人の心に宿る闇に寄り添い、解き放つ和風ファンタジー

死んだ人の魂は蛹《さなぎ》となり、それは蝶となって次の世に飛び立つ。

ただし、すべての魂が蝶となるわけではない。
蛹石《さなぎいし》と呼ばれる石を次の生へと、魂が蝶へと羽化するために導くのが羽化師のお仕事。

物語に触れて、まずこの神秘的な世界観に惹かれました。


平安時代風の都を舞台とした和風ファンタジーですが、平安京といえば煌びやかな光の一面と、飢饉や病など、すぐ近くに死がある闇の一面と感じます。


羽化師である綾埜《あやの》は下級貴族の娘。
この時代、妙齢の女性は良家に嫁ぐのがならわし、そして女性の羽化師はめずらしいのです。しかし、真っ直ぐな気質の持ち主である綾埜は羽化師の仕事に誇りを持って、魂蝶寮《こんちょうりょう》で働いています。


そんな綾埜が出会ったのは、蛹石泥棒こと颯《はやて》と名乗る青年。
彼は魂蝶寮を除籍となった過去があり、なにやら訳ありのようで……。


颯とともに蛹石の羽化を続けていく綾埜は、死者の魂に触れ合い心の闇を垣間見て、そして彼らを来世へと送っていきます。


亡くなった人は、心にさまざまな思いを抱えているために、羽化できない者もいるのですが、彼らの心に救う闇というものは身分にかかわらず人を苦しめています。それは嫉妬や妬み、あるいは悔恨だったり……。


綾埜は彼らの心と向き合いながらも、一方で魂蝶寮の矛盾や隠されていた事実を知ることになるのですが……。
読み進めていくうちに、綾埜と共に読者も問われます。平等というもの、それから正しさというものは何かを。


そして、気になるのが綾埜と颯の関係。

作中に出てくる双翅《そうし》という言葉があります。
こちらはぜひ、物語に触れてその意味を知っていただきたいのですが、単なる仕事上の相方という関係だけではないのが、また素敵なのです。


前向きで一生懸命な綾埜の姿、そして颯との恋もぜひ見守っていただきたい作品です。