第11話ゼニゲバの矜持



その頃ゼニゲバ家では


当主が一人執務室の椅子に座って自問自答していた。



「俺はいったいどこで間違ったというのか?」



「父の言うように…人を信じず。人を利用して…生きてきたじゃないか?」



「たしかに父の代より家を大きくした。


政略結婚で他の有力貴族も抱きこんだ。


金で支配した。」




「もう少しだったのに…


なにが原因だ…。」




「あの…男か…」




「あの男と関わってから…


ロクなことはない…


あー疫病神だったのか…」




「あーマーガレット。


俺のことをなぐさめてくれないか…」



そういいながら


俺は


マーガレットとの最後の日を思い出していた。



マーガレットは俺の一つ下の使用人で


よき理解者だった。



俺は幼少期より


帝王学を叩きこまれ


同じ世代の子たちと…遊んだことさえなかった。



人は裏切る


人は利用するもの


人は支配するもの


勝たないと人生には意味はない


勝者以外は全て敗者だ



それが父の教育だった。



そんな俺の心を唯一


癒したのがマーガレットの笑顔だった。



貧民街の出だが、


色が白く美しい少女で


頭もよかった。



彼女は


「あなたは本当は、誰よりも人を信じたいんでしょう?」と笑った。


その一言だけが、俺の凍った心を動かした。



マーガレットと恋に落ちるには時間はかからなかった。



そしてマーガレットは俺の子を身ごもった。



俺は少し躊躇はしたが…


一晩考え父を説得することにした。



「父上」


と執務室を訪れると



そこには真っ赤に染まったマーガレットが


倒れていた。



俺は彼女の白い指先に、小さな刺繍針が握られているのを見つけた。


彼女は、赤ん坊の服を縫っていたのだ――最後の最後まで。



父の手には


真っ赤に染まった剣があった。



父は言う。


「厄介者は処分した。


これで安心だ」



俺は


その光景に耐えれず


嘔吐した。



俺はそれから


3か月の間


人と会わなかった。



3か月


部屋を出た彼の顔は


まるで別人だった。



父は言った。


「ようやくマシな面になったな。人の最後を“資産損失”としか見なくなれば、一人前の支配者だ」




こうやってゼニゲバは誕生した。



◆ ◆ ◆



その後


彼は


眉毛一つ動かさず


父を始末し


家督を継いだ。



その姿に誰も抵抗する者は


いなかった。



結婚し…妻を複数めとるも


何もしない。


当然…


子もいない。



絶対的な孤独の中


彼は人の幸せを憎み続けた。



貴族という階級世界


王国という小さな壺で


ライバルを喰らい続けた。


裏切り


不正


謀略



孤独な戦いは


蟲毒となった。



彼自身が


王国を蝕む呪具に成り果てた。



一体彼は何を望んだのか?


一体彼の父親は何を望んだのか?



これがゼニゲバという男の…


いやゼニゲバという家の悪夢だったのだ。




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