第18話 仲間募集はじめました①
「僕達には回復役が必要だと思うんだ」
冒険者ギルド内の空いているテーブルに座るやいなや、勇者エフはそう
「……急な話題だな」隣でイゾウがいつも通りの落ち着いた表情で反応した。
対面の席に腰掛けようとするカナリアとフヅキもエフの方を注目している。
「一昨日のクエストで
エフが真剣な表情で考えを述べ、周りに意見を募った。
「まあ、エフはあのまま階段の下で野垂れ死んでいたかもしれないしねぇ。実際の所、回復アイテムだけだと心許ないとは思っていたの。ワタシが道具役を兼ねているけど、どうしても意識が散漫になることだってあるし」
「オレは賛成だよ。怪我を気にせず敵と真っ向勝負ができるのなら今までよりも前のめりで戦える気がする!」
「待った、フヅキ。回復役が控えているからと言って、怪我を前提にした行動になるのなら俺はどうかと思うぞ。神術にも集中力や体力がいる。負担が偏ってしまっては元も子もない。仲間を増やすのはいいが、しっかりとした戦略は考えていくべきだろうな」
エフの問いかけに様々な意見が返ってきた。回復役を加える案には総じて好感触のようだ。
しかし、事はそう簡単な話ではない。
「『英雄』には神依師ってどのくらい所属しているんだろう。確か『
「ああ、そう多くはないと聞く。そもそもが希少な職業だし、フリーの神依師となるとさらに限られるだろうな」
「他ギルドに出張要請することもできるけど、これまた費用がかかるのよね。いい商売よ、ホント」
フヅキの疑問にイゾウとカナリアがそれぞれの知見を述べた。神依師の需給バランスは需要側に偏っていて、実際に仲間に加えるとなると課題も多そうだ。
「そっか、神依師って思ったよりもずっと貴重なのかぁ……キョーカお姉ちゃんが仲間になってくれたら良かったのに」
フヅキがボソッとつぶやくと、他の面々も心なしか寂しそうにした。
「仕方ないさ……教会本部で働くって決まっているんだから」
「内側から体制を変えるために自分から希望したって話していたな。立派な志じゃないか」
先日のクエスト中に直接聞いた話によると、資格更新ができればキョーカは教会本部のある聖都へ行くことになるのだそうだ。そうなれば、勇者パーティとは方向が真逆となる。
「分かってるよ。オレ達の旅は常に危険と隣合わせ、国の大事な職業に就く人を巻き込む訳にはいかないもんね」
「聞き分けが良くて何よりだけど、フヅキがそれを言ってもいいものだろうか……」
本来は国の超重要人物であるフヅキの発言にエフは複雑な表情をした。
「例えば調合士なんかもいるし、神依師以外の職業にも目を向けてみないか? いやこの際、回復役以外の職業も考えてみてはどうだろうか?」
議論の停滞を察して、イゾウが話の幅を広げる提案をした。
「そうだなぁ……僕らのパーティって攻守のバランスはかなり取れているよね。おかげで安定感があって、いつでもどっしりと構えられる。反面、面白みにはやや欠けると思うんだ」
「面白みって、戦いに必要なの?」
「いや、エフの言うことも一理あるとは思うぞ。トリッキーな動きで敵を
エフの意見に懐疑的な目を向けるカナリアだが、イゾウは反対に独自の解釈を加えて後押しをした。
「じゃあ、ダンサーとかどう? 踊りながら戦ったり、変な動きで敵のやる気を削いだりして!」
フヅキが手を挙げて嬉々として案を述べた。
「いいねぇ、楽しそうだ。逆に味方のやる気を出す応援みたいなこともできるといいよね。僕はそうだな……変わったものを武器にしているとか? 例えば……はい、カナリア!」
「え、何でワタシ!? えっと……うーん……ゴボウ?」
エフの無茶振りからのカナリアのひねり出した回答にドッと笑いが起こった。
「ゴボウはほとんどただの棒だよ」「食べ物を武器にしちゃマズイだろ」「ああ、ゴボウ持って踊り回るなんて
「し、仕方ないじゃない! エフが急に振ってくるものだから。もう、何なの!?」
カナリアは釈明しながら顔を赤らめ頬を膨らませた。
* * * *
「あ、あのぅ……皆さん少しよろしいですか?」
4人でテーブルを囲み思い思いの会話を続けていると、外部から声が掛かった。
「あ、キョーカお姉ちゃん。一昨日ぶりだね!」「フヅキ君、御機嫌よう」
声の主はフヅキに名前を呼ばれ、笑顔を作った。先のクエストにゲスト参加していた神依師のキョーカが現れ、以前と似たようなやり取りが行われた。
エフはキョーカの息災ぶりに顔を
「良かった、元気そうで。あの後、首尾はどうでした? クエストカードと魔物の一部はギルドに届けられていたから、街に辿り着けたことは分かっていましたけど」
「は、はい。お陰様で問題なく免許更新できました。今日はそのお礼をと思って訪ねた次第でして……これ、良ければ食べて下さい」
キョーカが菓子折りをエフに手渡すと、向かいに座るフヅキがそれを見て目を輝かせた。
神依師の実地修練の修了刻限が迫る中、エフ達とは別れて街へ急いだキョーカ。しかし、そのまま教会に足を運んでも、ギルドでの達成証明がなければ意味がない。
そこで『クエスト報酬は代表者でないと受け取れないが、報告のみならパーティの誰でも行える』という仕組みが利用された。キョーカに成果物を預けてクエストを先に達成済みにしたその足で教会に駆け込む手段に出たのだった。
「皆さんこそ、あれだけの数の魔物を相手によくぞご無事で……本来ならすぐにでも合流すべきだったのですが、療養が必要と言われてしまいまして」
促されるまま空いている席に着席したキョーカは心配していた事柄を口にした。
「それだけど、意外と早く決着したのよね」
「ああ、エフとフヅキがやたらと張り切っていて、ほぼ無双状態だったからな」
「そうそう、前列の敵がものスッゴイ吹っ飛び方するものだから、大半の魔物がすっかり怖気づいちゃったのよ。そんなこともあるのね」
キョーカと別れた後のことを思い出しながらカナリアとイゾウは語った。
「なんかあの時は調子がやたらと良かったんだ。キョーカお姉ちゃんの神術のおかげかもね」
「フヅキ君達の実力だよ。神術はあくまで自己治癒力を高めるだけだから」
フヅキは早速菓子折りを開けて、中のキレイな砂糖細工を品定めしている。
「それで、キョーカさんはいつこの街を発たれるんですか?」
晴れて神依師としての正式な一歩を踏むキョーカにエフは今後の予定を尋ねた。
「近く教会主催の式典が行われるので、それが無事終われば正式に辞令が下るのだと思います。それまではこの街にいることになりますね」
「そうなんだ。じゃあさ、じゃあさっ、ここにいる間だけでもオレ達の仲間になってよ」
キョーカの話を聞いて、フヅキが口をもぐもぐと動かしながら言った。
「こら、フヅキ。ワガママを言うものじゃないの! あと口に物を入れたまま喋らないこと」
その言動をカナリアが注意するのを、はーいとだけフヅキは軽く返事した。
「すみません、もしキョーカさんが仲間に加われば心強いなと僕らも少し話していたものでして」
エフは頭を掻きながら正直な気持ちをキョーカに伝えた。
「そうでしたか……こちらこそ、ごめんなさい。式典の準備でここにいる間も忙しくなることでしょうし……」
「いや、いいんだ。俺らのことは気にせず、職務を全うして欲しい」
「そうそう。でも、折角知り合いになれたんだから、今度みんなでご飯行きましょうよ」
頭を下げるキョーカにイゾウとカナリアはそれぞれ笑って返答した。
「は、はい! 是非とも!」
キョーカはパアッと明るい表情となって誘いに応じた。
「ところで、僕達は新しい仲間をどうするかを話し合っていた所だったんです。もしまだ時間があれば、このまま参加できませんか? 外からの意見も聞いてみたいし」
エフの申し出にキョーカは後学のためお邪魔でなければ、と言って快く頷いた。
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