第6話 試される力
冷たい石の床に横たわり、カイは静かに目を閉じていた。
地下牢に拘束されてから、どれほどの時間が経っただろうか。食料と水は定期的に運ばれてくるが、それ以外に変化はない。ただ、静かに、思考を巡らせる。
【能力吸収(スキルテイカー)】。この力は、確かに自分を「最弱」から解き放った。だが、同時に、自分を「異物」へと変えた。
ヴァルガス司令の視線。兵士たちの囁き。それらは、カイがこれまで生きてきた中で、何度も経験してきたものだ。だが、今回は違う。彼らの目には、侮蔑だけでなく、明確な「恐怖」が宿っていた。
やがて、地下牢の扉が再び開く。入ってきたのは、ヴァルガス司令と、数名の兵士だった。
「カイ。貴様の言葉が真実かどうか、試させてもらう」
ヴァルガス司令は、カイの枷を外すよう命じた。そして、カイを基地の訓練場へと連れて行く。
訓練場には、すでに多くの兵士が集まっていた。彼らの視線が、一斉にカイに注がれる。好奇、警戒、そして、嘲笑。
「相手は、我が基地で最も腕の立つ兵士の一人だ。手加減は無用。貴様の『覚醒した力』とやらを、存分に見せてみろ」
ヴァルガス司令の言葉に、一人の兵士が前に進み出る。がっしりとした体躯に、歴戦の風格。彼は、基地の兵士たちの中でも、特に信頼の厚いベテラン兵士だった。
「お手並み拝見と行こうか、二等兵」
ベテラン兵士は、剣を構える。その動きには、一切の無駄がない。カイは、冷静に相手の動きを観察する。彼のスキルは【剣術 Bランク】。そして、【身体強化 Cランク】。カイが持つスキルよりも、ランクは上だ。
開始の合図と共に、ベテラン兵士が踏み込む。その剣は、まるで嵐のようにカイへと襲いかかる。カイは、紙一重でその攻撃を避ける。その動きは、まるで予知しているかのようだ。
【身体強化】で身体能力をブーストし、【剣術】で相手の剣を捌く。カイの動きは、流れるように滑らかだ。そして、隙を見つけては、相手の魔石の位置へと短剣を突き立てようとする。
ベテラン兵士は、カイの動きに驚きを隠せない。彼の攻撃は、全て見切られているかのようだ。そして、カイの短剣は、常に自分の急所を狙ってくる。
「なっ……!?」
カイは、ベテラン兵士の剣を弾き、その体勢を崩す。そして、その隙を逃さず、相手の胸元へと短剣を突き立てる。寸前で、ベテラン兵士は体を捻り、致命傷を避けた。だが、その胸元には、血が滲んでいた。
模擬戦は、カイの勝利で終わった。
訓練場は、静まり返っていた。兵士たちの顔には、驚愕と、そして、明確な「恐怖」が浮かんでいた。
「あいつは……本当に人間なのか?」
誰かが、震える声で呟く。その言葉は、訓練場全体に響き渡った。
ヴァルガス司令は、カイをじっと見つめる。その目には、もはや疑念の色はない。あるのは、彼の力を認めざるを得ないという、苦渋の表情だった。
「……分かった。貴様の力は、確かに本物だ」
ヴァルガス司令は、そう言うと、カイに背を向けた。そして、静かに呟く。
「貴様には、より危険な任務を与えよう。貴様の力を、この基地のために使ってもらう」
カイは、無言でその言葉を受け止める。彼の灰色の瞳は、静かに、次の戦場を見据えていた。
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