翌朝、私は寝台の上で大きく伸びをした。清々しい朝だ。今日の「練習」は何にしようか。アルフォンス王子には、まずは「ボケ」の種類を認識してもらうことから始めるべきか。それとも、「間」の取り方を教え込むべきか……🤔 私の頭の中は、既にお笑い芸人のネタ会議で埋め尽くされている。

「お嬢様、朝のご用意が整いました」

物音ひとつ立てずに、メイド長のフローラが部屋に入ってきた。彼女は亜麻色の髪をきっちりまとめ、その顔には一切の感情が窺えない。セバスチャンに匹敵する、いや、ある意味彼以上の「無」のリアクションスキルを持つ、手強い相手だ😏

フローラは、私が前世から持っていた数少ない常識の一つ、「悪役令嬢」としての行動パターンを完璧に熟知し、それを私に忠実に実行させる役割を担っている。つまり、私の「お笑い芸人」としての活動を、最も邪魔する存在だ😩

「ええ、分かっているわ。今日は王宮での茶会があるから、いつもより入念に準備を頼むわね」

私は優雅に微笑み、フローラに答えた。口元は悪役令嬢、心の中は「今日の茶会、どんなネタが落ちてるかな」とワクワクしている☕

しかし、フローラは私が着替えを終え、豪華なドレスに身を包んだ後も、部屋に留まっていた。彼女の視線が、私の机の上に置かれた一冊のノートに向けられている。ハッ、しまった！😱

それは、私の「お笑いネタ帳」だった。前世の知識を総動員して、漫才の台本や大喜利のお題、ツッコミのパターンなどがびっしりと書き込まれている、私の命ともいえる聖典だ。

「お嬢様、このノートは……？」

フローラは、感情のこもらない声で尋ねた。彼女の瞳が、僅かにノートのページを捉えている。まずい、中の文字を読まれる前に何とかせねば！💦

「な、何でもないわ！ これは、私の『詩集』よ！ そう、高貴な令嬢として、時には詩を嗜むことも必要でしょう？ 今朝、たまたま書き上げたばかりの、渾身の作なのよ！」

私は、とっさに悪役令嬢モードを全開にして言い放った。だが、自分で言っていて無理がある。私の「詩」は、明らかに「笑い」を求めている。

「詩集、ですか。お嬢様がそのようなご趣味をお持ちだったとは、存じ上げませんでした」

フローラは、ノートに手を伸ばした。彼女の細い指が、表紙に触れる。その瞬間、私は閃いた！💡

「触るな！ フローラ！ それは、まだ誰にも見せてはならぬ、秘められたる心の叫びなのだから！」

私は、オペラ歌手のように両腕を広げ、ドラマティックに叫んだ。そして、わざとらしく目を潤ませ、遠い目をする。

「特に、あの王子には、決して見せてはならないわ……！ 私の、この、抑えきれない『情熱』を、彼が知ってしまったら、きっと……きっと、私の心を奪い去ってしまうだろうから……！」💖

そう言って、私はノートを胸に抱きしめ、頬を赤らめた。完璧な「乙女の秘密」演技だ！ 我ながら、アカデミー賞ものだぞ！🏆

フローラは、私の演技を微動だにせず見つめていた。そして、ゆっくりと手を引っ込めた。

「……かしこまりました。お嬢様の『詩集』は、厳重に保管させていただきます。王子様にも、この件は決して他言いたしません」

彼女の表情は、相変わらず無表情のままだったが、その声には、僅かに「理解不能」という感情が滲んでいるように聞こえた。よし、成功だ！ セバスチャンに並ぶ鉄壁の守りを誇るフローラの目を欺けたぞ！😂

しかし、フローラが部屋を出ていく間際、彼女の背中が、ほんの少しだけ、震えているように見えたのは、気のせいだろうか。まるで、肩を震わせて笑いを堪えているかのような……。

私は、慌てて「お笑いネタ帳」を隠した。やはり、まだまだ修行が足りない。この屋敷のメイドや執事は、私の「ボケ」に対する耐性が高すぎるのだ。

「フフフ……しかし、これでまた一つ、王子の心を惑わす『伏線』が張れたというものよ」

私は、ニヤリと笑った。この「詩集」の件、いつかどこかで、アルフォンス王子を巻き込む「ネタ」として回収してやる。それが、私の「お笑い悪役令嬢」としての流儀だ😏