第10話 DAO株主総会への進化
株主総会は、もう物理的な会場では開かれない。
今、最も革新的な株主総会は、仮想空間で行われる。
画面の向こう、スマホ片手にトークンを振りかざす新時代の株主たち。
DAO(分散型自律組織)によって支配される、完全にデジタル化された新しい形の議決権が、ここにある。
「投票開始!各自、アプリで決議内容を確認し、トークンで投票を!」
スクリーンの上で、リーダーが呼びかける。その瞬間、各自が一斉にスマホをかざし、
トークンを使用して投票を開始する。
「全員の意見が尊重される!これがDAOの力だ!」
すべてがリアルタイムで反映され、会場の外で個々の株主が集まっている世界とは別次元で進行している。
そして、かつての“議決”はもはや歴史。
投票権は分散化し、少数派の声も、今ではしっかりと反映される時代に突入した。
だが、問題が発生した。
スマホに届いた通知。
「参加者リストに異常があります。確認をお願いします」
それを開くと、あろうことか、ペットが“株主”リストに登録されているではないか。
「うちの猫、どこから参加したの?」
従来の人間株主たちの間に、驚きの声が広がる。
どうやら、アプリのバグで、株主が意図せずペットのアカウントを作成してしまったようだ。
そしてそのペットのアカウント、まさかの“投票権”を持っている。
「ノア(猫の名前)、投票してるよね?」
家で参加していた株主が、慌てて画面を見つめる。
すぐにリストを確認すると、なんとその猫がすでに決議に参加している。
議題の一つ、「次期経営者選定」について、猫の投票は「賛成」を選択しているのだ。
「ちょっと待って!これはおかしい!猫に投票権を与えたわけじゃない!」
一部の株主たちがバグを指摘するが、その間に画面上で投票結果がどんどん反映される。
スクリーンに表示された投票数は、何度も変動していた。
そして、猫の意見――「賛成」――が、いとも簡単に多数派となり、経営者選定が猫派の意見に傾き始める。
「こんなことがあっていいのか?」
「DAOは理想のシステムじゃなかったのか?」
株主たちは、半ば笑いながらもその“肉球タップ”の結果に手をこまねいている。
その時、AIシステムがついに動き出した。
「不正な投票が検出されました。猫の投票は無効化されます」
次の瞬間、システムが自動で全てのペットアカウントを無効にし、投票をやり直す通知が流れ始めた。
会場は一瞬で冷静さを取り戻す。しかし、笑い声が沸き起こる中で、株主たちは気づく。
「結局、人間が決める時代なんだな…」
「でも、次回もまた猫たちが参加するんだろうな」
株主たちの笑い声は、少しほろ苦いものに変わった。
DAOによる進化した総会の中でも、結局は「人間」が中心であり、テクノロジーが進化しようとも、
その調整には人間の判断が必要だという事実に、みんなが再確認した瞬間だった。
総会は無事に終了し、再投票後、新しい経営陣が決まる。
だが、今回はその経営陣が、次回の総会における「猫の投票権」問題を早急に改善することを約束することで締めくくられた。
株主たちは、再び仮想空間からリアルな世界へと帰っていく。
猫の肉球タップを見つめながら、少しだけ笑いながら。
株主総会ショートショート:未来と裏側の10分間 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter
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