隣界奪還作戦

エキセントリカ

隣界奪還作戦

『背景情報・用語解説』

【隣界】: 並行世界。我々の世界よりは技術的に発展しているが、全体として平和主義であり、兵器開発等にはほとんどリソースが割かれていない。

【隣界転移現象】: 我々の世界から突如「隣界」に転移する現象。一定期間が経過すると元の世界に再転移(帰還)する。発生機序等は不明。また、転移時に時間的なずれが発生する。

【隣界研究所】: 隣界転移現象及び隣界についての研究機関。

【外界】: 隣界における我々の世界の呼称。

【外界安全管理局】: 隣界において、外界(我々の世界)から転移してきた者(転移者)を帰還まで保護する施設。また、外界の研究も行っている。

【転移装置】: 外界安全管理局が、転移者が技術的に帰還できるように開発した装置。異星人襲来前は、転移者のアドバイスのもと、外界からの軍事的介入のリスクありとして開発は中断していた。

【隣界安全管理局】: 帰還したマルコ・エストラーダからの訴えにより「隣界」を支援するために設立された機関。マルコが持ち帰ったデータカードに保存されていた隣界の技術情報等をもとに、数年で強力な浮遊艦を多数建造。

【浮遊艦】: 隣界の技術により、空中に浮遊する能力を持つ艦船。

【異星人】: ヒアデス星団方面から突如侵略してきた異星人。我々の世界では当時の軍事力により撃退することができたが、隣界では軍備が十分でないため侵略を許してしまった。


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 空間が歪み、重力感覚が狂う。マルコ・エストラーダは以前にも感じた転移の感覚に身を任せながら、また隣界に飛ばされるのかと考えていた。


 足が地面に着く。しかし、その地面は彼が知っているものとは違っていた。


「ここは...隣界なのか?」


 マルコは呟きながら周囲を見回した。以前訪れた時の美しい街並みは跡形もなく、建物の残骸が点在する荒野が広がっている。空は厚い雲に覆われ、遠くで何かが燃えているのか、オレンジ色の光がちらついていた。


「この荒廃は一体...」


 歩きながら状況を把握しようとしていると、瓦礫の陰で人影が動いた。よく見ると、男性が一人、傷を負って倒れている。


「大丈夫か?」


 マルコが駆け寄ると、男性は苦痛に顔を歪めながらも振り返った。


「あ、ああ...すまん。ちょっと肩を貸してくれ...」男性はマルコを見上げて眉をひそめた。「ん?見ない服装だな...どこから来た?」


「旅をしていてね」マルコは男性の腕を支えながら答えた。「それより、ここで何があった?なぜこんなに荒廃している?」


 住人の男性は困惑の表情を浮かべた。「何を言ってるんだ?もう三年もこの状態が続いて...」


 その時、地の底から響くような低い唸り声が聞こえた。住人の顔が青ざめる。


「くそ、奴らだ!あの物陰まで行けるか?」


「ああ」


 二人は急いで建物の残骸に身を隠した。マルコが覗き込むと、空中に浮遊する金属的な物体が複数、地上を這うように移動している。それらは明らかに地球のものではない異形の兵器だった。


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「ちくしょう!回り込まれた!」住人が絶望的な声を上げる。「俺はもうダメだ。あんただけでも逃げてくれ...」


「何を言っている!諦めるな!」マルコは住人を支えながら叫んだ。


 その時、異形の兵器群が突然停止し、空の向こうから強烈な光線が降り注いだ。


「おい、あれを見ろ!奴らが攻撃されているぞ!」


 上空に現れたのは、流線型の美しい浮遊艦だった。船体には見覚えのある紋章が刻まれている。


「助かった...外界安全管理局の浮遊艦だ!」住人が安堵の息を漏らした。


 浮遊艦から通信が入る。


「二人とも無事か!?早く艦内へ!」


 転送光線が二人を包み込み、次の瞬間には艦内にいた。


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「収容できた?」


 ブリッジでは凛とした女性艦長が指揮を執っていた。


「はい、艦長」オペレータが答える。


「よろしい。さっさとこの場を離れるわよ」


 しかし、警報が鳴り響く。


「艦長!6時方向に敵浮遊艦!こちらに向かってきます!」


「ちっ、気づかれたか…」艦長の表情が険しくなる。「機関長、フォールドまでどのくらい?」


「1分ください!」


「30秒だ。操舵手、それまで持ちこたえて!」


「了解!」


 艦体が激しく揺れる中、エンジン音が高まっていく。


「艦長、準備完了しました!いつでもフォールドできます!」


「よし!」艦長が立ち上がる。「操舵手、私の合図で180度転進。3、2、1...今!」


「180度転進!敵艦、正面です!距離100!」


 マルコは息を呑んだ。敵艦に向かって突進するとは、何という作戦だ。


「機関長、準備はいい?」


「いつでも!」


「敵艦距離90、70、60、50...」


「フォールド!」


 空間が歪み、景色が流れ、次の瞬間には全く違う場所に出現した。


「デフォールド完了!フォールド成功。敵艦首部分もフォールドに巻き込まれました!」


「よくやったわ」艦長が微笑む。「それじゃ、おうちに帰るとしましょう」


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「さて」艦長がマルコの前に現れた。「見慣れない服装だけど...名前は?」


「マルコ・エストラーダ」


 副長が何かのデータパッドを艦長に渡す。


「なるほど...外界人ね。記録にあるということは...2回目の転移?」


「そのようだ」マルコは困惑していた。「だが、以前とは全く違っている。何があった?」


 艦長の表情が曇る。「一言でいえば、異星人よ。ある日突然、異星人が攻めてきた。ヒアデス星団の方から来たと言われているわ」


 マルコの血の気が引いた。「ちょっと待て、ヒアデス星団と言ったか?」


「そう」


「馬鹿な...我々の世界にも来たぞ。ただ、撃退したがな」


 艦長が驚いたような表情を見せる。「やはりあなたたちは強いのね。私たちは...」


「艦長、そろそろ到着します」副長が報告した。


「詳しい話は外界安全管理局の人に聞いて。それじゃあ」


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 外界安全管理局の施設で、マルコは状況の詳細を聞かされた。


「...ということだ」局員が重々しく語る。「三年前から続く侵略で、我々の世界は壊滅状態だ」


「そうか...」


「まあ、安心してくれ。君はちゃんと送り返す。数年前に転移装置が完成してね。こんな世界だ、転移してきた人はすぐに送り返すようにしている」


 マルコは複雑な心境だった。助けたい気持ちと、残ったところで自分には何もできないという事実が葛藤していた。


 転移施設で、巨大な装置が作動し始める。


「転移装置起動!共鳴強度上昇...エネルギーバリア崩壊、共鳴ゲート開放。3、2、1...共鳴ゲート開放完了」


「情報伝達開始...完了。次元トンネル接続中...3、2、1...接続完了」


「それじゃ、準備はいいか?」局員が尋ねる。


「ああ、いつでも」


「これを持っていってくれ」局員が小さなデータカードを手渡した。「我々の世界の情報だ。隣界研究所に持っていくといい。君たちの世界で何かの役に立つといいんだが...」


「わかった」マルコはカードを受け取りながら言った。「君たちの幸運を祈っている」


 光の中に消えていくマルコの姿を見送りながら、局員は小さくつぶやいた。


「さらばだ...」


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 **数か月後—隣界**


「左舷武器システム沈黙!船体強度40%に低下!」


 以前と同じ艦長が、今度は絶望的な状況で指揮を執っていた。


「くそっ!機関長、フォールドできるか?」


「機関長は応答できません!フォールド可能まで5分かかります!」


「5分も待てないわ。短距離フォールドは?」


「1回なら。ただ、その後は...」


「イチかバチかね」艦長が歯を食いしばる。「操舵手、私の合図で短距離フォールド!」


「了解!」


「短距離フォールド!3、2、1...今!」


 空間が歪み、別の空域に出現した。しかし—


「10時方向に敵浮遊艦!」


「ちっ!急速転舵、右舷を敵艦に向けて!」


 万事休すかと思われたその時。


「艦長!3時方向に強い共鳴異常!次元トンネルが開いてます!」


「今度は何!?」


「何か来ます!大きい...浮遊艦!?」


 現れたのは、見たこともない巨大な戦艦だった。いや、戦艦というより要塞に近い。


「万事休すね...」艦長が諦めかけたその時—


「正体不明の浮遊艦発砲!敵艦沈黙!正体不明の浮遊艦、多数出現!敵艦を砲撃しています!」


「どういうこと...?味方なの?」


「通信が入っています!」


「つないで!」


『こちら、隣界安全管理局特命艦隊旗艦ヘリオトロープ。支援に来ました』


 艦長は息を呑んだ。「隣界...安全管理局?」


 通信画面に映ったのは、見覚えのある男性だった。


『やあ、艦長。遅くなって済まない』


「マルコ・エストラーダ...?」


『強力な騎兵隊の到着だ』マルコが微笑む。『さあ、奴らをぶっ飛ばすぞ!』


 頼もしく響く砲撃音と共に、新たな戦いが始まった。今度は希望と共に。


 ---


 **終わり**

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