第13話 黒い戦気


模擬戦が始まった。


 試験合格者だけあって、どの組も動きが良かったが。

「木剣っていっても、いろんな種類の物があるんだな」ペン汰は、木剣の方に興味が湧いていた。


「みんな、動きは良いんだけどなぁ。

 戦気をしっかり纏えてないんだよなぁ。」


 元々ペン帝国でも、国の文化や歴史を知り、精神性学び深める事で戦気の力を貰うことが出来る事をしっていた。しかし、いつの頃からか家柄や血統により力を貰い受けるという考えが刷り込まれていた。


「おかしいんだよな。都会の子は、僕みたいな田舎の子より勉強する機会は多いはずなのに。

 なんで蒼気があんなに薄いんだろ」

 ペン汰は、首を傾げながら観戦していた。


 そのなかで、しっかり蒼気を武器まで纏わせている者がいた。

「あっ!クロウさん!」

 クロウは、蒼気を武器まで纏わせて青色の気が体の周りを揺らいでいる。クロウが使うのはハンティングソードに似た木剣。

「流石にしっかり気を纏えているなぁ。でも、相変わらず冷たい目だ」

 


クロウの相手は短剣使いのようだが、クロウの半分にも満たない蒼気で力の差は歴然だった。


 試合が始まった。

 クロウが、ゆっくり相手の方へ歩き出す。

「クロウさん!あまりに無防備だ」

 クロウは、構えもせずただ相手との距離を詰めている。

 しかし、相手は構えたまま後退りしている。

格が違うと言わんばかりの態度。


 互いの蒼気が触れ合う。手を伸ばせばとどく距離。

 まだ打ち合わない。とてつもない緊張感で辺りが凍りついたような雰囲気になる。


 クロウが構えをとった瞬間。

「はっ…はやい」

クロウの剣は腹部へ。横型の一閃が入っていた。

一瞬の出来事に相手は、前屈みになる。

そこへすかさず縦型一閃。

「危ない!」ペン汰は、身を乗り出して叫ぶ。ペンダントが光っている。

 係は、「終わりだクロウ!やめろ」と止めに入る。

 だが、全く躊躇せずクロウは木剣を振り下ろす。

 ドゴッ。木剣は後頭部へ直撃し、相手は倒れ込む。


「……黒い戦…気…」ペン汰何度も目を擦ってクロウをみる。ペンダントは光り続けている。

「なんだ?一瞬黒い戦気がクロウと相手を包んだように見えた」

「今は、消えている」ペンダントの光も消えた。


 相手の失神により試合は終わった。係がすぐに医務室へ運ぶ。

場は、騒然となる。

 係がすごい形相で、クロウに駆け寄る。

クロウを掴もうとした瞬間。


 バシッ。先ほどの軍服にコートを着た男が2階から飛び降りて係の手をはたく。


「お前如きが息子に触るな」男は冷たい目をしている。

「あ、貴方はゼノ様」係が敬礼する。

「模擬戦とはいえ、真剣勝負だ。

 戦闘をするとなれば、当然あのような事故も起こるだろう。

 ……まさか、考えていなかったとは言わせないぞ」

 クロウ同様冷たい目のゼノからは、圧倒的な威圧感が漂う。蒼気も滲ませていた。


「やっぱりあの人…クロウのお父さんだったのか」ペン汰のペンダントが淡く光るが、ペン汰は気付いていない。


「申し訳ありません。しかし、最後の1撃は…」と係が言い切る前に、

「なんだと…」ゼノが口を挟む。すごい形相で睨んでいる。

すると、スーツの兵が2階から降りてくる。


「ゼノさん、部下が申し訳ありません。

 確かに戦闘をする以上、事故は起きる可能性があります。

 止められなかった我々に落ち度があるのは認めます」

 スーツの兵は、ゼノを睨む。

「しかし、貴方がこの場に立つことの許可は降りていない。

 早々に、貴方がいるべき場所へお戻りください」

 と2階の観覧席を指さす。


ゼノも睨み返すが、観覧席の隊長達の中に複数の蒼気が上がっているのを見ると「ふんっ」と観覧席に戻って行った。


 スーツの兵は、笑顔に戻り話し始める。

「トラブルは起きましたが、模擬戦を続けましょう。

 クロウ君は、控え室へ」クロウは、表情一つ変えない。


 重い空気のまま、次の試合が始まる。

重い雰囲気のせいか、その後の試合は、動きが硬かった。


「やっぱり、あの後じゃ思うように動けないよね。

 残念だなぁ…

 そろそろ僕の番だね。戻って準備しよう」

 ペン汰は控え室に戻る。


 控え室に、クロウの姿はない。

「クロウさん、いないのか…なんだか、やっぱりあの目が気になる。蒼気も少し澱んでいる?混ざっている?感じがする」

 とペン汰が考え込んでいると。


「ペン汰!何を浮かない顔をしている」とレインが話しかける。

「さっきのトラブルは…仕方がない。だが、私たちの試合とは何も関係ないでしょ?

 ラストを飾るいい試合にしましょう!」

レインは、爽やかな笑顔をみせている。


「そうだね!僕たちは、ぼく達の出来る最高の試合をしないとね」ペン汰は、気持ちを切り替えた。


 お互い準備も終わり、係が呼びに来る。

「最後の試合です。2人とも頑張ってください!」


 2人は並んで闘技場に入る。


「準備はいいですね!それでは……はじめ!」


 2人は、一気に蒼気を練り上げる。

 蒼気の量は、ややペン汰が上。しかし。

「綺麗な蒼気だ、淀みなく全身から武器に伝わってる」

レインは、自信に満ちた顔で「私が今までの鍛錬で練り上げてきたもの。綺麗でしょ?」

ペン汰がうんうんと頷く。


「貴方の気もなかなかね!積み上げられた努力が見える」レインは、薙刀型の木剣をクルクルッと振るう。


「行くよ」というと、一瞬でペン汰の目の前に突きが飛ぶ。

 ペン汰は、レイピア型の木剣を上手く使い上部へ払う。

「さすが!でもね」というと、レインは払われた薙刀の力に逆らわず、クルッと体ごと回転してペン汰の右腹部へ横から一閃。

 しかし…これを読んでいたペン汰は、体を右に回しながら、払った剣をクルッと手首から時計回りに回転させてガードする。

と、同時に体の回転を利用して左足で蹴りを放った。

 左回転をしていたレインは、そのまま回転して、ペン汰の右側方に回り込む形で蹴りを避けた。


「な、なんだ今の動きは、受験生の動きじゃない。

 蒼気を使いこなしている」と、観覧席から感嘆の声が聞こえる。


初手が互角だった2人は、お互いに一旦距離を置く。

「思ったよりやるわね」とレインが楽しそう笑顔で話す。

「レインさんも、すごいよ。流れるような動きだ」

 ペン汰も楽しくなっているようだ。


 2人は、しばらく互角の打ち合いを続けた。


 一方、観覧席では、

「2人とも、蒼律剣術の律がしっかり身についているな。体の動きをしっかり律し自分のリズムを崩していない」

 スーツの兵は関心している。

 

「これはもう、訓練生のレベルを超えているな」と第一蒼律部隊長のリュウがつぶやく。

 

「レインの薙刀は、見事という他ない。薙刀使いなら是非うちが頂こう。それに女性だしな」と第三蒼律部隊長のヒルデが他隊長を牽制する。

 

「うちにも薙刀使いはいるぞ。それに、女性だから女性部隊に入るという決まりはないだろう。第三部隊だけの特権ではないわ」と第二部隊長のゲンが睨みをきかせる。

 

「だが…驚くべきは、ペン汰君だ。ただでさえ距離感が掴みにくい薙刀相手に上手く間合いを詰めている。レイピアの扱いが堂に入っている」とリュウがワクワクした顔をしている。


 その傍で「ちっ。貴様らは見る目がないな…あんな道化共。クロウとは比べ物にならんわ」とゼノが不機嫌そうにしている。

「特別戦略部隊長様は、息子さんがお気に入りのようだな」とゲンが呟く。

 ゼノがゲンを睨む。


「まあまあ、みなさん。我々が出来るのは、スカウトだけですからね。複数のスカウトが来れば、どの部隊に入るかは、彼らが決める事。変な圧力はかけないでくださいね」とスーツの兵


「わかっている」と隊長達。

 観覧席でも、違う戦いが繰り広げていた。

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