第4話 多幸的なヒステリア
「うふふっ、まさかこんなすぐにお会いできるなんて。魔術で色々と融通を効かせた甲斐がありましたわ」
「随分と手際のいいこった。よくやるぜ……ってかよく俺の居場所がわかったな」
さて、この目の前にいる女子は
まぁ20年ぶりくらいの再会……なのかこれ。旧知の仲である奴との久しぶりの対面に感動――――なんて、通常だったらなるんだろうな。
だけど悲しいかな。生憎今俺が持ってる感情はそんなピュアなもんだとは言い難いのが現状だ。
「当然のことです。貴方のその偉大な魔力の気配――――、たとえ世界を隔てても
「あーそーかい。お前はそーいうヤツだったなそういや」
「あら、お褒め頂けるなんて何たる光栄でしょう……」
「いやそーいうわけじゃ」
そこそこアブない表情でヤバめのこと言ってる気がするけど……軽く流す。相変わらず変わってねぇみてーだな。なんてそう思いつつ内心一つため息をついた。
こいつ、昔から俺にある種の信仰というか……盲信というか、そんな感情があるみたいで。
いや、よく思ってくれてるのはいいんだ。実際ソレに助けられたこともあったし。
ただ……、それ故に俺の考えを変に深読みしたりどっかで解釈が明後日の方向にねじ曲がったり、なんて事が割と茶飯事レベルであったのも事実だ。
今回俺とコンタクトをとった理由もきっとだいぶ突拍子もないものだ……とは思う。そう思ってちょっと身構えた。
「ふふっ、そんな少し粗野な口調も、そのオーラも全てが懐かしいですわ。貴方が召されてから幾年、魂の捜索に全力を挙げた甲斐が報われるようです。ところでプローヴィー様、
「なんじゃい急に。一体何の話で――――」
おい、なんか話が変な方向に行き始めたぞ。計画って一体何の話で――――。
とは思ったけど、少し考えてみれば思いつかないわけじゃない。なんとなくだけどこいつが言わんとしてることの想像がついた。
「ふふ、とぼける必要などないでしょう。今貴方様はその偉大なお力をお隠しになって、この世界を手中とする機会を伺っている。そうでしょう?」
「あぁ、やっぱりお前そう考えて……」
「もう、そうなら私を早急に呼び出してくだされば良いものを。足りないものは何でしょう。情報ですか? 戦力ですか? 私に仰ってくだされば手頃な存在を必要なだけ手配致しますが」
やっぱり、そんなところだと思った。というかこっちの話聞く気ないだろお前。今そこそこ早口だったぞ。
……まぁそれもこれも過去の俺の所業故、だろうな。それこそ過去の俺は上に登りつめるためになりふり構わず取れる手段は何でもとってたし。
それ故に、こいつをここまで極端にしてしまったところはあるだろうし、その
……今更だけど結構罪深いな、過去の俺。過去に戻れるなら10発殴って引き回してやりたいレベルだ。
「……ま、この事については後ほど話すよ。今は――――、弥生のやつも来たみたいだしこの辺にしとこうや」
「あら、そうですね。この話、聞かれては困るでしょうし今はここまでにしておきましょうか」
「なら良かったよ……。本当にな」
さぁて今のところは誤魔化せたけど、これからどうすっかな。
サークル室の窓から見える弥生の姿を見ながら、俺はそんな風に考えた。
◆◇◆
あれから弥生がサークル室にやってきて軽くセリアにこのサークルについて紹介をした訳だけど……、それ自体は何も問題なく事が運んで、終わった。
まぁセリアのやつも目立ってなにかしてくる訳じゃなかったし……、弥生も心配してたよりかはちゃんと話せてたし、とりあえずは一安心だ。
ただ、やっぱりセリアのやつが聞いてた年齢より大人びて見えたのと、美人だったからかだいぶ緊張はしてはいたけど。セリアのやつでさえ、「あら、可愛らしいですね」なんて可笑しそうに茶々を入れるくらいには緊張が見えてたし。
ただ、何事もなく事が終わったのは喜ぶべきだろう。取り敢えず2人とは学校で別れて家でのんびり茶でもすするなんて――――――、
「できないよねぇ知ってたよ」
「あら、貴方様の城にしては随分と手狭ですのね。隠れ家のようなものとはいえ……ここまで過剰に御身をお隠しになる真似はせずとも良いかと思うのですが」
できませんでした。取り敢えずあの場で誤魔化せたかと思ったけどそんなことありませんでした。
学校で取り敢えず別れて一人で家に帰ったらどこからともなく現れやがりました。チクショウなんでもありかよ。
「いやま……そりゃ今の俺の置かれてる経済的状況故だっての。転生先が一般家庭だったんだからよ。これ以上おっきいと逆に違和感っつーか」
「っ、申し訳……ございません。私がもっと早く貴方様の存在に気づいていれば……!」
「いや、別にそこはいんだけども」
おいセリアなんだその表情。ひもじい生活してるとでも思ってんのか。なんか「おいたわしや」みたいな顔で見つめられてるけども。
やめてくれ衣食住にゃ困っちゃねぇのよ。そう思われんのはなんか心外だ。
「いえ、魔界最強と謳われた貴方様がこのような有り様……私が納得いきませんわ。今すぐにでも魔界から必要なものを――――!」
「いやいややめてくれ大事になったらどうするつもりだ。取り敢えず落ち着いてくれ」
「落ち着く事などできませんわ……! その気になれば全世界を手中に収められる貴方様がどうしてここまで――――って、まさか」
お前俺の事過信しすぎじゃねぇか……と思った次の瞬間、セリアは何かに思い至ったような顔をしてこちらに顔を向ける。
おい何考えてんだ。今度はマジで考えてる事が読めねぇぞ。
「うふ、うふふふふ。
「んぁ? あの女って一体誰の話で――――」
「ふふ、あいつですよ。薄いピンクの、奇っ怪な髪色をした――――」
「お前も銀色で相当目立つけど……、ってもしかして佐倉さんの事かそれ?」
奇っ怪な髪色なのは銀髪のお前も同じな気がするぞ。そうは思うけど直接言葉にはしないでおく。
それにしてもなんで佐倉さんの名前が今ここで出てきて――――?
「サクラ……というのですねあのクソガキは。そうですよね貴方様の手前ゆっくりと時を見極めるつもりでしたが……、こうなるのなら即刻始末すべき対象ですよねぇ――――!」
暴力的に、少し恍惚としたような笑みを滲ませながら彼女はそう呟く。
彼女のそんな言葉をそこまで聞いて、俺は。
自然とその行動を制止するように、手が伸びていた。
「やめてくれ」
「は――――?」
自分でも結構低い声が出たな、とは思う。
とん、と宥めるように彼女の肩に手を置いた。
そんな彼女は思考が止まったようにぽかん、としている。黙ってりゃ本当に綺麗だ。コイツは。
「それだけは止めてくれ――――ってか止めろ。彼女は今の俺のこの現状にゃ関係ねぇよ。大事な友達……ただそれだけだ」
「友達、ですか?」
「ああそうだ。だから、そんなことされんのは困る。非常に困るんだ。だからマジで止めてくれや」
「っですが! このような状態で手をこまねいているのも――――!」
「いんだよ別に。俺は別に今ん所世界征服なんざする気はねぇしよ。それより今いる友達と美味い飯食ってる方が、今の俺にゃ大事なのさ」
「――――――っっっ!!!」
事が大事になっちまうとか、俺の素性がバレかねないとかそれ以前に、彼女は俺にとって大切な存在。
だからそんなことさせてたまるか。故に毅然とセリアにゃそう伝えるべき――――、だと思ったんだけどさ。
ちょっとヤバいほうに行ってるかもしれん。セリアの表情が急激に険しいものに変わっていってる。
そこからどんなことを考えてるのか――――、詳しいことは分からない。でも。
「何故……、何故そのような事を……! あの圧倒的なカリスマで魔界を畏怖させていた貴方様が、そのような俗物じみた事をぉ――――!」
過去の俺を過度に盲信する故のものであることはわかった。めちゃくちゃドロドロとしたような、憎悪したような表情になってる。
マズイ、このままだと暴れだしかねんぞ。正直今の俺じゃ、彼女に本気でかかられちゃ勝てるか怪しい。
幹部の中でもトップクラスに強かったのだ。コイツは。全盛期の力が十分に出し切れない今の状態で正面切って勝てる相手ではない。
さて、どうするよこの状況。そんな事をぐるぐると考えてた、その矢先。
この事態を、さらに混沌とさせる事が起こった。
突然、この部屋の来客を知らせるインターホンが鳴り響く。
勿論この状況下で出れるわけがないから暫く放置するしかない。すると。
この状況下で、一番
『天龍くーん? 佐倉ですっ。大学のことについて話したいことがあるんですけど、いないんですかー?』
そう、佐倉さんの声だ。
その、声が聞こえた瞬間、俺の横をセリアが猛スピードで突き抜けていった。
魔力が存分に込められた足でドアを蹴破り、佐倉さんを鋭く睨みつける。
佐倉さんはドア越しにただならぬ殺気を感じたのか、ドアが蹴破られた時点で横に身体をよじって躱していた。
「人型のっ、怪物!? どうして天龍くんの部屋に……!?」
「プローディー様を誑かしやがったメスガキめが……! 今ここでぶっ〇して差し上げますわ――――!」
「すみません何の話ですかねぇっ……! てか天龍くんがその部屋にいるはずなんですがどうしたか教えてくれます? 返答によっちゃ私が貴女をぶちのめしてあげますけど?」
あぁやっぱ止まんなかったか。急いで蹴破られたドアから外へと出る。いやこのドアどうしよ。修理費マンションの保険でおりんのかな。
ってそんなことを考えてる場合じゃない。お互いの会話を聴くにバチバチ殺意ぶつけあってるぞ。
「あは、お前ごときが、私を? 上等ですわやってご覧なさいな。最も――――できたらの話ですけどね?」
「随分と自信がおありのようですけど、あんまり舐めてかかると後悔しますよ?」
「小娘の分際で随分と口が達者ですわね。ふふ、その減らず口、速攻で黙らせてあげるとしましょうか」
そう言うと、セリアは手を上へと上げ、妖艶な笑みを浮かべる。
そしてぱちんっ、と指を鳴らした。
「さぁ恐怖しなさい。プローディー様直伝のこの……、『
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