2.親友
建国以来の由緒正しい血筋を持つという貴族たちとは違い、財力に物を言わせて経済界を牛耳る成り上がりを、この国では
そんな中で、帝国大学は身分にとらわれず勉学に励むことができる唯一の場だった。ただし、在籍には優秀な頭脳と莫大な学費に加え、月花帝国に属する男子であることが求められる。
中身はともかく、身体と戸籍は財閥令嬢の昴が入学するのは本来不可能なのだが、親友の助力を得て培った学力と腕力、ついでに財力も駆使してなんとか在籍を認めさせることができた。入ってからも何かと揶揄されることは多かったが、全てトンファーの一撃で黙らせてきた。この春無事に進級も叶い、いまだ懲りないのは例の三人組くらいである。
夕方というには早いこの時間は、ずらっと並んだ帝都自慢の飾り街灯にもまだ明かりはついていない。煉瓦造りの歩道を、袴姿の少女たちが笑い合いながら駆けていく。女学校の帰りだろう。
「お前本当に、か……」
一宮の言葉がつい、唇の端から溢れる。物思いに囚われた足取りだけではなく、肩に担いだ学生鞄すらいつもより重い気がした。
「よう、昴。冴えない顔をしているな」
ぽん、と背後から学生帽に手が乗せられる。甘い低音の声は聞き慣れたものだ。振り返ると、長身の男が立っていた。
「
「鏡を見た方がいい。それが想い人に会いに行く顔か?」
「え?」
ふわりと巻いた淡い金髪に、涼しく澄んだ空色の瞳。上品なスーツを纏った彼の胸元を、昴のエンブレムとよく似た意匠のネクタイピンが飾っている。
彼は九重財閥の中でも力の強い分家の跡取りで、今年帝大を首席で卒業してからは、グループ企業である不動産会社の常務取締役に就任していた。昴の帝大入学に協力してくれた恩人でもある。
名を、
上から下までぴしっと決まった彼がにこやかに笑う。その言葉で我に返った昴は、自分が足の向くままに辿っていたのが家路ではなく、通い詰めた想い人の住まいに続く道であることに気づいた。その途中で、暁と鉢合わせしたに違いない。
確かに、こんな顔を彼女に見せるわけにはいかない。
「サンキュ、暁。それ、今日のお土産?」
嫌な気分を頭から追い出すと、隣に並んだ暁へ尋ねた。彼の右手には、帝都でも有名なロールケーキ専門店のロゴが描かれた紙袋が下がっている。
「この前、美味いって言ってたとこだろ? オレも狙ってたのに」
「早い者勝ちだ。……ここからなら、そうだな、四葉堂が近いな。アイス、好きだったろう?」
「そうする。お前何味?」
「キャラメルコーヒー」
助言をくれた暁に礼を言い、ついでに鞄を押し付けると、昴は教えてもらった店へ走った。
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