冗談

ヤマ

冗談

 この世で一番怖いものは、退屈かもしれない。


 考えるしかない時間というのは、そういう意味ではなかなかの地獄だ。




 例えば、いつから人は「暇潰し」と言い出したのか。


 暇は、「潰す」ものらしい。

 まるで敵対関係だ。

 おかしな話じゃないか。


 暇が攻めてくるのか。

 それとも、こちらが先に殴るのか?




 それにしても、妙に静かだ。

 耳鳴りのような音しか聞こえない。

 いや、耳鳴りではないか。

 もっと、こう……、低く、くぐもった、何かが頭の中を這うような音。




 とにかく、思考するしかない。




 そうだ、これはきっと冗談だ。

 壮大なドッキリ番組で、今、俺はそのターゲットにされている。

 きっと、カメラの向こうで、誰かが笑っている。

 そろそろ、パネルを持った仕掛け人が現れる頃だろう。


 ……そういえば、あれの名称はパネルで良いのか?

 形的には、立て札かな。

 それとも、看板か?




 ……ネタバラシはまだか?

 尺が足りないのかな?




 まあ、良いや。

 冗談をもう一つ考えてみよう。




 例えば、自分がとんでもない状況に置かれているのに、それを笑い話にして誤魔化そうとする男がいたとする。


 彼は考える。


 これは夢だ。

 目覚めれば終わる。

 起きたら、自分は蝶だった。

 よし、今すぐ眠ろう!




 ――なんてね。




 面白くないか。


 そうか。




 それにしても、息がし辛い。

 空気が……、重い。

 違うな。

 薄いのか。

 粘度が高く、うまくストローで吸えない、シェイクみたいに。




 落ち着け。


 きっと目を開ければ、すべてが変わる。


 そう思って、俺は瞼を開いた。




 開かない。




 何かが――瞼の上に、重くのしかかっている。


 圧迫感。


 冷たく、ざらついたもの――




 だめだ。


 これは、考えちゃだめなやつだ。


 俺は、思考を止めようとした。


 だが、もう遅かった。






 指先は僅かに動く。


 けれど。


 肩も。

 脚も。


 すべてが、固定されている。


 重みと圧力。


 周囲を囲む、無音の重圧。


 いや、音はある。


 耳鳴りではなかった。

 静かに、乾いた音がする。


 耳元で、細かな粒が落ちる音。




 砂だ。




 どこからか、隙間を見つけて、降り注いでいる。




 考えるのをやめたら、終わりだ。


 冗談を考えよう。


 そうだ、こんな冗談はどうだ。






 一番の地獄は、冗談を考えるしかない程、孤独な棺の中だった。








 ……面白くないか。








 だろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冗談 ヤマ @ymhr0926

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説