第6話 デジタル招集通知の罠
今年の株主総会は、まるで近未来のイベントだった。
紙の招集通知は一切廃止。
株主のもとに届いたのは、メール一通と、スマホ用アプリへの“デジタル招集通知”。
参加は専用QRコードをかざして――受付も、資料も、すべてがオンライン。
「令和の総会って、こんなにスマートなのか」
受付の列で、年配の株主が感嘆の声を漏らす。
けれど、その舞台裏で事件が起きていた。
「…すみません、私、通知が届いていないみたいで」
「アプリが開けません!」
受付には、困惑した株主たちがぽつぽつと集まりはじめていた。
ITに慣れているはずの若い株主すら、
「え?僕も通知来てないんですけど」とスマホを操作し首をかしげる。
スタッフはひたすらリセット案内や再発行の手続きを繰り返す。
そのうち、会場内のモニターには「行方不明株主」リストが表示され始める。
“田中様 通知未着”“佐藤様 アプリエラー”――
役員席のAI議長も少しだけ声色を変える。
「本日の参加株主数、通知未着につき現在確認中です。しばらくお待ちください」
総会は進む。だが、あちこちで空席が目立つ。
「なんだか寂しいね」
そう呟いたのは、70歳の個人株主・田中さんだった。
その時、ふいに会場がざわめいた。
スクリーンに現れたのは、バーチャル空間に浮かぶ“仮想会場”の地図。
未着通知の株主たちは、スタッフの誘導で、会社の“メタバース会場”に次々ログインしはじめたのだ。
「田中様、ご自宅からバーチャル参加をどうぞ」
自宅のリビングに現れるアバターたち――
オンラインの仮想空間で、ついに“行方不明株主”が全員再会を果たす。
リアル会場とバーチャル会場。
ふたつの空間が大画面でつながり、拍手のエフェクトが会場中に響いた。
「まるで未来の同窓会みたいだな」
田中さんが、カメラに向かって笑う。
デジタル化は便利だけじゃない。
時には迷子を生むけれど、
それでも、人と人をつなぐ小さな奇跡を起こす――
総会が終わるころ、リアルとバーチャル、
ふたつの世界に“ありがとう”の言葉が交差した。
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