緋色メモリアル
葵葉ユキ
プロローグ 入学
あの日の空は、少し曇りかかっていた。僕は晴れて、県立の中高一貫校の生徒になった。「中等教育学校」という、あまり耳馴染みのない奇妙な名前の学校に入学したのだった。
もともとあった県立高校の校舎を再利用しているらしく、僕たち10期生が入学した頃には、校内の設備がすでにボロボロになっていた。とりわけ、教室の扉の固さには驚いた。入学式の待機教室に入るために、初めて教室の扉を開けようとした時、鍵がかかっているのかと錯覚したほどだ。
この学校の扉の固さを知った日は、ゆかいな仲間たちと知り合った日でもあった。一年三組の教室には、僕を含めて三十二人の生徒がいて、印象としてはどの人も優しそうであった。ただ、後日初めての班活動で自己紹介をした際、語彙力がないですね、と僕に言ってきたやつがいた。そいつの顔を覚えてやったが、名前を聞くのを忘れた。
教室からは、メタセコイヤの並木がよく見える。学校の敷地の隣には市が管理する大きな公園があって、メタセコイヤはその公園の敷地にあるものだ。公園のスピーカーからは、迷子のお知らせが頻繁に流れている。
これから始まる六年間を前に、僕は不安よりも期待でいっぱいだった。一生忘れられない青春を謳歌してやりたい、中等生活を飽きるまでやりこみたい。そんな思いでいっぱいだった。
―少なくとも、この時の僕は、確かにそう信じていたはずだった。
緋色メモリアル 葵葉ユキ @aobayuki
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