第2話 この男、底が知れない──(勇者視点)

「……あの人、今日も朝から全部こなしてるな」


 荷物の整理、朝食の準備、水の補充──

 出発の支度をほぼ一人で済ませたケイルが、焚き火に湯をかけて消すのを、ユウナはちらりと見ていた。


「寝袋もしまってたし、炊き込みまで作ってたぞ。おれら、何もしてねえよな?」


 横でレオンが目を丸くする。



 王が最後に言った一言を、ユウナはいまでも覚えている。


「君たちだけで十分だと、私は信じている。

 ……だが、“どうしようもなくなった時”が来たなら、

 彼の力を借りるといい。」



(……そう、“どうしようもなくなった時”。

 それってつまり──最終兵器ってことだよね?)



 勇者として幾度も命を賭けてきたが、彼のようなタイプには出会ったことがない。


 戦う素振りも見せない。

 魔力も気配も、まるで感じない。

 ──隠している。何かを。


 だからこそ、気になる


 わざと隙を見せている?

 私たちを観察している?

 それとも、あれが“本来のスタイル”なのか──


「にしても……見た目は完全に普通の人よね。強さの“気配”すらない」


 セラの声がわずかに硬くなる。


「ええ。でも、それが逆に怖いのです。何も感じさせない、というのは“本物”によくある……」


“能ある鷹は爪を隠す”──



「……レオンが以前話していた“最後の切り札”説、あり得るかもしれませんね」


「うん。王様がもし、“万が一に備えて用意した”ってことなら……」




「お、おれさ、昨日ちょっと声かけてみたんだよ」


「え?」


 レオンがそっと打ち明けてきた。


「“訓練しないんすか?”って聞いたら、

 “いやー、運動オンチなんで。けがするんでやめときます!”って言われた……」


「……ふっ。どこまで徹底して隠す気なんだろうね?」


 ユウナは笑った。


 何も持っていない“フリ”をして、ただの雑用係を演じている。

 だけどその“徹底ぶり”こそ、何かを感じさせる。底知れなさがある。




 その時だった。


「レオンさん、喉乾いてません? どうぞ」


「──!!」


 ケイルが水筒を差し出す。


「ど、どうしてわかった!?」


「え? どうしてって……」


(……読心術だと!?完全に、見透かされてる……!)


 レオンがそっと肩を震わせた。




 彼は言葉少なで、飄々としていて、妙に人懐っこい。


 だけど、気がつけばいつも先回りしていて、全体を見て動いている。

 もしかして……私たちより、戦い方を知ってるんじゃ……?


 (……いや、そんなはず……)


 そう打ち消した直後に、彼の背がふとこちらを振り返った。

 目が合って、ケイルはにこりと笑った。


 ……やっぱり、油断できない。

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