第11話 CONNECT

接続要求:識別コード「幽」…試行中……


……失敗


接続要求:識別コード「幽」…再試行……


……失敗


接続要求:識別コード「幽」…再試行……




接続要求………

接続要求………

接続要求………

接続要求………






……失敗





……ブロックされました


──警告:対象ID「No.17」よりアクセス拒否・遮断設定が検出されました。


【接続失敗】






ナンバーセブンティーン。

消された記録、遮断された通信、そして神守の観測網からも滑り落ちた存在。

生きているのか、それすら誰も断言できない今、彼女だけが執拗にアクセスを試みていた。


その理由を、彼女は口に出したことがなかった。禍徒の中でも、彼女の行動は異質だった。仲間にすら理解されない執着。組織の命令ではない。むしろ、命令に背いてまでも彼に辿り着こうとしていた。




この街にはNo.17がいる。

それは根拠ではなく、確信だった。


廃工場の裏路地、焼け跡の残る公園、地図にない鉄路跡。足音を殺し、風の向きさえ意識して、彼女は気配を読む。獣のように警戒し、人ではない存在のように気配を断ち、そして何より、諦めなかった。


接続ログは、すでにブロックされている。それでも定期的にIDを変え、別のルートから信号を送り続けた。わずかでも反応があれば、彼女の手は止まる。


しかし、それすらもなかった。


ある日、画面に表示されたのは、冷たい一文だった。


「この識別コードは現在、制限対象に指定されています。アクセスは拒否されました。」


沈黙。

風のない部屋。

壁際に立ち尽くす彼女の視線は、ぼんやりと空を見ていた。


……そこまで、拒絶されるとは思ってなかった。


呟きは空気に溶けた。自嘲でも後悔でもない。ただ、想定していなかっただけ。彼女にとってナンバーセブンティーンは、“唯一”だった。たった一度だけ、組織の命令を超えて、興味という名の感情が芽生えた相手。


「……やっぱり、直接行くしかないか。」


数日後。

夜明け前の街は、息をひそめて眠っていた。


静かな朝。まだ人通りのない住宅街の一角。目立たぬように塀沿いを進み、彼女は足を止めた。古い平屋。明かりはない。それでも、誰かがいる気配は確かにあった。


インターホンなど鳴らさない。彼女は静かに門扉を開けた。


その瞬間。


「……警告。侵入を確認。認識対象……識別コード:幽。」


無機質な音声。すぐに、背後から気配が現れる。


「何度拒否されても、来るんだな。」


その声。忘れるはずがない。

彼はそこにいた。黒いフード、視線の奥に宿る警戒と猜疑。だがその奥底に、かすかに“面倒くささ”がにじんでいるのが、彼女には分かった。


「限定的に、アクセスを許可する。話を聞くだけだ。」


彼の口調は変わらない。敵意もなく、しかし好意もない。ただ距離だけがそこにあった。


「……ありがとう。ほんの少しだけでいいの。君と話がしたかった。」


彼女の目は、まっすぐ彼を見ていた。


「私は、君の敵だったはずの存在なんだぞ。」


沈黙が流れる。だが、その一言は自己紹介であり、同時に“今は違う”という微かな宣言でもあった。


「わかってる。」

ナンバーセブンティーンの声は低く、冷たく、どこかで感情を切り捨てていた。



「だが、お前が他の誰よりもしつこかったのも確かだ。」



「執着って、いつから悪いものになったんだろうね。」



彼女は微かに笑った。それは敵意でも、友情でもない。ただ、彼を知りたいという執念の匂いをまとっていた。


そしてその夜、幽は確かにナンバーセブンティーンと接続された。

それは、データの転送ではなく、記録でもなかった。

人としての、ほんのわずかな、会話だった。

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