第18話 ほのお

「いいねぇ」


「主人公は色盲だったのかな?りんごは美味しそうな赤だもんね」


「赤いりんごは茶色いチョコレートに見えていたってことか…」

ああ、それなら僕もわかるぞ?

僕黄色が見えないからな。


「次、行きますよ…と言いたいところですが」


「なんだぁ〜?

ついにネタ切れか?」


「お、よく分かりましたね?そうですネタ切れです。」

正直ネタはその辺に転がっている。何かキーワードがあれば、それを何倍にも膨らませてあげられる。


「えーじゃあどうするのー?」


「なんでもいいのでワードをください。そこから物語を作れます。」


「えーすごーい!」


「さすが、“何年も生きているだけ”ありますね。」


「えーっと。そんなに長い間生きてはいないですし、元々こういう遊びをするのが好きだっただけなので。」

いちいち癇に障るな。

寺の子よ。あまり僕を怒らせない方がいいぞ。

そう、目線で訴えておく。


「じゃあさ!

ほのお

ってお題は?目の前で燃えてるし!」


「出来ますよ。では…」



『ほのお』

 代々炭焼きの家に生まれた。

炭の音にあやされ

炭の音に愚痴を聞いてもらっていた。

そんなある日、父が倒れ

炭焼きを継ぐことになった。


「母上、僕は父のように立派な炭焼きになれるでしょうか?」


「ええ、なれますとも。あなたは炭と共に成長してきたんですもの。

ほら、炭の声が聞こえるでしょう?」

ぱちぱちとひのこが跳ねる音。

これは子守唄でもあり

父の背中でもあるのかもしれない。

そんなことを思っていたら

俄然、やる気が出てきた!

頑張らないと!


そこからは身を粉にして働いた。

雨の日も

風の日も

雪の日も

そうして、村では評判のいい、質の良い炭を焼けるようになった。

妹たちも鼻が高いようで、

「お兄ちゃんの手伝いかい?えらいねぇ、これ、おすそ分けだよ?」

なんて言って、村のお母さんたちからこっそり駄菓子をもらってくる。


 そんなある日。

炭焼きのために釜まで下駄を引き摺って歩く。

するとそこで、炭が燃えていた。

パチリぱちぱち

と音を立てて

何やら抗議している様子。

聞き耳を立ててみれば。


「ねえおにいさん?どうしてぼくたち焼かれなきゃいけなかったの」


「「そうだそうだー!」」


ん?炭が…しゃべった?

いいや、そんなわけない。だろ?

きっと働きすぎたんだ。

「ねえ!炭焼きのおにいさん!」

…は、話しかけられてる!どれに?

いや、そういう問題ではないだろう。…おそらく。


「ねえってば!ほんとはきこえてるでしょ?」


いや、やっぱり夢じゃない。どうしよう。


「みんな?しーっ!

おにいさん、ちょっとこまっているよう」

いや、そうなんだけどさ、そうなんだけど…

流石に夢…てことでは割り切れないよ


「わかった。埒が開かない。一回飲み込もう。」

よくわかっていない。が、しかし。

わかったふうにしなければ話が進まないと見えた。


「それで…。お前たちはどうして喋っているんだ?」


「おはなしきいてくれてありがと!

…でもね?ぼくたちもわかんないの!」

〈いや、わからんのかーい〉と、自分でノリツッコミをかます。それくらいもう何が何だかわからない。


「わかった。じゃあ、お前たちはどうしたい?元いた場所に放つことも、土に埋めることもできる。」

まあ、もとはその辺に転がってたモノだしな。


「たしかに元いたところにかえりたいし会いたい人もいるけど…いまはいい。そのままで」


「それでいいのか?」


「うん。だからすこしだれもいないところにいきたいかな」


「じゃあ、あの離れのところにおいておこう。」

しかし、いったいこいつらどうやって話しているんだろう。

目もなし口もなし耳もなし。まるで風見鳥じゃないか。


…なんて話をしていたら、後ろからぱちぱちと話し声が聞こえた。


「…ふふっ、いいじかんかせぎだったね…」

なんて声がヒソヒソ聞こえてくる。

またそのノリかとうんざりする。

いや、待てよ。

その方向って……


「ぱちぱち」

「ぼううぼうう」

「ゆわゆわ」


不思議な効果音を口ずさみながら

僕の家を燃やす

お前たちは

楽しいか?


「ぽくぽく」

「ぱっぱっ」

「ぼううぼうう」

「めそめそ」


ときどき悲しそうな声も聞こえる。

なぜ泣いているのか僕にはわからない。

そして、もうそれ以上何も聞こえはしなかった。

しかたないな。ちゃんと灰は元の家に戻しておくかな。探してるみたいだし。


“最近、村の子どもが行方不明になる事件が度々起こっています。不審な人物を見かけた方は……”

という立て看板もついでに炭にしてこの前妹たちに売ってきてもらったな。





 僕はまたひとつ蝋燭を吹いて消した。

立ち込める煙とロウの香りがやっぱり苦手だ。

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