第25話 おしまい
手を差し出すと、篝はほんの少し目を泳がせた。
ためらうように手が上がりかけたけど——すぐに下ろされて、わたしの手を取ることはなかった。
「許してもらおうなんて、虫がいいことを考えてない。……私はアンタらより大人だから」
顔を上げることもなく、篝はダンジョンから姿を消した。
一件落着。そんな気がしなくもなかったけど——胸のどこかに、モヤっとしたものが残った。
*
あれから数日。篝のSNSは更新されていないらしい。
直接確認したわけじゃないけど、ネットではそこそこ騒がれてるみたい。
それでも、うわさになるくらいには更新がないんだと思う。
その一方で、エスメラルダさんはめちゃくちゃ元気だ。
国内トップ配信者の称号は伊達じゃない。
黒焦げになっていた翌日には、もう何事もなかったかのように配信を再開していた。
毎日2時間以上、土日はなんと8時間近く配信していて、本当に桁違いだと思う。
そのタフさには言葉も出ない。
「中毒ってレベルだよ、あれは」
朔ちゃんはそう毒づいてたけど——ほぼ毎日コンスタントにダンジョン潜って配信してる朔ちゃんも、わたしからすれば似たようなものだったりする。
……まあ、本人には絶対ナイショだけどね。
篝のことについては、どっちの配信でもほとんど触れられていない。
ファンの間でも、自然とスルーされてるみたいで、問題なく活動できている様子。
ある意味、大人な対応……なのかもしれない。
「優、お昼にするわよ」
りんねちゃんの声にふっと顔を上げると、お弁当を片手に、腰に手を当てて立っているりんねちゃんと目が合った。
見下ろすような視線は、いつものことだけど——でも、なんだか表情が柔らかい気がする。
どうやら、もうそんな時間らしい。
授業にはちゃんと集中してた……つもりなんだけど、
タフなおふたりとは違って、わたしは普通に疲れてる。
だからか、先にぴくっと反応したのは——
「りんね……」
朔ちゃんだった。
ちょっと低めの声。
獲物を狙うみたいな目でりんねちゃんを見据えながら、わたしの首に腕を回してくる。
「なあに、朔ちゃん?」
「んーん。なんでも」
朔ちゃんはつむじの上にあごを乗せてきた。
そのせいで朔ちゃんが今どんな顔か見えない。まるで、わざとそうしているみたい。
「な、なによ。あんたを省こうなんて思ってないから! 優の席が近かっただけで、それ以上でも以下でもないってば!」
「……」
「ちょ、ちょっと! なんか言いなさいよ! ていうか、なんであたしだけ呼び捨てなのよーっ!」
りんねちゃんが叫ぶけど、朔ちゃんは何も言わずにじっと見ているだけ。
でも、その沈黙が妙に圧を放ってて——りんねちゃんは、観念したようにため息をついた。
「……わ、わかったわよっ」
なにが「わかった」のか、わたしにはまったくわからないけど、
なんとなく、ふたりの間で合意が取れたっぽい。
りんねちゃんは、それ以上なにも言わずに机を動かして、わたしの前に座った。
ちょっとだけ間を置いてから、朔ちゃんもイスだけ持ってきて、わたしの隣へ。
そして、なにも言わずに——得意げにアヒル口でニヤリ。
その顔を見たりんねちゃんが、苦々しそうに目を細めた。
「……なんか、最近ふたりの仲良くない? いつから? なにがあったの?」
「「よくない!」」
ぴったりハモった声に、わたしは思わず笑ってしまった。
息ぴったりじゃん。
ぜったい仲いいじゃん、もう。
ちょっとだけ、うらやましい。
……でも、りんねちゃんも最近、なんだかんだでお菓子くれたり、よく気にかけてくれるし。
もしかして、心境の変化とか、あったのかも。
少し前までは、こんなふうにゆっくり食べる昼休みなんて想像できなかった。
それも、りんねちゃんと一緒に。
いまも決して静かってわけじゃないけど、外の強すぎる日差しとはうらはらに、ここはなんだか——あったかい。
「どうしたのお義姉ちゃん? ぼーっとして」
「ううん。なんでもないよ」
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ここまでお読みいただきありがとうございました
文体から書き方から模索しながらですが百合作品を書き切ることができました
今後ももう少し百合系の作品へ挑戦できたらと考えています
まだまだ書けてないジャンルがありそうですからね
ぜひよろしければ作者フォローをしてお待ちいただけたら!
次作
「学園最強のツンデレわかめ使いと同室になったけれど、一番になんて興味ない私はいったいどう接したらいいだろう」
推しのダンジョン配信者が妹になった義理の姉妹の話 川野マグロ(マグローK) @magurok
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