テレパシーで妄想が伝わってた

堀と堀

プロローグ

第1話 妄想が伝わってた

 星野ほしの華久良かけら──同じクラスの子、斜め前の席。

 基本真面目だけど、たまに授業中ボーっとして、シャーペンを指に突き刺してる。

 髪がつやつやしてて、耳が少し大きい。

 

──私は時折、想像する。

 あの綺麗な髪に顔をうずくめて、背中から抱き着きたい。

 彼女の細い体は、でもきっと何か素晴らしいものに満ちてるだろう。

 ちょっとハスキーな声で、くすぐったそうな声を漏らすに違いない。

 頬を寄せれば、ちょっと病的なぐらい白い顔が見える。

 不思議な目をしている。いつも眠そう。

 いつも周りとは、ちょっとタイミングが遅れていて、どんくさい。



 退屈な授業も、華久良のことを思っていると、すぐに終わる。

 彼女の呼吸に合わせて、同じように、時折ボーっとしていれば。

 教科書を片付けて、次の授業は──生物か。移動だ。準備をしていたら。

「どんくさくてごめんね」

 見上げると──黒い髪の間からこっちを除く華久良の顔がある。

「星野さん、どうしたの?」

「いや……なんか、色々言ってくるから」

 物憂げな表情だった。あんまりはっきりしない言い方。

「……は?」

 色々言ってくるからって何?

「は? ってこっちが言いたい」

「いってもいいよ」

「は? ……じゃなくて、何? なんか私に文句でもあるの? 嫌がらせ?」

「何の話?」

「だってなんか……『あいつはいつもおかしな行動をしてる』とか、『眠そうだしどんくさい』とか……挙句の果てには『あいつの首を絞めてやろう』とか……」

 思い当たる節はある。

「まあ、前二つは当たってると思うけど、でもさすがに襲うまではしなくてもいいじゃん」

「あー……」

 なにこれ。私の想像が伝わっちゃってた? 

 凄くネガティブな方向に解釈されちゃってるけど。

「私まさか……声に出してた?」

「いや、多分……だって、言ってたら流石にみんなびっくりするでしょ? 私には聞こえたけど。私も『これ私にだけ聞こえてんのかなぁ?』って」

「星野さんって意外と良くしゃべるんだね」

「富良野達、カギ閉めて言い?」

 鍵当番の男子がカギをくるくる回して、扉の所で待っていた。

 いつの間にか皆、教室を出て、私達しか残ってない。


「ああ、うん、今出る」

 教科書を持って星野さんと扉に向かう。

「ごめんね」

 男子の隣を通って廊下へ。星野さんもちょっと顔を伏せて恥ずかしそうに。

「星野さんって童貞?」

「さっきからホントに何なん? 喧嘩売ってんの?」

「なんか、男子慣れしてない」

「処女? って聞いて」

「処女?」

「うん、処女」

「素直だね。威厳すら漂ってるわ」

「ありがとう」

「なんか異性への反応が童貞みたい。逆童貞」

「変な愛称つけんな」

「安心して、私も処女だから」

「一緒にされたくない……」

「私友達いないし、星野さんもいないでしょ」

「悲しい二人が出会ってしまった」

「うちら何かの話をしてたよね?」

「私にだけ声が聞こえる話?」

「ああそうだ」

「テレパシーかな」

「……うち超能力者?」

「私にだけ悪用しないで。ボッチがつぶし合ってもなんも良いことないって」

「ね」

「適当な返し……前から私のこと、頭の中でいじめてたでしょ?」

「別にいじめてはないけどね。ごめん、嫌な思いさせてた?」

「別に……嫌いじゃないけど」

 ツンと唇を向けるけど、少し照れたように頬を赤らめる。


「ウチらこのペースで歩いてたら遅刻すると思う」

「わ、マジじゃん。急ごう」

 スマホを見て走り出した華久良の腕をつかむ。

「道ずれにしてやる」

「ねえ、ホントにふざけないで」

「おら!」

「袖伸びるから! 離して」

「君たち廊下でふざけるのはやめなさい。もう授業始まるぞ」

 歩いて来た体育の先生っぽい先生に怒られる。

「あーあ、星野さんのせいで怒られた」

「小学生以来だこんな怒られ方したの」

「中学生から友達がいなかったから」

「いたわ。中学はいた」

「えーすご」

「え……中学からずっとボッチ? 可哀そう」

「自分も友達出来てから憐れんでよ」

 今はアンタも同じでしょ?

「あ、私か? 私が新たな友達か? やったじゃん、良かったね!」

 肩に手を回す。

「触ってくんな」

 嫌がる華久良。

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