第7話 怖いけどワクワクが止まらない(凡人視点)
朝露が残る森の中で、ケイルはいつも通り動いていた。
薪を組み、火を起こし、食器を洗い、荷物を並べ直す。誰に頼まれたわけでもない。だが、彼にとっては“これが自分の仕事”だった。
「……よし、準備完了っと」
火がちろちろと揺れる焚き火の前で、ケイルは静かに腰を下ろした。
少し離れた場所では、ユウナが剣を振り、セラが呪文の詠唱練習をし、レオンが巨大な岩を素手で砕いていた。
思わず胸が高鳴る。
(……うーん、やっぱり、あの人たちすごいよなあ)
まるで、子どもの頃に夢中で読んだ“勇者の冒険譚”のようだった。
剣、魔法、戦士、仲間──目の前に広がるのは、物語の中の光景。
そのまぶしさに、自然と目を細めた。
自分は違う。雑用係だ。旅の裏方スタッフ。
そう思っていた。思っていたのに──
(……俺は、ただの雑用スタッフだし。勇者ごっこに関わらないのは当然。うん、分かってる。けど……)
そのときだった。森の奥から、低く唸るような声が聞こえた。
魔物だ。
「ッ……!」
背筋が凍った。見ると、ユウナたちはすでに構えていた。
セラが結界を張り、レオンが前に出る。
ケイルは、荷物と一緒に木陰へ転がり込んだ。
(俺にできるのは、せいぜい荷物を守るくらい……)
だが、敵は“索敵魔法”を使ってきた。あらゆる気配を察知する魔法だ。
しかし──なぜか、ケイルは感知されなかった。
(……バレてない?)
ケイルは動揺する。
だが、その理由は単純だった。──“魔力量ゼロ”。反応値ゼロ。
あまりにも魔力がなさすぎて、魔法のフィルターにすら引っかからなかったのだ。
ただ震えていただけのケイルは、敵の攻撃の流れの中で、偶然にも足元の石を蹴り飛ばしてしまった。
たまたま蹴ってしまった石は、奇跡的に魔物の目の前へ転がる。
「──っ!」
魔物が反応して首を向けた。
ほんの一瞬の隙。その隙を逃さず、ユウナの剣が閃光のように魔物を貫いた。
「よっし! やったわ!」
「さすがユウナさん」
「ふっ……楽勝だな!!」
戦いが終わり、パーティが歓声を上げるなか──
ケイルは、誰にも気づかれないように、そっと木陰から出てきた。
息を吐き、荷物を背負い直し、静かに火の前に戻る。
「……わかってるんだ。俺は戦う立場じゃないって」
自分は裏方だ。それは十分理解している。
戦わないのも、活躍しないのも、当然のことだ。
でも──
「さすがに、情けなかったな……震えてただけの、自分が……」
ぽつりとこぼして、ケイルは一人、寂しげに笑った。
でもその笑いには、近くで“憧れの冒険”に触れているという、小さな誇らしさがあった。
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