夢だった。


なので、頑張った!


頑張ったけど……。


「……明日からは、お願いしてもいい?」


思った以上にたいへんだった!!


……毎日は、たぶん授業にならないと思う。


というか、今日動けるかな僕?


全く力が入らない自分の身体に、嫌な汗が流れながら。


盛り上がる教室に何事かと驚くを先生を見ながら、龍哉くんを見上げて。


「今日一日はその体勢だな」


「ふぇ……」


僕が動けないのをお見通しだった龍哉くんの苦笑いに、僕は情けない声が漏れるのだった。




駄目でした!!


クラスのみんなの「沙穂ちゃんは頑張った!」コールにあっさりと納得してくれた先生。


むしろ先生も一緒になってコールに参加しないでほしいかな!


流石に僕もちょっと恥ずかしくなってきたよ!!


先生も、僕のことを昔から知ってくれてるからか、ちょっと涙ぐんでくれた。


いい人過ぎる……。


とはいえ、ぐったりへにゃりと机とお友達になる以外できない僕。


そしたら、それを見ていた女の子の友達が、クッションとか上着を貸してくれた。


どんどん快適空間になっていく!


そんなこんなでホームルームも一時限目も乗り越えた僕に、さっそく女の子軍団が群がってきた。


「みんな、ありがと。僕、一日中机さんにほおずりして過ごすと思ったから助かったよぉ」


「沙穂ちゃんが頑張ってきたのは見てきたから」


優しくておっきな澪ちゃんが励ましてくれて。


「……本当に。よかったら、チョコレート食べますか?」


落ち着いて大人な楓ちゃんが、個包装のチョコレートを差し出してくれる。


「わーい!」


餌付けは大歓迎です!


ちらりと、龍哉くんを見ると、苦笑して頷いてくれてるから食べてよさそう。


胃袋もへなちょこな僕は、食べる量も気を付けないと栄養がすぐ足りなくなるんだよね。


楓ちゃんが一口サイズのチョコレートを僕の口に差し出してくれる。


僕は自分ができるかぎり大きく口を開けて、チョコレートをもぐもぐ。


「ん-っ!」


あまーい!


ミルクチョコレートだ!


このストレートな甘さのお菓子って、実はあまり龍哉くんは作ってくれないんだよね。


龍哉くんは凝り性だから、お菓子系は繊細で奥深い味わいになるんだよね。


美味しさでは圧倒的に龍哉くんのお菓子なんだけど、こういう市販のお菓子も僕大好き。




僕に餌付けをしていた楓ちゃんが、ぴたりと止まって、僕の顔をじっと見る。


あ。


「……沙穂さん、その目どうしたのですか?」


そうだった。


昨日オッドアイになったばっかりなんだよね、僕。


楓ちゃんの言葉に、みんながぞろぞろと僕の顔をのぞき込む。


「ほんとだね。沙穂ちゃんオッドアイになってる……」


「さほちカラコン入れたの?ってかっわ!」


「え、目覚めたのか!?」


一人だけ反応おかしい男子がいるね!


中二病に目覚めてないよ僕!


まぁ……中二病があこがれる本物にはなったけど!


「えっと、その……」


どうしよう、言い訳考えるの忘れてたよ!!


「沙穂は色々あったんだ」


龍哉くん、フォローうれしいけど雑だよ!!


それだと中二病に目覚めちゃったも選択肢に入っちゃうって!


「病気だったりしないん?」


「それはない、大丈夫だ」


陽菜ちゃんの言葉に、落ち着いた顔で龍哉くんが頷く。


龍哉くんが、僕に関することで誰よりも詳しくて真剣なのをみんな知ってるからか、大体納得してくれる。


「……よく見たら、義足も豪華できれいになってます?」


「えへへ、いいでしょ」


色々あって引き継いだこの義足。


実は魔法の義足なんだよ!って自慢したいなぁ。


……そんなことしたらみんなから生暖かい目で見られて中二病ルートまっしぐらだから言わないけど!


「この義足だから登校頑張ったんだね」


「その通り!」


澪ちゃんとハイタッチ!


とはいえ、僕の体力がへなちょこなのはそのままだから、体力づくりからだけどね。


「……でも、周防さんに抱っこされる沙穂さん癒しだったんですけどね」


楓ちゃんの言葉に、まわりのみんなが深く頷く。


そうだったの?


僕がちらりと龍哉くんを見上げると。


「今日は沙穂の強い希望で無理したが、しばらくは前と一緒だ」


だよね。


まぁ、僕としても龍哉くんに抱っこしてもらうのが当たり前だからその方がいいんだけど。


何故か周りのみんながほっとしてる。


そんなに??




でも。


前は、正直自分と龍哉くんのことで精いっぱいで。


こんなにいい友達に囲まれてるのに、僕はみんなに恩を返せなかった。


だから、今なら。


少し元気になって。


すごい不思議な力を得て。


何より、龍哉くんが異世界パワーを取り戻して最強さんなので!


これから、いっぱいみんなに恩返し出来たらなって。


みんなに囲まれた温かさで胸がいっぱいになりながら。


僕は二個目のチョコレートを催促するのでした。


あまーい!

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