終末世界で最強になった。よし、自己犠牲のふりで美少女たちの脳を灼こう。 ~魔法に重い代償が伴う世界で、俺だけ魔法使い放題~
クー(宮出礼助)
第1話 壁外演習
今日は、年に数度の壁外演習の日。
安全な都市から外に出て軍事行動の演習なんて、いつもの例にもれず、だいたいの生徒は嫌がってるな。
だが、しかし。
これまでは他のやつらと同じく、俺だって反吐が出るほど嫌だったこの日も、今日だけは……。
ふふふ。
「――おい! エドガー、遅れてるぞ! 隊列を乱すなよ!」
「はいはーい、了解」
「ッチ。死ぬならお前一人で死ねよ。こっちは真剣なんだ」
列を成して進む俺たち学園生だったが、少し前で全体の指揮を執る生徒――マーリンに怒鳴られちまった。
あいつ、いっつも当たり強いんだよなあ。俺が弱いからっていつも見下してくるし。弱いなりに、真面目にはやってんだけどなあ。
でも。弱いってのも、ちょっと前までの話だ。今の俺はもう昔とは違う。
ふはは、今ならこの新たな力を使って、学園中の美少女を手中に収めることも……。
そんなことを考え、荒野を進みながらにやにや笑みを浮かべる俺。
そこにすぐ近くから掛けられる甘ったるい声――。
「ちょっとぉ、エド。今日はいつにも増して気持ち悪いじゃん。真剣にやらないとほんとに死んじゃうよ? ていうか、その前にマーリンに殺されちゃうかも」
「んぁ? おうメリー。いや心配いらないって! あんまり詳しいこと言えないけどさ、ここだけの話……俺、魔物とかもう怖くなくなったんだよな」
「はぁ〜。なに、恐怖を感じる心がイカれちゃった? いいから、自分の身の安全だけ気をつけて真面目にやりなってぇ」
あ、なんだこいつ、全然信じてない。呆れた目で見やがって。
メリーはそのまま俺から視線を外して、また真面目に行軍に戻る。
メリーのやつめ……。もし何かあっても、俺は助けてやんないからな。……いや、嘘だけど。落ちこぼれの俺にも優しくしてくれるし、幼馴染だし、ちっこいのに巨乳だし。
しょうがないやつだなと、頭を横に振りながらため息を吐いていると、周囲から冷たい視線を向けられる。
へん、いいもんね。いつも俺を馬鹿にするお前らは助けてやらん。魔物が来ても置いて逃げてやる。
そんなことをちょっと拗ねながら考えていた、その時だった。
前方から、叫ぶように声で告げられる接敵報告。
「――魔物が出た! それも飛行種だ!」
飛行種とは、これまた厄介な……。
即座に戦闘態勢へ入る周囲と違い、余裕綽々に突っ立つ俺。
「エドガー、お前はもう下がってろ! 邪魔!」
「うおわっ。ちょ、酷いな。俺も戦えるって」
「お前の力じゃ死ぬだろ、いいから大人しく下がってろって!」
比較的優しい級友に感心しながら、それでも俺は動かない。それよりも、視線は空に固定されている。
……たしかに飛んでくる魔物が見えるけど。なんて速度だ。というか、あれ……。
「竜種じゃね?」
そう呟いたときにはもう遅かった。
うわっ! 来る来る来る!
「――に、逃げるんだみんな! 竜だ――!」
いやいや、今さら気づいたところで遅いぞこれは! これ、障壁間に合うか? いや、考えるより先に――。
ああ、もう――
「ぐああぁあっぁあ――!」
凄まじい衝撃に身体を打たれて……魔力で強化した身体で俺は平気だけど、みんなは……?
俺、吹っ飛んで空にいるんですけど。障壁、ギリギリ間に合ってたらいいなあ、なんて現実逃避か……。
視界は見渡す限りの荒野。上空に打ち上げられて、すごい速度で宙を吹っ飛んでいく。
あ。俺以外にももう一人、同じようなやつが――。
って、あれスノウさんじゃん! いかんいかん、彼女が死んだら人類の大きな損失だ! 美しさ的にも、身分的にも……。
放物線を描いて吹っ飛ぶ俺は、並走する真っ白な美少女――スノウさんに魔力を飛ばして着地の衝撃に備える。
ふふふ、こんなちゃちな衝撃緩和すら、俺たち人類には過ぎた魔法になってたからな。俺の存在に感謝してくれ、スノウさん。
そんな場違いな考えは、当然スノウさんに届くはずもなく。
俺は背後から追ってくる竜が一体いることを感知しながら、だんだん迫ってくる地面を見る。
おおお、魔法で守られているとはいえ、めちゃくちゃ怖い……。
なんてビビってるうちに。着弾。
「おおおおおおおッ!?」
しまった! これ、ただ身体の周りに衝撃緩和の障壁張ってるだけだから、地面にぶつかったら、身体が、ぐるぐる回って、跳ねまわる! うおお。
まったく痛くはないけど、視界が回って周囲の状況分からん……が。
……お。止まった……。
おお、自分の身体が地面につけた痕が恐ろしい。これで死なないとか、魔法すげえ~……。
なんてことを考える前に……!
「――スノウさん! 無事かあ!?」
方向も勢いもほぼ同じだったから、彼女もこの辺に落ちたはずだけど……。
竜が来る前にと、焦って周囲を見渡して……いた!
「……ッ。私、なんで無事で……」
「スノウさん! 怪我無いー!?」
「! エドガーくん……?」
走り寄った先には、その髪、肌、服、すべてが真っ白な美少女。
衝撃で砂埃にまみれてもやっぱり可愛いんだなあ。なんてこと言ってる場合ないわ!
「いや、無事でよかった! 俺もさっきの竜に弾き飛ばされてさ!」
「やっぱり、エドガーくん……! でも、なんで私たち無事で……。エドガーくん魔力強化のレベルもけっこう低かったよね?」
「ちょっと待って、いまその辺説明してる時間なくて! やべ、もう来る!」
「来るって、何が」
こんな状況なのに、いつも通りの氷姫っぷりだなあ。でも残念。たぶんその態度、もうもたないな。
だってもう、ほら――。
「――竜が来る」
「え……」
俺が指差した空を見て、スノウさんの顔が絶望に染まった。
俺たちの視線の先には、一体の竜――あの色と見た目、火竜ってやつだな。属性付きとかついてないなあ。
まあ、でも。
俺は、もう命を諦めたかのようなスノウさんに、面と向かって言ってやる。
「安心しなって! あいつは……俺がやるから!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます