第12話 子供たちの眠りを見守る優しいあやかし2

「ここがそうなのか?」


『うん、ここだよ! ここはもう使わない保育園で、新しい保育園に行くまで? 子供はみんなお休みなんだって。晴翔を呼んで欲しいって言ったあやかしも、一緒に引っ越しするんだけど、まだここに居るんだ。ささ、こっちにくれば、中に入らなくても話しができるよ』


 ヒビキに連れられ、俺とシロタマとカエンが連れて来られたのは、ひまわり保育園という保育園だった。


 ここへ来るまでに、ヒビキに話しを聞きながら、そしてちょっと調べながらきたけど。ヒビキの話し通り、ひまわり保育園は、もうすぐ別の場所へ移転するようで。

 そのため今保育園は休みになっており、入り口はしっかりと施錠されていた。ただ、まだ荷物は運び終わっていないのか、そこら中にいろいろな物が置いてあったよ。


 そんな様子を見ながら、さらに連れて行かれたのは、保育園の裏だった。保育園は、裏でも遊べるようになっており。子供達のおもちゃや、砂遊び用の道具などが、箱に入れられた状態で置かれている。

 

 花壇には花はなく、おそらく引っ越しをするからと、かたずけてしまったか。もともと引っ越しに合わせて、植えていなかったんだろう。


 そうして、そんな保育園の裏の右側の方。1番大きな木の前に、そこそこ大きな池があった。どうやらあの池に、俺を呼んだあやかしがいるらしい。


『こっちこっち。ほらここだと、他から見えにくいから、みんなが話すにはちょうど良い場所だ。ここで待ってて、今呼ぶからね。お~い! 晴翔を連れてきたよ!! 起きてるぅ!?』


 柵によじ登り、池に向かって声をかけるヒビキ。するとすぐに水面が揺れ、ゆっくりと甲羅が浮かび上がった。そしてひょこっと顔が出て、そのまま池から出ると、俺たちの方へゆっくりゆっくり近ずいてきたよ。


『守亀だな』


「守亀?」


『ああ。穏やかで寡黙なあやかしだ。甲羅に力が宿っていて、その力で災厄を遠ざける。ここに住んでいるのか?』


『うん、ここができてから少しして、ここで暮らし始めて。それからずっとここで暮らしてるって言ってたよ』


『なるほど、ここの子供たちを守っている感じか』


 ここができてからって事は、もう何10年もここに住んでるのか。守亀について聞いているうちに、俺たちの前までやって来た守亀。ぺこんと頭を下げて自己紹介をして来た。


『初めましてじゃの。わしは守亀のサブロウじゃ。子供たちは皆、サブロウじいちゃんと呼んでおる。お主らもサブロウじいちゃんと呼んどくれ。お主が由伸の孫の晴翔かの』


「ああ、俺が晴翔だ。初めまして。じいちゃんを知ってるのか?」


『まぁのう、わしはかなり昔から、この町で暮らしておるし。皆から話しは伝わってくるからの。それに夜、時々抜け出して、夜の町を楽しむんじゃ。その時に人間たちの会話を聞いて、いろいろ情報を仕入れとるんじゃよ。この前はキャバクラちゅう所に遊びに行ったぞい』


「キャバクラ!? 亀、いやあやかしはキャバクラに入れないだろう?」


『小さくなれるんでな。見つからないように小さくなって、開いてたドアから入った。いつも開いているドアは決まっておるからの。それでこそっとお酒も飲ませてもらった。楽しかったぞい』


 なんかシロタマから説明された時に。子供を守ってくれる優しいあやかしなのかと思ったけど、キャバクラ!? あやかしってみんなお酒が好きなのか? ニコニコのサブロウじいちゃん、よほど楽しかったらしい。


「ああ、そう。楽しかったなら良かったな……。ふぅ、それじゃあ、早速なんだけど、俺に頼みがあるって聞いたんだけど、その頼みを聞かせてくれるか?」


 本当はじいちゃんたちの手伝い予定だったけど、カエンがじいちゃんに、俺に話しを聞いて欲しい人がいるって言ってくれて、今俺はここまで来ている。話しの内容によっては、さらにじいちゃんに迷惑をかける事になるかもしれないから、しっかりと聞かないとな。


 サブロウじいちゃんの話しは、ひまわり保育園の子供達のお昼寝の話しから始まった。


 ひまわり幼稚園では昔から昼寝の時、あるぬいぐるみを子供たちに持たせて、お昼寝をさせているようで。園長先生の話しでは、そのぬいぐるみを持たせる事で、子供たちが安心し、ぐっすりお昼寝できるんだとか。


 そのぬいぐるみとは、園長先生が考えた、サブロウじいちゃんのそっくり亀のぬいぐるみだった。


 若かりし頃の園長先生は、前任の園長先生も気づかないうちに住み着いていた、子供たちに大人気のサブロウじいちゃんを見て、これならと思ったらしい。


 実はそれまでお昼寝の時は、まぁまぁ大変で。みんながみんな、静かに寝てくれるわけもなく。お昼寝の時間なのに、あっちへこっち走り回ったり、やっとお布団に入ったと思ったら、今度は隣の子とケンカを始めたり。他にもいろいろと大騒ぎだったと。


 そうなると、先生の話しもなかなか聞いてくれず、やっと全員が寝たと思えば、昼寝の時間が終わりっていう。先生たちはお昼寝の時、ぐったりしていたようだ。まぁ、子供はそう簡単に寝てくれないよな。


 そんな時、今の園長先生が気づいたらしい。みんなサブロウじいちゃんと遊んでいる時は、落ち着いて遊んでいるし、ちゃんと先生の言うことを聞いてくれる? と。


 もちろん子供たちは、サブロウじいちゃんと元気には遊ぶよ。子供は遊ぶのが仕事だからな。その遊ぶ姿が、サブロウじいちゃんも好きだって。


 だけど、みんな大好きなサブロウじいちゃんを子供ながらに、雑に扱ってはいけない、優し接しなければいけないって分かっていて。だからみんな落ち着いているし、落ち着いているから、先生の話しも聞こえるわけで。


 そこで園長先生は、サブロウじいちゃんのぬいぐるみを作る事にした。業者に頼んで人数分作って貰ったらしい。そうして出来上がったぬいぐるみは、サブロウじいちゃんそっくりで。


 そしていざ、子供達にお披露目の時が。お披露目はお昼寝前に行われた。


「みんな、今日はサブロウじいちゃんから、みんなにプレゼントがあります。みんながお昼寝の時も、サブロウじいちゃんと一緒にいられるように。サブロウじいちゃんがみんなに、ぬいぐるみをくれました!!」


 その時の盛り上がり方は凄かったと。それまでの昼寝前で、1番の騒ぎだったらしい。でもその後の園長先生の言葉で、状況が変わった。


「お池にいるサブロウじいちゃんも、これからこの亀のぬいぐるみさんたちも、みんなお昼寝の時間みたいなの。だからサブロウじいちゃんと亀のぬいぐるみさんたちが、いっぱいお昼寝できるように、みんなも一緒に、静かにお昼寝しましょう! みんなお昼寝できるかなぁ?」


「じちゃとねんね」


「あっくん、ねんねできりゅ!」


「ねんね?」


「ねりゅ!!」


 お兄ちゃんお姉ちゃんたちが率先して寝始めると、それを見ていた小さな子たちが真似をして、みんなでお布団の中へ入り、静かにお昼寝をしたらしい。


 そしてその時の姿を、お母さんお父さんたちに見せると。家で安心し切って、お腹を出している時と同じだ。ここまでぐっすり寝ているなんて、よほどあのぬいぐるみが安心できるんですね。と感心されたんだ。


 サブロウじいちゃんぬいぐるみ、効果的面だった。こうしてそれ以降、この保育園では、サブロウじいちゃんぬいぐるみと一緒に寝るようになったと。


『じゃがのう、ついにわしの出番も終わりらしいんじゃ』


「終わり?」


『少し前、新しいぬいぐるみが届いたんじゃ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る