第3話投獄されたけど、空気を読まずに脱獄し、ついでに他の人も助けてしまった件



ぽつり


水滴が顔にかかり…


意識を取り戻した。



まだ頭がぼーっとする。



あれがガーデニアの過去か。


何を言っていいのか…


言葉を失った。



いや。


今はそんな事を考えている場合ではない…


脱出しなくては…



貴族の屋敷の地下牢には、俺以外に2人捕まっているものがいた。



看守はいない。食事は1日1回朝のみで、あとは放置だ。



ひどい悪臭で…


家畜以下の扱いのようだ。



早くでなければ、きっと始末される。



2人もそれぞれ…疲れた顔をしている。



ふとポケットを探ると、針金が1本。



あれこれ余裕じゃねと。



牢屋のカギを開けたら、



カチャン――


え、マジか? ってくらい、拍子抜けするほどあっさりと鍵は開いた。


拍手のひとつもほしくなるほどの軽業だったが、誰も見ていないのが残念である。




ほかの2人も出たそうにしていたので、他のとびらの鍵も開けた。




◆ ◆ ◆




脱走途中に壁にかかった紋章を見た。



その紋章に息をのんだ。


あのガーデニアの両親の命をうばった犯人の剣についていた紋章だ。



あの紋章を見た瞬間、胃が逆流したような感覚に襲われた。


喉の奥が焼けるように熱くなり、拳に知らぬ間に力がこもっていた。



ガーデニアの両親は、この貴族か、その関係者に…



行き場のない怒りが俺を飲みこんでいったが…



今は連れが2人もいる。


止まっている余裕はない。


屋敷から出る途中に


間違って入った倉庫に無造作にお金があったから…


1000Gほど盗んでいった。溢れるほどお金があったので気付かれないだろう。



途中3回ほど、見つかりそうになりながら、ようやく屋敷から逃げ出せた。



◆ ◆ ◆



まだ明るい時間だ。


これからどうしよう。



ボロボロの恰好で不審者同然。



じっとしてれば、確実に通報される。



そして貴族ゼニゲバに捕まれば、今度こそ始末される。



俺も冒険者ギルドには戻れない



とりあえず3人で地下に潜ることにした。


地下は割高だが、ほとんどのものが揃う



◆ ◆ ◆



ひとりは騎士だった男パーシモン。腕も太く、背も高いが、瞳の奥にうっすらと諦めの色が滲んでいた。


もうひとりは税務官だった男カタルパ。痩せぎすで小柄だが、眉間の皺は深く、何度も不正を見てきたのだろう。


2人とも口数が少なかったが、助け出された時だけは、ほんのわずかに目の色が変わった気がした。



2人とも。


貴族の不正の疑いを上司に報告したら、突然捕まり投獄された。


今は失踪したことになっているらしい。



3人ともこの世界に復帰するには、貴族を倒すしかないだろう。



地下街の空気は重く湿っていて、どこか薬品と鉄錆のにおいがした。



地下街の隅っこで俺たちは相談を始めた。


さきほど地下の商人からパンとワインを買い、


飲み食いしながら、相談することにした。



すこしカビかけのパンだが、空腹は最大のスパイス。


こんなものでも美味く感じる。


そして体調は少しは回復した。



ワインは酸味が強かった。



騎士の肩がわずかに震えていた。自由というものを、まだ信じきれていないようだった。


税務官はパンを噛みながら、しきりに指先で書類のクセをなぞるように動かしていた。――それぞれが、それぞれの傷を抱えていた。



「面倒だからさ~屋敷に火をつければいいんじゃないか?」と俺



「あーそうだな。それは……いや、燃えるかな?」と騎士パーシモン




「お二人ともちょっと待ってください。あの屋敷は石造り。火をつけてもすぐに消し止められます」と税務官カタルパ



そうか…



「じゃあひっそりと始末するのは?」と俺



「あーそうだな。それは名案だ」とパーシモン



「お二人ともちょっと待ってください。あの貴族は、常に護衛がついております。しかも実力は王国屈指の腕前。すぐに止められます」とカタルパ



「あのさ…まず外堀を埋めよ。って言葉があるんだけど、なんか周りから徐々に的な攻め方はできないのかな?」と俺



「あーそうだな。それは名案だ」とパーシモン



「なるほど…。


たしかにゼニゲバ家には、とりまきの連中がいます。


そのとりまきの連中は、一人一人はたいした力を持っていませんが、


数の力でゼニゲバ家を支えています。


これらを一つずつ潰させれば、ゼニゲバ家の勢いをそぐことはできるでしょう」とカタルパ



「しかし…どうやって攻撃する?匿名で役所や騎士団に投稿してもにぎり潰されるのでは」と俺



「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン



「あっゼニゲバ家に積年の恨みがある貴族がいます。この方に不正の証拠を渡し、王に調査を進言するようにすれば?」とカタルパ



「それは超名案っぽい。じゃあそれでやろう」と俺



「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン



「しかし…問題はどう信じてもらうかですね…」とカタルパ



「信じてもらう???別に証拠を置いておけば信じるんじゃね。その家の家紋が入ったものとか同時にあったら、信じるんじゃねーの。よーわからんけど…」と俺



「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン



「たしかに…それに…こういうのは思い切りが必要ですね。じゃあやりましょう」とカタルパ



「しかし何からはじめる」と俺



「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン



「そうですね。もし基礎的な情報…例えば噂とか…そういうのを調べれるのであれば助かるのですが…」とカタルパ



「あーそうだな。おれもそう思う」とパーシモン



「お前…そればっかだな。なんかアイデアないのか?」と俺



「あーそうだな。おれもそう思う…


ここは地下だろ。なんでも売っている。情報とかも買えるのでは?」とパーシモン



「おぉいいアイデアじゃんか」と俺



「たしかにそれはいいアイデアです。ではまず状況を整理して、ターゲットを絞りましょう」とカタルパ



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