第37話 ラスボス 原初の厄災

 魔王城・中央広場。


 荘厳な音楽が鳴り響く中、赤い絨毯の先──式台の上に、ケイルは立っていた。


「──今ここに、我が子・ケイルを“世界の使者”として任命する!」


 魔王の厳かな声が、広場に集う数千の魔族たちに響き渡る。



(うおおお、来たなイベント最終章……! ラスト前の山場演出ってやつ!?)



 ケイルは満面の“真剣な演技”で頷いた。


「……ありがたき幸せ。しかとこの使命、引き受けましょう」


「何その口調!? どこで覚えたのよあんた!」


 女側近が容赦なく突っ込んでくる。


「ほら、雰囲気って大事じゃん? 演出の一部というかさ」


「だからって“殿”感出すな!」


 会場の魔族たちは、神妙な顔でケイルを見つめている。


 その中──ユウナたちも、息を呑んでいた。


「……本当に、すごいのねケイルって」

「緊張感の中で、一歩も引かずにあの対応……」

「視線も、立ち振る舞いも、隙がない。あれが“王子”か……」



(……いやいやいや、なんで全員、静かに感心してるのよ!?)


 女側近が、心の中でテーブルひっくり返す勢いでツッコむ。

(あの男、内心じゃたぶん“イベント気分”よ!?)



 ケイルは真剣な眼差しで前を見据えている──



(……バカ真面目な顔してると、それっぽく見えるのが一番ムカつくわ……!)

 



 そのとき──魔王の背後にいた研究者が、前へ出た。


「陛下、ご報告を。“封印の異変”について、続報が入りました」


「……話せ」


「北の境界にて、長きに渡り封印されていた“原初の災厄”──その封印が、ほぼ完全に解かれました。封印の崩壊は……あと数日以内と見られます」


 会場に、ざわめきが広がる。


「原初の……災厄?」とケイルが小声で呟く。


 女側近が顔をしかめる。


「魔族でも詳しく知る者は少ない。世界創造の時代に暴れ回った、最古の災厄……

 存在そのものを喰らい、全てを無に還す災い、らしいわ」


「いやいやそんな設定、今時ラスボスでもやらないって!」


「だからガチだって言ってんの!!

 おまけに、あんたが“封印の揺らぎ”の震源地にいたらしいのよ」


「えっ、それ俺のせいってこと!?」


「……報告には、あなたが、封の一部を吹き飛ばしたとされているわ」


「何それ!? マジで俺なんかやった!?」


(ちょ、待ってくれ!? 俺、なにかした覚えはないんだけど!?)



 ケイルは冷や汗を流しつつも──“イベントの設定”だと自己解釈することで精神を守った。



「つまり、俺がラスボス開放スイッチだった、って設定か……よし、なんか燃えてきた!」


「燃えるな!! そういうノリが腹立つのよ!」


 



 そして数刻後──


「……では、そなたには"厄災"の視察兼、共闘の交渉を任せる」


 魔王の言葉に、ケイルがピンと姿勢を正す。


「ははっ。任されました……我が使命、必ず果たしてみせましょう」


 その表情は真剣そのもの──


(演出に乗っかるのも役者の務め……)



 内心はノリノリで決意しているケイル。


 その背を、勇者たちが静かに見つめていた。


「……あんなに真っ直ぐに世界を見つめられるなんて」

「本物の器だな……」

「まさか、共に戦う“希望”が魔王の子だったとは……」



(……みんな、演技力たけぇな……! ここまで合わせてくるとは!)


(さすがラスボスイベント直前演出。空気感の出し方がガチすぎる……!)




 飛行艇に乗り込む直前。



 女側近が歩み寄り、声をかける。


「……あんたが飛び立ったら、本格的に“世界”が動くわ。覚悟しなさい」


「了解。これが開始の合図、ってわけね! よし、世界編スタート!」


「だから」



 吹き抜ける風の中、ケイルは堂々と飛行艇に乗り込む。


「じゃあちょっくら“原初の厄災”を探る旅に行ってきまーす!」


 右手を高く掲げ、ケイルは爽やかな笑顔で振り返った。



「……って、ちょっと! 待て待て待てコラあああああ!!」



 甲板へ駆け上がってきた女側近が、全力で叫んだ。


「誰がこのバカを単独で送り出すか!! この状況で一人!? バカなの!? 死ぬの!?」


「えぇ!? だってこれ、イベントの“ソロ分岐ルート”でしょ!? 勇者パーティとの別れ的な!」


「違う!! ただの即死ルートよそれ!!」


 ケイルの襟首を掴みながら、女側近はツッコミ倒す。


 そこへ、


「まったくもう、心配で見てられないのよね」

「やれやれ……まあ、面白そうではあるが」

「情報収集も必要だし、広報役がいた方が便利でしょう?」


 ユウナ・レオン・セラの勇者パーティが、当然のように飛空艇に乗り込んできた。


「ちょ、え、なんで!? いや嬉しいけど!?」


「決まってるじゃない、あんたの護衛役よ」


 女側近がため息混じりに言いながら、ようやく肩の力を抜いた。


 ──こうして、ケイルの「単独出発イベント」は、全員同行ルートに無事書き換えられたのだった。

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