第2話①

翌日。

「……それで?なんで俺なんですか?」

生徒会室にて、ツグは会長机に座るクウガにある事の理由を問う。

「なんでも何も、知識量で言えば君が適任だろう」

クウガはツグに目もくれず、書類を処理しながら言葉を返した。

「僕はキミより古株で今の状況に明るくないし、二来少年は……何というかそういう細かい事気にするタイプじゃないだろう」

「すごい偏見言うじゃないですか」

「違うのかい?」

「違わないですけど」

ツグは細かいことを気にしない相方の顔を思い浮かべた。

「まあともかく、残りは鞠屋敷少年と鍵屋少年だが、キミたち2人ならキミの方が最高序列高いんだろう?だったらキミが話した方が良いんじゃないかい?」

クウガがツグを指差し立ち上がる。

「……それに、せっかく塩峰少女も来るんだ、ここは博識な部分を見せておけばアピールにもなって良いと僕は思うんだが、どうだい?」

「やります」

ツグは即答し、生徒会室から出て行った。

「……僕は心配になるよ鍵屋少年」

年下からのモテを追い求めるその姿にクウガは呆れつつも、まあ危ないことにならない限りは関係ないか、と自分の仕事に戻るのだった。




「えっと……」

朝のHRの後。

担任に促され教室を出たナギサは、応接室へと案内される。

(初めて来るかも…)

ナギサは普通なら入れない応接室をもの珍しそうに見回す。

「早かったじゃないか塩峰」

そんなナギサに声をかける人物が1人。

そう、ツグである。

「か、鍵屋先輩?」

その姿を見るなり、ナギサは後ずさった。

「何故後ずさるんだ!」

「ひっ…」

理由は明らかだったが、ツグは理解できない、とナギサをじりじり追い詰める。

「やめねーか脳内ピンク馬鹿」

そんなツグを後ろから叩く者がいた。

「ん?お前は……チョージ君!」

「誰がチョージだぶっ飛ばすぞ!せめて郎はつけろ!」

後ろに立っていたのは、昨日リュウと戦って撤退していった長髪の学生…鞠屋敷長次郎だった。

「え、えっと……ありがとうございます」

「……うるせー」

チョージローはどこかぎこちないナギサのお礼にぶっきらぼうに返す。

「……つかもう1人はどうしたんだ」

チョージローが辺りを見回す。

「……あの…ここに…」

「どわぁ!?」

不意にチョージローの後ろから声がした。

「ぁ……ご、ごめんなさい……」

そこには、メガネをかけ、長めのおさげを両肩にさげた、いかにも勉学少女といった風貌の人物が立っている。

「えっと、確か……」

ツグが昨日のことを思い浮かべながら、名前を思い出す。

「不透だな。不透真奈ふどうまな

「ぁ、はい……不透真奈です」

マナはぺこりとお辞儀すると、そのままじっとしている。

「……?何か言いたいことでも……あ、そうだった。説明会だったな」

ツグはマナの様子を不思議がった後、本来の用事を思い出した。




「えー、それではこれより、番付初参加の2人に向けて、リンク番付周りの説明会を行います。司会は私、鍵屋継実がお送りしますが…おい、もう用はないだろう。何で残ってるんだチョージロー」

応接室に用意されたホワイトボードの前で仰々しく話すツグがチョージローを睨む。

「用はねーけど、会長さんからテメーの監視も依頼されてんだよ。女子連中に手を出さねーようにな」

チョージローは足を組みながら机の上の菓子を頬張る。

「……別に手を出そうとなんてしてないだろう」

「間があったぞ童貞」

チョージローはジト目でツグを睨み返した。


「……えー、では改めて。まず初めに、リンク番付についてだ」

「えっと……団体での順位付け、ですよね。順位が高ければ強い団体、順位が低いと弱い団体」

ナギサが説明する。

「……おおよそその通りだ。"リンク番付"は、登録している各団体を"順位"と"ランク"で振り分けたものだな。ランクはX〜Fまで、順位はF以外の各ランクごとである。俺たちの団体…"学校法人番号180番"は今、Eランクだな」

ツグがピラミッドを描き、その下から2番目を指す。

「ぁれ……ウチのランクってFなんじゃ……」

マナがランクに疑問を呈した。

「"昨日まで"はその通りだ。Fランクは端的に言えば、番付に登録してないその他大勢……固有リンクすら用意できない最底辺だな。昨日のコンペで俺たちは選手として登録されて、晴れてウチの学校はEランク……"番付の最底辺"にランクアップしたのさ」

「何もアップしてねーだろそれ」

ツグのドヤ顔にチョージローが呆れる。

「そんなことはない。番付にいるだけで色々恩恵があってだな……と、その辺はまた今度だ。今知ってメリットのある事でもないし、話が逸れるからな」

ツグはFとEの違いを説明しようとしかけ、やめた。

「さて、ここまで聞けば分かるだろうけど、俺たちが次にやることは順位上げだ。上を目指してさらに向こうへ!ってな」

「順位上げ……」

ツグの言葉にナギサとマナは唾を飲む。

「手段は一つ。何か分かるよな?」

「……"コンペ"ですね」

笑みを浮かべるツグに、少し暗い顔でナギサが答えた。

「その通り。団体同士で戦って番付を上げる。それが"コンペ"だ」

そう言うと、ツグがホワイトボードに文字を書く。

「"コンペ"のルールは様々だ。昨日みたいに"デスマッチ"もあれば、"スポーツ"、"ゲーム"、"謎解き"とかな。そしてそれぞれのコンペには、"勝利条件"と"禁止事項"が必ず定められている。禁止事項は踏まずに勝利条件を満たす…これがコンペの基本の動きになる」

「ぁ…ぁの…!」

マナが勢いよく手を上げた。

「禁止事項って、具体的にはどんな…?」

「……ふむ、良い質問だな。禁止事項には2種類ある。一つは"コンペ運営上許されない行為"…例えば、デスマッチ以外のルールでルールを無視して相手を倒しに行く、とかな。これは最初に明示される。逆に言えば、

「えぇ…」

「八百長、イカサマ、コンペのゲーム性の破壊、言われてないことは反則じゃない。普通のスポーツとかもそうだろう?」

「ヒッ」

「…………俺だって傷つくんだぞ」

ツグが悪魔のような笑みを浮かべると、マナは小さい声で悲鳴をあげ縮こまる。

ツグはしょぼんとしながら部屋の隅でいじけ始めた。

「……あ、あの、2種類目は何なんですか?」

いじけたままのツグにナギサが続きを急かす。

「言われてねーことは反則じゃねーけど、好き勝手できると思うなっつー話だ。昨日のコンペ、エリアはどこだった?」

いじけたツグに変わってチョージローが話す。

「……学校です」

「じゃあ、に出たらどうなっただろーな?」

チョージローはお菓子を頬張りながら続ける。

「答えは簡単、外に構えてる化けモンに体を食いちぎられて死亡だ」

「えっ……」

ナギサの顔が青ざめる。

「当たり前だよな。番付の代表選手になろうって奴が、逃げるなんて許される訳がねー。得意げになって、学校の外なら時間まで生き残れるなんて考えた馬鹿が数人いたみてーだけど、全員綺麗に死んでた」

「…で、でも……」

ナギサは何かを反論しようとして迷う。

「あー、そーだな。化けモンがいる=必ず死ぬ訳じゃねー。倒すかエリアに戻るか、どっちか出来んなら問題ない訳だ。ま、ほぼ無理だけどな」

チョージローはお手上げという顔で両手を広げる。

「そんな感じで、ルールとして言われてねーだけで踏んだらまずいモンってのがほとんどのコンペにある。特にゲーム系のルールは警戒しとけ。死なずに勝ちてーならな」

そこまで言った所でチョージローはおもむろに立ち上がり、ツグを蹴り飛ばす。

「痛いな!」

「説明はテメーの仕事だろ。基本を抑えるだけなら、あと一つだけ説明しとかねーといけねー事があんだろ」

チョージローはツグの前に顔を近づけて睨みつける。

「残り…ああ、"順位の変動"か」

ツグはプリプリ怒りながらも、ホワイトボードの前に立ち直してナギサを指差す。

「塩峰、説明会の最初に自分で言ったことを覚えているか?」

「え、えっと……」

ナギサが思い返す仕草をする。

「番付の順位が高ければ強い団体、低ければ弱い団体と言ったんだ。間違いではないが正しくはない」

ツグがどこかから袋を取り出した。

「この袋はコンペ勝率80%超えの強い団体だ。そしてこっちがコンペ勝率10%の弱い団体」

そう言ってもう一つ、一回り大きな袋を取り出した。

「どっちが順位が高いと思う?」

ツグがナギサとマナを交互に見る。

「……普通は強い方ですよね」

「ああ、そうだな。じゃあ、何が普通じゃないと思う?」

「……袋の大きさ」

マナが大きい袋を指差した。

「袋が大きい…何かを沢山持ってる?強さとは関係ない……人気とか?いやでも…」

マナが一人で呟き始めた。

「……人気というのは間違いじゃないな。正解は"番付資金"だ」

ツグは再び別の袋を取り出す。

「番付に登録してる団体は特別な一つの口座を持つ。通称"番付口座"、スポンサー…ウチで言うなら、君島さんだっけか?あの人から譲り受ける、いわゆる融資金と、もう一つの金銭のみをやり取りできる口座だ」

「もう一つ?」

ナギサが首を傾げた。

「コンペの賞金だ」

チョージローが割って入る。

「出所は置いとくとして、コンペをするときは、運営と参加する団体がお互いの口座から一定の金額を賞金として出す必要がある。参加団体が出す金額はランクで決まる。んで勝ちゃ総取りだ」

クッキーを貪りながらチョージローが解説する。

「入れられるのが賞金と融資金……ってことは…」

マナはチョージローの言葉が持つ意味を理解する。

「そう、順位を上げる方法は一つ。コンペで戦う事だ。ただ、効率よく戦うなら、勝てば良いと言う話でもない。スポンサーを獲得しつつ、コンペにも勝つ。これが大事ってことだ」

ツグが文字を書き、それを丸で囲む。

「ち、ちょっと待ってください!」

直後、ナギサがなぜか狼狽始めた。

「…コンペに勝てば賞金が出るんですよね?」

「ああ」

「順位はスポンサーからの融資金と賞金で決まるんですよね?」

「ああ」

「つまり、勝つだけでも資金が増えて順位は上げられる?」

「効率は悪いけどな」

「……コンペを始めるときはどっちから話を持ちかけるんですか?」

「基本的には上位からだ。下位からも仕掛けられるが、その場合上位には拒否権が生まれる」

「逆の場合は?」

「原則拒否権はない。理解できたみたいだな、今俺たちが置かれている状況を」

ナギサの身体から冷や汗が吹き出す。


彼らは昨日FからEに上がった。スポンサーはたった一人、コンペの賞金はもちろんゼロ。当然順位は最下位。

特殊な事例もあるとは言え、基本は順位=強さの原則は変わらない。


つまり……

「俺たちは格好の的だ。既に3団体からコンペ開催の連絡が来ている」




「お、来たか」

「覚悟は出来たかい?」

生徒会室。既にリュウとクウガの二人はソファーに座りくつろいでいた。

「ふふ、まだ飲み込めていないという顔ですね。……素晴らしい。自分は勝てる、なんて最初から自惚れる人間に真の勝ちはありませんから」

生徒会長が座るべき机には、本来座る資格のない人物…君島密が座っていた。

「君たちは恵まれています。何せ、初コンペからすぐに出番が来るんですからね」

君島はそういうと、6つの玉のような機械を取り出した。

「君たちの固有リンクです。ここで引くもよし、君たち4人は前のものを使うもよし、好きにすると良いでしょう」

君島はどこか試すように、ツグたち経験者4人を見た。

「さぁ、行きましょう。若者は叩かれてこそ成長するものです」

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