第15話:支配下への道、深まる絆
雄太のプロとしての挑戦は、
二軍での実戦経験を積むことで、
いよいよ本格化していった。
育成選手である彼にとって、
支配下登録は、何よりも大きな目標だ。
そのためには、結果を出すしかない。
その重圧は、計り知れないものがあっただろう。
けれど、雄太は、その重圧を力に変えていた。
二軍の試合は、一軍のような華やかさはない。
観客席はまばらで、
熱狂的な声援も少ない。
それでも、私は、
雄太が出場する試合には、
できる限り足を運んだ。
スタンドから、彼の背中を見つめる。
打席に立つ姿、
マウンドで投球練習をする姿。
その一つ一つが、私には、
まぶしく、そして誇らしかった。
彼の投球は、日を追うごとに安定感を増していた。
ストレートの球速は、
プロの打者相手でも通用するレベルになり、
変化球のキレも増している。
打者としては、
鋭い打球を飛ばす場面が増えた。
まだ粗削りな部分もあるけれど、
彼の持つポテンシャルの高さは、
誰の目にも明らかだった。
ある日の試合後、
雄太がベンチに戻ってくるのを待っていた。
彼の顔には、汗と土がついていたけれど、
その目は、達成感に満ちていた。
「今日のピッチング、どうだった?」
彼は、少し照れたように私に尋ねた。
「最高だったよ!
雄太がマウンドに立つと、
空気が変わるんだから」
私がそう言うと、彼は嬉しそうに笑った。
その笑顔が、私にとっての何よりの報酬だった。
佐々木コーチも、
雄太の成長を高く評価してくれていた。
「雄太くんは、本当に吸収が早い。
二刀流という難しい挑戦なのに、
着実に結果を出している」
佐々木さんが、そう言ってくれるたびに、
私は自分のことのように嬉しかった。
彼の努力が、報われている。
その事実が、私を奮い立たせた。
夜、マッサージをしながら、
雄太は今日の試合の反省点や、
次の試合に向けての課題を話してくれた。
彼の言葉からは、
常に上を目指す向上心が感じられた。
「もっと、変化球の精度を上げたいんだ。
あと、バッティングも、
もっと安定させないと」
彼の言葉を聞きながら、
私は彼の筋肉をゆっくりと解していく。
彼の体から伝わる熱が、
彼の野球への情熱を、
私に教えてくれるようだった。
鈴木さんの存在も、
雄太の大きなモチベーションになっていた。
テレビで鈴木さんが活躍する姿を見るたびに、
雄太の目は、さらに輝きを増す。
「あいつには、まだ負けられない」
そう呟く彼の言葉には、
ライバルへの意識と同時に、
同じ道を歩む者としての、
深い共鳴が込められているように感じた。
彼もまた、二軍での苦労を乗り越えて、
一軍に返り咲いた。
その鈴木さんの存在が、
雄太をさらに高みへと押し上げていた。
ある日、雄太が、
「支配下登録まで、あと少しだって、
コーチが言ってくれたんだ」
と、興奮した声で私に告げた。
その言葉を聞いた瞬間、
私の心臓は、大きく跳ね上がった。
夢にまで見た、支配下登録。
それが、もう手の届くところまで来ている。
私は、雄太の手をぎゅっと握りしめた。
「すごいね、雄太!
本当に、すごいよ!」
私の目からは、自然と涙が溢れ出した。
喜びと、安堵と、
そして、これまでの彼の努力を思うと、
涙が止まらなかった。
雄太は、そんな私を優しく抱きしめた。
「美咲がいてくれたからだよ。
いつも支えてくれて、ありがとう」
彼の温かい言葉に、私はさらに涙が止まらなくなった。
私たちが、二人で歩んできた道。
決して平坦ではなかったけれど、
こうして、夢の入り口まで来ることができた。
彼の腕の中で、私は、
この上ない幸福感に包まれていた。
支配下登録が近づくにつれて、
雄太の練習への集中力は、
さらに増していった。
朝早くからグラウンドへ向かい、
夜遅くまで自主練習を続ける。
彼の体は、疲労の限界に達しているはずなのに、
彼の目は、決して諦めることを知らない。
私は、そんな彼の姿を見るたびに、
胸が熱くなった。
彼の夢が、もうすぐ叶う。
その思いが、私を支えていた。
オフの日には、二人で将来の夢を語り合った。
「一軍に上がったら、
美咲を招待するからな。
最高のピッチングと、
最高のホームランを見せるよ」
雄太が、そう言って笑った。
その言葉を聞くたびに、
私の胸は、期待でいっぱいになった。
彼が一軍のマウンドに立つ日。
彼が、プロとして、
輝かしい舞台で活躍する日。
その日が来ることを、
私は何よりも楽しみにしていた。
彼の夢は、もう彼の夢だけじゃない。
私と、そして彼の周りの大切な人たちの夢になっていた。
彼の挑戦は、私にとっても、
人生を賭けた挑戦だった。
この先に何が待っていようと、
私は彼と共に、この道を歩んでいく。
そう、心に誓った。
雄太の穏やかな寝息が、私の心を包み込む。
私は彼の隣で、静かに目を閉じた。
私たちの物語は、
いよいよ新しい章へと突入しようとしていた。
彼の夢が、私の夢になるまで。
その道のりは、まだ始まったばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます