第22話 月にかわって制裁を②

 クエスト対象の討伐を間近に控え、小休止することとなった“勇者と愉快な仲間たち”と“三ツ首ライオン”の混成パーティ。


 小太りの男、ガスタのお手製焼き菓子が全員に配られていた。


「なにこれ、うっまぁッ!」


 フヅキが一口かじって、叫び声を上げた。


「本当だ、この絶妙と言える甘さ加減と微かに広がるほろ苦さ……やたらと舌に馴染むぞ」


 イゾウも目を丸くして、賛辞を述べた。


「ガスタの菓子作りの腕はプロ顔負けなんですよ」


「へへ……実家が菓子屋だったもので」


「ほんと、冒険者にしておくのが勿体ないのよね」


 菓子に毒などが混入していないことはキョーカの目配せを見て、パーティ全体で共有できている。他の面々も食べ始めていた。


「なぜ3人は冒険者になったんです?」


 エフが雑談がてらに質問をした。


「我々は同郷で子供の頃からずっと一緒に育ったんです。いつか3人で冒険をしようって言い合っていて、それを叶えた形なんですよ」


「大人になっても言い続けていたのはソーマだけよ。おかげで実家を継ぐはずだったガスタも働きに出ていた私も急に旅に連れ出されて」


「親を説得するのどれだけ大変だったか」


「アハハ……あの時は悪かったって」


 リンとガスタが文句半分、嬉しさ半分でそう言い合う。

 言われたソーマは笑って謝罪した。話しぶりから2人も旅に出ることにまんざらでも無かったのだろう。


「仲いいんだねぇ」「ただの腐れ縁よ」


 フヅキの正直な感想にリンはちょっと照れ臭そうに返答した。


「リンはああ見えて地元ではいいとこのお嬢様でね、許嫁いいなずけまでいたんだよ。もうすぐ結納ってところで、ソーマが旅に連れ出したんだ」


「わ、すごい。駆け落ち!?」「まあ! 素敵な話ですね!」


 女性陣がガスタの話に興奮気味に反応した。


「ガスタ、あなたいっつも余計な話して」


 リンが頬を赤く染めて口を尖らせた。ソーマも居心地の良くない感じで頭を搔いている。


「ところでエフさん達の目的は魔王討伐でしたね。南方の国は“魔族”なる異形の者達に占拠されているとも聞きます。厳しい旅をされているんですね」


「“魔術”とかいう得体のしれない力を使うなんて言うよね。怖いなぁ」


 話題を変えて勇者パーティの旅路を案じるソーマと未知の力を想像してブルッと震えるガスタ。


「話が通じる相手なら争わずに済ませたいのですが、どうなりますかね」


「勇者がそんな悠長なこと言わないでよ。話し合おうって言ってる間に攻撃受けてたら世話ないじゃない」


 エフのなんとも日和見ひよりみな発言にカナリアが不平を言う。

 いつもと変わらない光景だが、ソーマらは物珍しくそれを眺めている。


「そうだ、私ちょっとした占いができるの。せっかくだから勇者様の今後を占ってもいいかな?」


「へぇ、面白そうだ。ぜひお願いします」


「リンの占いはステータス鑑定の延長らしいんですが、これがよく当たるんですよ」


 エフの差し出す右手に触れて、リンはしばし目を閉じた。


「そうね……総合的に能力は高いわ。けど、状態異常への耐性が極端に貧弱。色々なことにしょっちゅう悩まされているんじゃないかしら?」


「当たってる……」


 リンの見立てにカナリアは思わずつぶやいた。


「この分だと大きな悩み事が訪れて立ち行かなくなるのも時間の問題。『仲間想い』、『信頼関係』とも出てくる……周りを大事にして、いつか来る悩みを一緒に考えてもらうことが最善の道じゃないかしら」


「……大きな悩み、か」


「何か思い当たる?」


「いや、全然。でもありがとう、リンさん。参考になりました」


 エフのお礼の言葉にリンは軽く応じた。続いて、フヅキが自分も見てくれと楽しげに手を挙げた。


「……感応値が飛び抜けて高い。研ぎ澄まされているのね。ただ『大ざっぱ』な所が出ると、すぐ台無しになっちゃう。オンオフをしっかり切り替えられるようになれば、更なる飛躍が期待できるでしょう。あと、妹さん……がいる? しっかり守ってあげてね」


「当たってるな。性格占いも合わさってアドバイスも的確だ」


 喜ぶフヅキを見ながら、イゾウが感想を漏らした。


 そんなフヅキの方にキョーカが徐ろに近づき、こめかみ辺りを指差した。


「フヅキ君、血ィ出てる」「え、ほんとう? どっかで引っ掛けちゃったのかな?」


 見るとフヅキのこめかみから一筋の血が垂れている。


「こっち来て。すぐに治療するから」「ええ、これくらい平気だよぉ」


 幸い大怪我というわけでは無さそうなのだが、キョーカは有無を言わさずフヅキの袖を引っ張って行った。


「みなさん……決して覗かないでくださいね」


 振り返り、残った面々に一言告げてから、木々の影に消えて行った。


「ねえ、神術って門外不出の技術とは聞くけどさ。あんなにコソコソとやるモンなの? 見られるとどうなっちゃうの?」


 リンはいぶかしげに木陰の方を眺め、周りに尋ねた。


「治療対象の脳がき切れます」

「え、ヤバッ!」

「それはアンタだけの話でしょ。単に恥ずかしがり屋なの、キョーカは」


 エフの不穏極まる言葉に驚きの声を上げるリン。カナリアがすぐさま訂正した。


「お痒いところはない?」「大丈夫でーす」


 物陰から会話が漏れ聞こえてきた。


「……洗髪でもしてもらってるの?」「……」


 続くガスタの質問にはさすがのカナリアも何とも説明しづらそうにした。



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