閑話 ファーストコンタクト
魔王ジュリアルドの殺害から一日。
勇者一行は黒幕を炙りだすための計画を実行するべく、クラナダ王国へ帰還する道を歩んでいた。
その途中、夕方を迎えた一行は野営を行おうと場所を探していたのだが――
「ああーっ!」
山の麓に沿って歩いていると、錬金術師ミュアが東側を指差しながら大声を上げた。
「おい、大声を出すな。魔物が寄ってきちまうよ」
「それどころじゃないよっ!」
フリードが注意するも、ミュアは目を輝かせながら走りだす。
サイドテールに結んだピンク色の髪がぴょこぴょこと跳ねながらも、フリードの制止を聞かずに――いや、興奮しているせいか耳にすら届いていない。
ゼノ達は慌てて彼女の後を追うと、ミュアが見つけたのは小さな遺跡だった。
「見てっ! 女神の遺跡!」
女神の遺跡とは、この大陸に古くから存在し、各地に点在する古代遺跡だ。
「女神の遺跡? これが?」
ゼノとフリードが揃って入口に頭を突っ込むと、固い金属の壁が奥の暗闇まで続いている。
二人は「確かに遺跡っぽい」と顔を見合わせながら頷いた。
「中、見ていこーよ!」
「いやいや、さっさと国に戻ろうって話し合ったじゃねえか?」
興奮しっぱなしのミュアはゼノの服を摘まみながら、遺跡の入口を指差す。
彼女の目はもう『中を探検したい!』という気持ちで溢れ返っていた。
ただ、勇者一行は一刻も早くクラナダ王国へ戻らねばならない。
黒幕を見つけるための計画をスタートさせるべく、早急に準備を進めねばならないと皆で話し合ったばかりであった。
「いや、待ちたまえ。これは後々に我々の助けになるかもしれない」
しかし、ここでミュアを後押ししたのは魔術師ヨシュア・ヘンダーソン。
「女神の遺跡には『ギフト』が残されている可能性があるのは知っているな?」
ヨシュアの言う『ギフト』とは、創世の女神がまだ大陸にいた頃――神話時代と呼ばれる頃に誕生した物を指す。
代表例は勇者ゼノが使う聖剣ヨルムンガンドだ。
「あーしが作った魔砲もそう! 魔砲もギフトから発想を得て開発した兵器だからね」
ミュアが開発した対魔物用新兵器『魔砲』も元となるギフトが存在する。
こちらは数年前にクラナダ王国内で発見された女神の遺跡で発見されたものだ。
「これからのことを考えると、ギフトは多い方が良いと思わないか? 得られる機会があるなら無駄にはできない」
「確かにそうだが……。ここって既に探索済みなんじゃねえの?」
神話時代に作られた物はどれも貴重であり、聖剣ヨルムンガンド級の武器が見つかれば最大級の抑止力となるだろう。
仮に誰も扱えなかったとしても、国を代表する国宝になり得る。
他にも考古学的な重大発見にもなるので、女神の遺跡から見つかる物はどんな些細な物でも価値は高い。
つまり、どの国も遺跡を見つけたらすぐに内部を探索する。
ゼノの言う通り、魔王国がとっくの昔に探索済みかと思われるが……。
「ううん、それはないかも」
ミュアは遺跡の状態を指摘した。
遺跡の大半は土で埋もれており、入口部分が露出した状態だ。
恐らく、つい最近まで山の麓に埋まっていたもの。何かしら原因があって入口が露出したのだろう、と。
「つまり、手付かずの状態かも!」
ミュアの予想が正しければ、まだ内部に何かが残されている可能性は高い。
「……よし、入ってみるか」
ゼノはミュアとヨシュアの提案を受け入れ、内部探索に踏み切った。
「やった! だからゼノっちって好き♡ んーっま!」
ミュアは決定を下したゼノに投げキッス。
ゼノは飛んでくるハートマークを真正面から受け止めた。
「んじゃ、探索組と野営の準備組でわけようぜ」
遺跡の中に入るのはゼノ、ミュア、フリード、ヨシュアの四名。
残りは外で待機しつつ、野営の準備となった。
「んじゃ、頼むわ」
「お気をつけて。何かあったらすぐに脱出するんですのよ?」
ゴージャスな長い巻き髪を手で払うクレアは、ゼノ達を心配そうに見送った。
「さぁ、出発~!」
ミュアはランタンを片手にスキップしながら遺跡の中へと入って行く。
ゼノ達も彼女の後を追い、遺跡の中を進んで行くが――
「行き止まりじゃん」
遺跡は入口から真っ直ぐ道が続いており、途中に曲がり角も無く。
ただただ奥まで一本道が続いているだけ、というつまらない内部構造。
ゼノ達は金属質の壁に行き当ってしまったが、天才錬金術師のミュアは口をタコみたいにすぼめながら「う~ん」と悩む。
「これ、本当に壁かな?」
ミュアが金属質の壁をペタペタ触り始める。
彼女の手が壁の縁付近に触れた瞬間、その箇所に緑色の光が発生する。
緑の光は壁の縁を走り出し、光で囲われるとズ、ズ、ズ、と音を立てながら壁がスライドしていく。
「ほらね? あーしの思った通り!」
スライドした壁の奥には地下へ向かうハシゴがあった。
地下へ向かうと、これまでの雰囲気とはガラッと変わる。
地下はかなり広い空間になっているのだが、金属製のパイプやケーブルが地面を乱雑に走っていた。
他にも大きな培養槽らしき物が多数あって、そのほとんどが割れた状態で放置されていた。
地下の中央には巨大なテーブルがあって、テーブルの中央には割れたガラスパネルの残骸が散らばっている。
「こりゃなんだ?」
「神話時代に使われてた道具じゃない?」
ゼノの疑問に答えたのはミュアだったが、当然ながら全員この場に残されている物の正体は知らない。
「ギフトとやらはどこに?」
「私が前に見つけた時は、奥の方にあったよ」
過去、国の調査隊と共に探索した経験をミュアは披露する。
皆が床のケーブルを踏まないよう跨いで進みながら最奥を目指していくと、見つかったのは途中にあった物と同じタイプの培養槽だ。
最奥にあった培養槽は破損していない。
それどころか『中身入り』だった。
「おい、なんだこれ……。ガキが浮かんでるぞ?」
透明な液体で満たされた培養槽の中に浮かんでいるのは銀髪の幼女。
「これがギフトなのか? このガキが?」
ゼノは驚愕の声を上げるも、ミュアは目を輝かせながら銀髪の幼女を見上げ続ける。
そして、彼女はこう漏らした。
「天使だ……。この子、天使だよ!」
培養槽の中に浮かぶ幼女の正体は『天使』であると。
「天使って……。神話時代、女神様と共に闇の勢力と戦ったっていう?」
フリードは誰もが知る御伽噺『創世神話』の第三幕に描かれる『神話戦争』について口にした。
「そうそう。天使は女神様と共に戦った……騎士みたいなものって描かれていたでしょ?」
「だが、女神と天使は闇の勢力と相打ちになってしまった」
ミュアに続き、ヨシュアが語る。
神話戦争第三幕では世界を穢す敵と戦争が勃発。女神と天使は相打ちとなってしまうと描かれる。
女神と天使の死体は穢れた大地に落ちるも、神聖な力を内包した女神と天使の遺体は大地に溶け、戦争の傷跡でもあった穢れが取り除かれていく。
その結果、今大陸に生きる人間達や動物が誕生した――というのが、創世神話の第四幕だ。
「つまり、このガキは戦争で生き延びた天使ってことか?」
「あるいは、戦争に出陣しなかった天使かも」
ミュアはゼノの疑問に答えつつ、周囲のオブジェを手当たり次第触りだす。
「……もしも、彼女が本物の天使だったら。我々は切り札を手に入れたと同義だ」
ヨシュアは天使を見上げながら言った。
御伽噺に描かれる天使は創造主である女神には劣るものの、それでも圧倒的な力を持つ。
それこそ、現代に生きる人間以上。
「天使を利用すれば魔物を簡単に殲滅できるかもしれない」
まさしく、ヨシュアの言う通り人類の切り札になり得る。
ゼノ達が追い求める敵が今後も魔物を作り出そうとも、天使がいることでそれをチャラに出来るかもしれない。
ただ、ゼノは彼の言葉に首を振った。
「ダメだ」
ゼノが否定し、ヨシュアが「何故」と問う瞬間――培養槽の付近から「ピー」と甲高い音が鳴った。
「あ、これだ」
天使を解放するための手段を探していたミュアが正解を引き当てたのだ。
ミュアがボタンを押した直後、培養槽の中にあった液体が泡立っていく。
同時に中で浮かんでいた天使の目が徐々に開き、彼女の両目がゼノ達を捉えると中の液体が排出されていく。
その後、培養槽のガラスが開いて――全裸の天使は培養槽を降り、ペタペタと足音を鳴らしながらゼノ達へと近付いてくる。
「おはようございます。私はヴァルハラ社製神話級兵器。第三世代型VHA Variant006。コールサイン『Eva17』です」
「なんて?」
全裸の幼女を前にゼノは自分の耳を小指でほじりながら聞き返した。
ゼノだけじゃなく、ここにいる全員が彼女の言っている言葉の意味を理解していない。
何故なら彼女が喋る言語はゼノ達が使っている言語と違うからだ。
「……言語の解析を開始。データベースに照合。該当する言語が見つかりません」
幼女は小さく囁くと、目の前にいるゼノを見上げながら「あー、あー」と声を繰り返した。
「何語だ?」
「さぁ? 聞いたことない言葉だったね?」
ゼノ達が首を傾げていると、幼女は彼らの声を漏らすことなく収集。
「独自解析を完了」
そう呟いた後、改めて彼女は声を発した。
「私の言葉が理解できますか」
「おお、今度は分かった!」
ゼノが言葉を理解していることを察すると、彼女は再び先ほどの『型番』を口にする。
「イヴ?」
ただ、割り当てられた型番を口にしてもゼノ達が理解できるはずもなく。
結果、最後に聞き取れたコールサインの一部をゼノが繰り返す。
「エヴァ」
ただ、少々イントネーションが違う。
彼女はそれを指摘するが……。
「イヴ?」
「……イヴでいいです」
結果、折れたのはイヴの方だった。
「お前は天使なのか?」
「天使? いいえ、違います。私は兵器です。架空の存在ではありません」
イヴが自身の説明をしたところで、ゼノは頭を抱えながらミュアへ顔を向けた。
「難しいことは分からん!」
ゼノは羽織っていたローブを脱ぐと、全裸状態のイヴにすっぽりと被せる。
「ミュア、頼んだ」
ミュアに丸投げしたゼノは大人しく話を聞くだけという姿勢に切り替えるも、ミュアもミュアで全てを把握することは出来ず。
「う~ん。とにかく、イヴっちは兵器なんだね?」
「イヴっち……。はい、私は兵器です」
呼び名に困惑しながらも頷くイヴに対し、ミュアは彼女の体をペタペタ触り始めた。
「こんなに柔らかいのに。人間としか思えないよ」
「私に与えられた任務は人類の保護です。敵勢生物の脅威を排除するために作られましたが、同時に親しみを持たれるようなデザインになっています」
イヴが語ると、ヨシュアは彼女を手で示しながら「ほら」と口にした。
「彼女自身がそう言っているではないか。人類の敵を排除するために作られた存在なのだと。やはり、彼女は我々にとっての切り札だ」
ヨシュアは自身の考えを再び主張するが、やはりゼノは首を振って否定した。
「ダメだ」
「どうして?」
「これは俺の戦争だからだ。あいつとの約束を果たすための戦いだ。だから、俺が終わらせなきゃ意味がない」
ゼノは頑なに譲らない。
ヨシュアに「気に食わないなら抜けていい」とさえ言った。
「……頑固者め。それでも勇者か」
「俺は勇者である前に一人の人間だ。だから、親友の仇は俺の手で獲る」
続けて、ゼノは鼻で笑いながら肩を竦める。
「それにな、ガキに助けてもらうなんざ俺の流儀に反するんだよ」
「……ここでの議論は時間の無駄だな」
ヨシュアはため息を吐き、それ以上何も言わない。
「とにかく、この子はどうするの? さすがに元に戻って、とは言いにくくない?」
「……そうだな」
ミュアに言われ、ゼノは少し悩む。
悩んだ末、出した結論は――
「よし、ガキ。俺と来い。俺がお前に人間としての生き方を教えてやる」
「人間としての生き方、ですか?」
ゼノの提案に対し、イヴは無表情のまま繰り返す。
「そうだ。人間のガキらしい生き方を教えてやるよ」
彼は子供らしい生き方の例をいくつか挙げた。
美味しい食事を食べたり、甘いお菓子を食べたり、本を読んだり、外で走り回って遊んだり。
とにかく、子供らしい人生の過ごし方を羅列していく。
「……どれも分かりませんが、説明を聞く限りは私にとって不要だと判断します」
ただ、イヴは首を振るだけだった。
「はぁ~? 生意気言ってんじゃねえよ。経験もしていないのに不要とかぬかすな」
ゼノはヨシュア曰く『心底ムカつく煽り顔』を見せながらも、イヴの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「そうだ。ミュア、菓子持ってただろ?」
「え? お菓子? うん、あるけど」
ゼノはミュアからクッキーを譲り受けると、それをイヴに差し出した。
「まずは最初のステップだ。ガキは菓子が大好きでたまらないもんだからな」
彼はイヴに「食ってみろ」と促す。
イヴは恐る恐るといった感じで、言われた通りに砂糖たっぷりなクッキーを一口食べてみると――
「…………!」
口にした瞬間、イヴの顔が驚きの表情に変わる。
それどころか、手の中にあったクッキーをサクサクッ! っと食べ進めてしまう。
「ははっ! ガキらしい顔になったじゃねえか」
イヴはクッキーをもう一口食べると、笑うゼノを見上げる。
「貴方について行けば、これをもっと口にすることができますか?」
「ああ。食わしてやるよ。もっと他に美味い物も食わしてやる」
ゼノは再びイヴの頭を撫でた。
そして、小指を差し出す。
「約束だ。お前はこれから一人の人間として生きろ。生き方は俺が教えてやる。人生の楽しみ方ってやつを教えてやるよ」
「分かりました、マスター。私は貴方についていきます」
イヴは目を輝かせながら最後の一欠けらを口に含み、ゼノと同じように小指を差し出す。
二人の小指が結ばれ、ゼノは「約束だ」と笑う。
――これが大陸史上初となる、人類と天使の交わした約束。
勇者ゼノと天使のファーストコンタクトであった。
※ あとがき ※
ここまで読んで下さりありがとうございました。
次の投稿予定ですが、少々間が空くと思います。
本業が繁忙期に入ったこともあり、最近では同僚と初めてスマホを見たチンパンジーごっこをしたり、仕事を振ってきた上司に心の中でメスガキになりながら罵倒しないとメンタル保てないくらいの状況です。
日本も滅亡しなかったし、書籍関連の方も色々あるので許して下さい。
死んだ勇者と魔王の約束 ~悪に生まれ変わった男は元勇者の仲間達と再び世界を救う~ とうもろこし@灰色のアッシュ書籍化 @morokosi07
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