王国の女騎士、ハーブティーに敗れる
ハース村に店を構えてから三日目。
朝露の残る畑でミントを摘み終えた俺は、縁側でティーを淹れていた。
「……うーん、今日のマーナミントは香りが強いな」
ティーカップに熱湯を注ぎ、葉を浮かべると、ふわりと甘い香りが広がる。
これを飲みながら朝日を浴びる。それだけで、前世で失っていた“生きてる実感”が戻ってくる気がした。
「――これが幸せってやつか」
そう思った矢先、
コンコン
「……また誰か来たか」
まさか昨日の毒騎士が噂を広めたのか? 嫌な予感しかしない。
ドアを開けると、案の定というべきか――
今度はピカピカの甲冑を着た金髪の女性が立っていた。
「お前が、“癒しの薬草師”か」
……また騎士かよ。
彼女の名前は、エリア・ルナフィール。
王国直属の聖騎士で、王女の護衛まで務めたという超がつくほど真面目な人らしい。
「私の部隊が山で魔獣に襲われた。兵の半分が重傷を負っている」
「で?」
「貴様の噂を聞いた。……助けてほしい」
うわ、丁寧だけど若干上から目線だこれ。
「うーん……じゃあ、まずお茶でも飲んで落ち着こうか」
「……は?」
俺は彼女を中に通し、庭で採ったばかりのミントとセージをブレンド。
ほんのり魔力を込めて仕上げると、金色のカップに注ぐ。
「“ヒーリング・ブレンド γ”だ。まあ飲んでみてよ」
「……茶など飲んでる場合では――」
「飲んだら説明する。飲まないなら帰っていいよ?」
エリアは少し睨んだあと、カップを手に取った。
「……いただく」
一口、そして――
「……っ!?」
目を見開く。喉を通った瞬間、身体がほわっと温かくなるのが分かったらしい。
「これ……魔力が、流れ込んでくる……」
「副作用なし、眠気促進、血行改善。たぶん兵の疲労回復にもなるよ」
「……お、お前、本当に何者なんだ……?」
「ただの草好きだよ。薬草とスローライフの民さ」
「いや、民じゃない。お前……完全に別格だ」
その後、彼女に持たせたポーションとハーブティーをもとに、
彼女の部隊は全員無事に回復したらしい。
「……感謝する。王国としても、正式に礼を……」
「いらないいらない。あんまり目立つと面倒だし」
俺は笑って彼女を見送った。が、これが騒動の始まりだった。
◆ 翌日:村人たちの変化
「レンくん、あのね! 私の腰痛、治ったの!」
「レン殿、ワシの孫が寝つき良くなったそうじゃ!」
「ポーション、もうちょっと分けてくれないかのう?」
「……えぇ……また増えてる……」
ハース村の中で、俺は完全に薬草の神様扱いになっていた。
いやいや、俺はただの薬草オタクだって言ってるじゃん……!
◆ 夜:静寂のティータイム
「……はぁ、今日も疲れた」
夜の縁側で一人、紅茶を飲む時間だけが、俺の癒しだ。
月明かりの下、静かに湯気が立つカップ。
香りは“アロマ・ナイトブレンド”――ラベンダーと銀葉草を混ぜた安眠系だ。
「明日は誰も来ないといいなぁ……」
そう呟いたその瞬間、
――また扉がノックされた。
「……え、今何時?」
俺はため息をつきながら、ドアへと向かった。
扉を開けると、そこには――
小さな獣人の少女が、ボロ布を纏って震えていた。
「……おにいちゃん、ハーブ……ください……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます