第4話 お土産逆転裁判

株主総会当日、受付横のスペースは、まるでどこかの手作り市のような熱気に包まれていた。


受付を済ませた株主たちは、普段なら渡されるはずの会社ロゴ入りのお菓子やボールペンを探して、きょろきょろと辺りを見回す。だが、今年は違う。会場入り口には、こんな貼り紙が掲げられていた。


「今年のお土産は、“株主のみなさまから会社へのプレゼント”方式とします」


ざわめきが走る。

「逆にこっちが渡すの!?」

「なにこれ、新手の株主サービスか?」


しかし、受付前には色とりどりの包装紙が並び始めていた。

手作りのフィナンシェ。手編みのミニマフラー。謎の“社運上昇”キーホルダー。

ベテラン株主の中には、自作の会社ロゴ入りカレンダーを誇らしげに持ち込む猛者もいる。


「“会社愛”は物量で示す時代!」

「俺の煮卵、役員に食べてほしい!」

そんな声が飛び交い、受付スタッフも思わず笑顔になった。


やがて、役員たちの前で“お土産プレゼンタイム”が始まる。

「こちら、うちの畑で採れた新玉ねぎです!」

「この会社のおかげで再就職できました。感謝の手縫いポーチです!」

真剣な表情で“会社への想い”を語る株主たち。


役員たちも圧倒された。

「…まさか、お土産の審査会になるとは」

「この煮卵、本当に社員食堂より美味いぞ」


会場の後方では、清掃員や警備員もこっそり感激していた。


「みなさん、ありがとうございます」

社長が言葉を詰まらせる。

「このご恩は、必ず次の事業成長で…」


すると最前列の老婦人が叫ぶ。

「来年は、もっと大きなケーキ焼いてきますよ!」


爆笑と拍手に包まれ、会場の空気がほぐれていく。

「会社」も「株主」も、その枠を越えて、なんだか大きな家族になったようだった。


──総会が終わり、役員たちの机の上には、色とりどりの“会社愛”が山積みになっていた。


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