第30話 影の暗殺者の襲撃

 和平会議がまとまりかけた──その瞬間だった。


 高窓のステンドグラスが、ピキピキッと音を立てる。次の瞬間、 


 ガシャアァン!


 色とりどりのガラス片が、眩しい光を反射して宙を舞った。


 誰もが、息を呑む。

 その光の中──影が、飛び込んできた。


 黒装束。

 顔まで覆った、正体不明の人物。


 その者は、身を翻して着地と同時に短剣を抜き放つ。

 その動きには、一切の迷いがなかった。


 訓練された暗殺者──その殺気は、場にいた全員の呼吸を止めるには十分すぎた。

 広間の空気が、凍りつく。



「──ケイル、伏せろ!!」


 レオンの怒声とともに剣が抜かれた。刃が月光を弾くように光る。


 魔族側の衛兵も即座に反応、長槍を構えて前に躍り出るが──影の動きは、それをあざ笑うかのように速い。



「“和平の象徴”だァ!? 笑わせやがるッ!!」


 怒りと殺意をむき出しに、暗殺者は一直線にケイルへと跳びかかる!



「ちょ、ちょっと待って!? 話し合いの場じゃ──!?」


 振り下ろされる刃──


 瞬間、ユウナが展開した光の障壁がそれを鋭い音とともに弾き飛ばす。


 同時に、セラの魔法陣が宙に浮かび、爆風のような突風が影を吹き飛ばした!


 ドガァン!!


 床に転がった暗殺者が、呻きながら体勢を立て直す。


「ぐ……! この化け物どもが“護衛”ってわけかよ……!」



 憎しみに満ちた視線が、ケイルを射抜く。


「こんな和平、認められるか……!」


「俺たち魔族は、戦うために生まれたんだ! 人間と肩を並べるなんざ、ありえねぇッ!!」



 会場の空気が一瞬で凍りついた。



 女側近が、鋭い眼差しで問いかける。


「……あんた、何者?」


 その問いに、暗殺者は笑いながら叫ぶ。


「名乗るつもりはねぇよ。どうせすぐ消えるからなァ!!」


 目を血走らせ、再び構えを取る。


「魔王が“平和”を選んだなら、俺たちが“原点”に戻してやるだけだ──力こそが全てだろうがァッ!!」


 

 衛兵たちがどよめき、魔族高官たちが立ち上がる。

 人間側の使者も、混乱の渦に巻き込まれ、応戦の構えを取り始める。


「包囲しろ!」

「殺せーーッ!!」

「いや、殺すな!まだ聞き出す事が──」

「味方か!?敵か!?」

「ケイル様をお守りしろ!!」


 叫び、怒号、衝突。



 止まらない混乱の中、重く、ゆっくりとした足音が近づいてくる。


 皆がドタバタざわめく。その主の姿はまだ見えない。

 だが、近づいてくるその気配だけで、広間の空気が張り詰めていく。


(えっ……これ、まさか)


ケイルの思考も、自然と止まる。



「……何事だ?」



 静かな、だが底知れぬ威圧を帯びた声が、広間の奥から響いた。

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